ともしび(2017)

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原題は「Hannah」(主人公の名前)

これは難解、というよりかなり手強い(笑)

まるで観客の映画を見る目を試すように

ポーカーの如く手の内を見せようとしません

 

一方で残酷に老いを見せつける

若かったらやり直せるでしょう

もう一勝負もできるでしょう

でももう誰もかまってくれないのです

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ベルギーのある街で市民講座の演劇クラスに通う

アンナ(シャーロット・ランプリング)は夫とふたり暮らし

会話は少ないけれど、食事の後は夫の身体をマッサージしてあげたり

夫婦仲はいいように思われます

翌日夫はアンナに見送られ、刑務所に収監されました

何の罪で?

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それは1本の電話でわかりました

「シモンの母です、なんてひどいことを幼い息子にしたのか」

「恥ずかしくないのか」

夫は幼い男の子に猥褻な行為をして有罪になったらしい

でもアンナは夫を信じていたのだと思います

まだその時点では

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会員制のスポーツクラブでは出入り禁止になり

孫の誕生日にケーキを作り息子の家を訪ねると

「もう会いに来るな」と冷たく追い返される

無駄になったケーキ、トイレで号泣するアンナ

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ある日、上の階の子どもたちがお風呂で水遊びをしたせいで

天井が水漏れし、修理しようとしたアンナは重い箪笥を動かします

箪笥の裏に隠された封筒を発見します

中身を確認したアンナはその封筒をそのままゴミ箱へ捨てる

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なぜ息子が拒絶するのか、孫と会わせようとしないのか

嫌悪する理由がやっとわかった

夫は孫にまで手を出そうとしていたかも知れないのだ

・・・なんてこと

 

面会に来たアンナに「次はいつ来る」と悪びれもせず訊ねる夫に
箪笥の後ろで封筒を見つけたと答えるアンナ
夫は一瞬戸惑い、逃げるようにその場を立ち去る

信じていた、信じようとしていたからこそ裏切りは許せない

アンナは二度と夫に会いに行くことはないでしょう

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唯一のストレス解消で、自己表現の場だった演劇クラスでは

演技ができなくなり(イプセンの「人形の家」)

地下鉄のホームで自殺を考える

 

そしてアンナのとった行動は

夫の痕跡を少しでもなくすこと

犬に罪はないけれど、夫の愛犬を手放す

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ラスト、浜辺に打ち上げられた瀕死のクジラを見つめるアンナ

人々が海水をかけ、どうにか助けようとしている

でも所詮無理なのだ

 

ボロボロに傷つき醜悪な姿になったクジラは

たとえ海に戻ったとしても

長い時間をかけ苦しみながら死んでいく

今の自分と同じように

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それでも死ぬまで生きるしかない

何もかも失ったあとに得たもの、それは自由


ランプリング姐(1946生 撮影当時71歳)の全裸とか

見たいような、見たくない心理をくすぐる(笑)

解説一切なしの雰囲気系ムービー

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しかも老いての犯罪トラブル、孤独、家庭の不和、女性の心理を

ここまで掘り下げることに成功したのが

1982年生まれのイタリア人監督という驚き

 

スタイルは違うけど、フェリーニ

ヴィットリオ・デ・シーカの再来になればと願います



【解説】映画.COMより

まぼろし」「さざなみ」のシャーロット・ランプリングが、2017年・第74ベネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したドラマ。ベルギーの地方都市を舞台に、人生も終盤に差しかかった主人公の女性が、さまざまな業を背負い、もう一度「生きなおす」までの悲しみや決意を描いたミステリードラマ。ベルギーのある小さな都市で、夫とともに慎ましやかな生活を送っていたアンナだったが、夫が犯したある罪により、穏やかだった生活の歯車が少しずつ狂い始めていく。やがてその狂いは、見逃せないほど大きなものとなっていき……。共演に「ル・アーヴルの靴みがき」のアンドレ・ウィルム。監督はイタリア出身のアンドレア・パラオロ。