靴ひものロンド(2020)

原題はイタリア語の「Lacci(ひも)ですが

罠、たくらみ、 策略 、首吊りなわ、 きずな、という意味もあるそうです

これが終盤の「ラベス」(la bestia=獣)という猫の名前にも繋がっていきます

 

巧みな伏線回収と時系列をシャッフルした展開が見事

家具や女性のお洋服がレトロでとても可愛い

エプロン姿までお洒落、さすがイタリア

ただし既婚男性にはホラー以上に怖いかも知れないので注意を(笑)

1980年代のナポリで暮らす4人家族

アルドはローマのラジオ局で朗読の仕事をしていますが

妻のヴァンダ(小言が多い)と些細な喧嘩がきっかけで

ほかの女性と寝ていることを打ち明けてしまいます

ヴァンダが「汚らわしい」「出て行って」と言うと本当に出て行き

帰ってこなります

よくある夫の浮気が原因で家庭が崩壊していく物語ですが

かなりシニカル、気まずさ100%(笑)

その背景にはイタリアでは長らく離婚が認められず

1970年に合法化された後も、5年間の別居を経ないと

協議にさえ入れなかったそうです

ラジオ局に向かったヴァンダは

アルドに子どもたちのために、帰ってきてと頼み

愛人のリディアと対決もしますが夫が戻ることはありませんでした

ふたりの子ども、アンナサンドロナポリとローマを行ったりきたり

しかも夫が子どもたちを友人の家に預けリディアと会っていたことを知り

ヴァンダは親権の100%を求めます

ところがあっさりアルドはそれを認めます

子どもをダシにしても、夫を繋ぎとめることは出来なかった

窓から飛び降り自殺未遂してしまうヴァンダ

大怪我をした母親を介抱したのは子どもたちでした

 

それから何年かしてアルドと子どもたちの面会の日

サンドロは父親に抱きつきますが

美しく成長したアンナの父親に対する敵意が凄い(笑)

この男、家族を棄て

美人で金持ちの愛人とよろしくやってるのに

子どもに嫌われるのは耐えられないんですね

そこでアンナから「サンドロの靴ひもの結び方が変わってる」

「私にも教えて」と言われ心が揺らぐ

さらにヴァンダから「よければ夕食を食べて行かない?」

「オーブン焼きのスパゲッティ」と誘われ、ついつい朝帰り

毎日、高級なデザートばかり食べていたら

家庭の味、おふくろの味が恋しくなってしまった(笑)

ヴァンダとヨリを戻してしまいます

 

そして数十年後、趣味のいい書斎のようなリビング

老夫婦のもとに宅配が届きます

配達員の若い女性に着払いで240ユーロだと言われ

250ユーロ渡し「おつりがない」という彼女に

(チップとして)いいよ、と言うアルド

女性は「素敵な部屋ね」「可愛い猫、名前は?」「バカンスにはどれくらい?」

そしてテーブルの上にある格子柄の箱を見つけ

「絶対開かない箱だ」と説明するアルドに

「私なら開けれる」と答えます

 

彼女が帰ると、領収書を見たヴァンダはこれは210ユーロよ

ぼったくられたのよ、美人に甘い、影で笑われてる・・と

相変わらず小言が多い(笑)

うんざりしながらも、海辺のバカンスを楽しみ帰ると

部屋はめちゃくちゃに荒らされ、しかも猫がいません

必死に猫を探すヴァンダ

あの配達員の女よ、部屋を物色していた、バカンスに行くことも知っていた

 

でもアルドの心配は猫でも

現金や、貴重品がなくなってるかも知れないことじゃない

格子柄のカラクリ箱の中に入っていたもの

数々のポーズのリディアのヌード写真、それがなくなっている

ヴァンダに見つかる前に見つけねば

あるいは盗んだ写真で脅迫されるかも知れない

そんな写真撮らせる女も女だけど

(今の時代なら、なおさら安易に裸なんて撮らせちゃいけません)

いつまでも大事に取っておく、男あるある(笑)

 

もう遅いから君は寝なさい

猫が戻ってくるかもしれないし、僕が起きて片付けているよ

でも写真は見つからない

さらに翌朝、ページの開いた辞書を見つけたヴァンダが

アルドがつけた愛猫のラベス」という名前が

ラテン語で「荒廃」「崩壊」という意味だと知り憤慨するのです

しかもタンスの下になにかあるのを発見

これが「ラベス」の世話を頼まれた

アンナとサンドロの両親への復讐だったとは

 

ふたりは愛する父と母のため「いい子」で居続けました

でも「靴ひも」の結び方は母の罠だった

復縁した後も両親は喧嘩ばかり

おかげでアンナはすっかり蓮っ葉に(笑)

サンドロは女性にモテますが

安定した家庭をもつことが出来なくなっていました

 

両親の家でカラクリ箱を空けて見せるサンドロ

しかもリディアと別れた後もほかに女がいた

ママも浮気をしていたのよ、とアンナ

じゃあ、ふたりの不倫の証拠を探そうと

家中の本、CD、食器、引き出しの中身を片端からぶち撒け

溜まりにたまった憤怒を晴らしてせいせい(笑)

ラベスを連れて引き揚げます

(ママの不倫の証拠はどうなった 笑)

 

妻が不倫した夫に復讐する話はあるけど

成長した子どもたちが両親の仲を破壊しようとするとは

いまさらこの優柔不断な夫と妻が別れることはないと思いますが

過去の話を持ち出され、更に愚痴られるのは間違いないでしょう

 

浮気の代償は恐ろしいですね(笑)

ラストの音楽と同じ、一生繰り返されるロンド



【解説】映画.COMより

「ワン・モア・ライフ!」「ローマ法王になる日まで」などで知られるイタリアの名匠ダニエレ・ルケッティが、ドメニコ・スタルノーネの小説「靴ひも」を映画化した家族ドラマ。
1980
年代の初頭。ナポリで暮らす4人家族の平穏な日々は、父アルドの浮気によって一変した。両親の激しい口論や父の魅力的な愛人、壊れていく母ヴァンダの姿を見つめながら、子どもたちはローマとナポリを行き来する。数年後、離散していた家族はふとしたきっかけで再び一緒に暮らすことに。それからさらに月日は流れ、アルドとヴァンダは夏のバカンスへ出かけるが、帰宅すると家は激しく荒らされており、飼い猫がいなくなっていた。
アルドとヴァンダの若き日を「幸福なラザロ」のアルバ・ロルバケルと「輝ける青春」のルイジ・ロ・カーショ、老年期を「息子の部屋」のラウラ・モランテと「ボローニャの夕暮れ」のシルビオオルランドがそれぞれ演じた。「イタリア映画祭2021」では「靴ひも」のタイトルで上映。

2020年製作/100分/G/イタリア・フランス合作