ロブスター(2015)

原題は「The Lobster」

冒頭、雨の中車が牧場に着くと女が降りて一頭のロバを撃ち殺します

その後この「ロバを撃った女」は一度も登場しません

場面は切り替わり、主人公デヴィッドコリン・ファレル)の面接シーン

デヴィッドは妻が別の男と出て行ったため、ホテルに連行され

ホテルの支配人(オリヴィア・コールマンから

45日以内に新しいパートナーを見つけなければ

動物に変身させられると説明されます

デヴィッドの飼っている犬は兄のボブで、事情をすぐに察します

そして、もしパートナーを見つけられなければ

何の動物になりたいかという質問に

「ロブスターになるつもりです」と答えるのです

「100年以上生きるし、死ぬまで子孫を残せる」からと

ここ(近未来)では、少子化対策のため結婚することを強要されられ

(西洋のカップル文化という背景もあるのだろう)

パートナーを見つけられない人間は

動物にさせられることが法的に義務付けられているのです

さらに好意をもった相手と結ばれるためには

「共通点」がなければいけないというルールがあります

ホテルは一見リゾート地のようで

男女が出会えるようパーティやスポーツジムがあり

メイドによる男性の股間にお尻を擦りつける儀式や

(にもかかわらず射精と自慰は許されず、バレたらトースターで手を焼かれる)

カップルのほうがいかに利点が多いかという(ふざけた)レクチャーまであります

デヴィッドは「滑舌の悪い男」(ジョン・C・ライリー) と

「足の悪い男」(ベン・ウィショー)と親しくなります

(そこで暮らす人々は名前ではなく、あだ名(身体の特徴)で呼ばれる)

さらに狩りで森に潜むレジスタンス(独身者)を

ひとり殺すごとに寿命(動物になる日)が1日づつ延びます

「冷血な女」は最も優れたハンターで何日も寿命を延ばしていました

(若くて可愛い)「鼻血を出す女」を気に入った「足の悪い男」は

自分の鼻を打ち付け鼻血を出し話しかけます

ちょっと悔しいデヴィッドは「鼻血を出す女」に

「足の悪い男」の鼻血は嘘だと打ち明けますが

彼女にも動物にされてしまうという焦りがありました

(髪の毛が自慢の友人は馬になってしまった)

ふたりは皆の前でカップルになったことを発表され、次のステップに進みます

そこでデヴィッドも「足の悪い男」のようにうまくやろうと

美人だしショートカットが好きだしという、見た目だけの理由で

「冷血な女」に近づき、自分も冷徹残忍な男のふりをします

(言い寄ってきた太めのオバはスルーして自殺にまで追いやる)

「冷血な女」とカップルとして認められ、同じ部屋で過ごすようになりますが

ある朝、女が彼の犬(兄)を足で蹴り殺してしまいました

ディビットは何も感じていないふりをしましたが

堪えきれず流した涙を女に見られてしまいます

ディビットの冷酷さが噓だとわかり、女は「許さない!」とビンタ

兄を殺された怒りでキレたディビットは彼女を麻酔銃で打ち

動物に変えられる部屋に閉じ込め逃げようとすると

メイドが助けてくれました(実はレジスタンスのスパイだった)

ひとりで寒さをしのいでいると、独身者のコミュニティに救われ

リーダー(レア・セドゥ)はディビットを仲間にすることを承諾します

パートナーを見つけるというプレッシャーはなくなったものの

ここでもやはり厳しいルールに縛られていました

好きな音楽を聞いてもいいかわり「ヘッドフォン」着用

ダンスを踊っても誰かと手を取り合うものではない

コミュニケーションは自由だけど、恋愛はあくまで禁止

破った場合は厳しい制裁が待っています

さらに独身者たちは、ホテルに乗り込みカップルたちを襲撃

銃を突きつけ、恐怖で化けの皮がはがれ落ちた無様な姿を見せつけ

「共通点」が「愛の証」ではないことを証明するのです

そんな中、ディビットは「近視の女」(レイチェル・ワイズ)に

惹かれるものを感じます

リーダーは度々森を出て(動物にされないため)カップルを装い

街で必要な買い物をしたり、両親に会いに行っていました

そのとき「近視の女」のパートナー役に選ばれたのがディビット

お互い好意を寄せ合うようになるものの

コミュニティのルールを忘れたわけではありません

それでもディビットが彼女に本気になってしまったのは

私は近視と言う「共通点」ではなかったと思います

 

「背中の手の届かない所に薬を塗りましょうか」

そのひとことに心を奪われてしまったのです

 

ふたりは、周囲にばれないよう

秘密のサイン(手信号)を生み出し、会話するようになります

しかし(リーダーの実家の)音楽会で熱いキス交わしてしまい

不審に思ったリーダーは、デイビッドの日記を見つけると

「近視の女」と逃亡する計画を知ります

そこでリーダーは「近視の女」にシーレックの手術だと偽り

彼女を失明させてしまいます

デイビッドは失意に暮れる女を支え

やがてふたりはリーダーを殺して街に逃げる決意をします

 

デイビッドはリーダーを襲い拘束、墓穴に放置して野犬に襲わせます

(ここでは自分の墓穴を掘って用意するルールもある)

街まで逃げ、ダイナーに入ると

デイビッドは彼女の顔を二度と忘れないようにと見つめます

女が見えなくても他の感覚が研ぎ澄まされるようになると言うと

デイビッドはウェイターに肉用のナイフを頼み、トイレに行きます

パートナーとして認められ、生きていくためには「共通店」が必要

ふたりが見つけた共通点は「盲目」になること

本当に愛しているなら、彼女の目になってあげるべきなのに

そんな常識の通じない世界

鏡の前でナイフを目に突きつけようとするデイビッド

ラストのカットの長回し

なかなか戻ってこないデイビッドを待つ女の目が

一瞬見えているような瞬間をカメラが捉えます

そして流れる波の音

ここで冒頭の「ロバを撃った女」のロバが

たぶん彼女の夫か、恋人だったのだとわかります

それでも殺した理由まではわかりません

わかるはずがないのです

 

すべての男と女がそうであるように

好きになるのも、別れるのも

本人同士にしかわからないし、出来ないこと

 

そういう解釈で腑に落ちたのでした

 

 

【解説】映画.COMより

アカデミー外国語映画賞ノミネート作「籠の中の乙女」で注目を集めたギリシャヨルゴス・ランティモス監督が、コリン・ファレルレイチェル・ワイズら豪華キャストを迎えて手がけた、自身初の英語作品。2015年・第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。独身者は身柄を確保されてホテルに送り込まれ、そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられて森に放たれるという近未来。独り身のデビッドもホテルへと送られるが、そこで狂気の日常を目の当たりにし、ほどなくして独り者たちが隠れ住む森へと逃げ出す。デビッドはそこで恋に落ちるが、それは独り者たちのルールに違反する行為だった。

2015年製作/118分/R15+/アイルランド・イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ合作
原題:The Lobster
配給:ファインフィルムズ
劇場公開日:2016年3月5日