EO イーオー(2022)

原題は「IO」(ポーランド語)でロバの鳴き声に由来

くまのプーさん」の「イーヨー」の名前も

英語のロバの鳴き声の"eeyore"からなんですね

 

イエジー・スコリモフスキが、ロベール・ブレッソン

バルタザールどこへ行く」(1966)にインスパイアされた

ポーランドからイタリアまで旅するロバのロードムービー

バルタザールどこへ行く」では農場主の息子のジャックと

教師の娘マリーが拾ってきたロバ、バルタザールを可愛がりますが

休暇が終わると同時にジャックは去り

バルサダールは売られてしまいます

しかし次の飼い主から虐待を受けたバルタザールは逃げ

マリーのもとに帰ります

再びバルタザールを可愛がるマリーですが

マリーに恋する不良のリーダー、ジェラールは

バルタザールに嫉妬し、残酷な仕打ちを加えます

バルタザールを助けようとしたマリーはジェラールと肉体関係を結び

そのままジェラールの不良仲間になってしまう

それでも幼馴染のジャックはマリーに変わらぬ愛を誓い求婚

ジェラールと別れる決意をしたマリーは

ジェラール仲間暴行され全裸で捨てられます

一方のバルタザールも、ジェラールの密輸の荷物運びをさせられ

税関員に見つかり撃たれて死んでしまいます

マリーは村から消え

何も出来なかったジャックは絶望し、ひとり残されただけでした

というのが、おおまかなストーリー

悪人と善人がはっきりしている分、

スコリモフスキより解りやすいかも知れません

 

本作は動物愛護という名のもと、サーカスから保護されたEO

逆に労働や暴行を受け、最後には屠殺場に向ってしまうという

所詮人間のエゴを皮肉っているというもの

そのことに逆えず、ただ見つめることしかできないEO

この眼差しには、私たちも哀しむことしかできません

ポーランドのサーカスで、カサンドラとショーを演じるロバのEO(イーオー)は

カサンドラに溺愛されていました

しかしサーカスが破産し、EOに荷物を運ばせようと鞭打つ団員のヴァシル

カサンドラEOに乱暴しないようヴァシルを激しく叱ります

 

そこにプラカードを持つ(サーカスが閉鎖された原因でもある)動物愛護団体

動物愛護を訴える市長がテープカットをする

EOが保護されたのはサラブレットを扱う厩舎

その中でも美しい白馬はモデルと撮影したり

仕事が終わればシャンプーで丁寧に洗ってもらえる

一方のEOは保護とは名ばかり、馬たちに与える干し草の荷車を引かされています

ある日、馬たちのいななきに驚いてトロフィーの棚を倒してしまったEO

ロバ専門の農場に売らてしまいます

そこは病気や障害のある子どもたちに

エサやりや乗馬を体験させる農場でEOは幸せを感じましたが

EOの誕生日に(酒を飲み変わり果てた姿の)カサンドラが男とバイクでやって来て

花火と(火事になるかと思ったわ)好物のにんじんマフィンを与えます

「あなたの夢が全部叶いますように」 「幸せになるのよ」と言い残し

男と去ってしまうカサンドラ

EOは柵を壊しカサンドラを追いかけますが、彼女の姿はもうありませんでした

 

迷子になった森ではレーザースコープを持ったハンターに狙われ

重傷を負い苦しむオオカミを見ます

食物連鎖を維持するための捕獲量の管理?)

街に出たEOがサッカーの試合会場に辿り着くと

EOの鳴き声に気を取られた敵チームのペナルティーショットが失敗

優勝したチームはEO勝利の女神と讃え街を行進

夜になりパーティ会場でもEOは歓迎されます

 

それを許さないのが負けたチーム

パーティ会場に殴り込みに現れ、EOも殴って蹴られるの暴行を受けます

4本足のロボットが、うまく立ち直って歩こうとする姿は

瀕死のEOが見た幻なのでしょうか

気がつくとEOは動物病院にいました

用務員の男が獣医に「殺して楽にしてやりなよ」と告げます

「なぜ救おうとしているのかと」

それは動物愛護の法律のため

病院で回復したEOは毛皮工場に保護されます

毛皮にする(殺された)狐を荷車で運ぶのがEOの仕事

工場で働く狐を殺す男の頭を蹴ったEOは、男が気を失っている間に逃げ出します

捕まったEOは「ロバはサラミの肉になる」という理由で

を運ぶトラックに乗せられます

運転手のマテオは軽薄そうだけど気の良い男で

ホームレス風の女に食べ物を与えてあげます

「ついでにセックスも」と冗談を言うと女に逃げられ

(女の仲間と思しき)突然現れた男に喉を切られて殺されてしまう

 

やって来た警察にロープで繋がれたEOを見つけた、ヴィトーという若い男が

「しばらくぶりに実家に帰るところだ、一緒に行かないか」 と声を掛け

これは保護か盗みかと迷いながらもEOを連れて去ります

自宅である屋敷の礼拝堂では、伯爵夫人(イザベル・ユペール)に

ヴィトー神父が祈りを捧げています

そこに義理の息子が帰って来たという連絡が入り(神父と息子は同一人物?)

ヴィトーのギャンブルを責める伯爵夫人

今度はどんな悪さをし、尻拭いをさせるつもりなのかと問いただすと

そっと義母に近寄りキスするヴィトー

ヴィトーが反抗し道を踏み外したのは、父親の若い妻を愛してしまったから

こういう役が何の疑問もなくしっくりくるのって

イザベル・ユペール以外にいないかも知れない(笑)

ヴィトーと伯爵夫人の愛を知ったEOに、カサンドラの声が聞こえます

その時門が開き、屋敷を出て行ったEO

石橋を渡るとダムの水の流れを眺めます

そこから広がる草原の出ると、牛の行進に遭遇し

そのまま群れを追いかけるEO

これがアメリカ映画なら、ラストはカサンドラと再会し

幸せな余生を贈ることになるのでしょう

でも現実では奇跡でしかないことをスコリモフスキは知っている

 

一瞬画面が黒くなると(動物の痛みを鈍感にするための)ボルトピストルの発射音

EOが牛たちと一緒に向かった先は、屠殺場だったのです

動物愛護団体によりサーカスから保護されたはずのロバが

結局はサラミにされるという結末

 

世の中を変えるため、良かれと声を上げている人々の意見が全て正しいとは限らない

でも考えはそれぞれ

そこにはやはり配慮して

ラストには「撮影でいかなる動物も傷つけていません」の字幕と

エンドクレジットにはEOを演じた

エットーレ、ホラ、マリエッタ、メラ、ロッコ、タコ

6頭のロバの名前が記されていました

 

 

【解説】映画.COMより

「アンナと過ごした4日間」「出発」などで知られるポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ7年ぶりに長編映画のメガホンをとり、一頭のロバの目を通して人間のおかしさと愚かさを描いたドラマ。
愁いを帯びたまなざしと溢れる好奇心を持つ灰色のロバ・EOは、心優しい女性カサンドラと共にサーカスで幸せに暮らしていた。しかしサーカス団を離れることを余儀なくされ、ポーランドからイタリアへと放浪の旅に出る。その道中で遭遇したサッカーチームや若いイタリア人司祭、伯爵未亡人らさまざまな善人や悪人との出会いを通し、EOは人間社会の温かさや不条理さを経験していく。
伯爵未亡人役に「エル ELLE」のイザベル・ユペール2022年・第75カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞。第95回アカデミー国際長編映画賞ノミネート。2022年製作/88分/G/ポーランド・イタリア合作
原題または英題:EO
配給:ファインフィルム