原題は「Hannah」(主人公の名前)
これは難解、というよりかなり手強い(笑)
まるで観客の映画を見る目を試すように
ポーカーの如く手の内を見せようとしません
一方で残酷に老いを見せつける
若かったらやり直せるでしょう
もう一勝負もできるでしょう
でももう誰もかまってくれないのです
ベルギーのある街で市民講座の演劇クラスに通う
アンナ(シャーロット・ランプリング)は夫とふたり暮らし
会話は少ないけれど、食事の後は夫の身体をマッサージしてあげたり
夫婦仲はいいように思われます
翌日夫はアンナに見送られ、刑務所に収監されました
何の罪で?
それは1本の電話でわかりました
「シモンの母です、なんてひどいことを幼い息子にしたのか」
「恥ずかしくないのか」
夫は幼い男の子に猥褻な行為をして有罪になったらしい
でもアンナは夫を信じていたのだと思います
まだその時点では
会員制のスポーツクラブでは出入り禁止になり
孫の誕生日にケーキを作り息子の家を訪ねると
「もう会いに来るな」と冷たく追い返される
無駄になったケーキ、トイレで号泣するアンナ
ある日、上の階の子どもたちがお風呂で水遊びをしたせいで
天井が水漏れし、修理しようとしたアンナは重い箪笥を動かします
箪笥の裏に隠された封筒を発見します
中身を確認したアンナはその封筒をそのままゴミ箱へ捨てる
なぜ息子が拒絶するのか、孫と会わせようとしないのか
嫌悪する理由がやっとわかった
夫は孫にまで手を出そうとしていたかも知れないのだ
・・・なんてこと
面会に来たアンナに「次はいつ来る」と悪びれもせず訊ねる夫に
箪笥の後ろで封筒を見つけたと答えるアンナ
夫は一瞬戸惑い、逃げるようにその場を立ち去る
信じていた、信じようとしていたからこそ裏切りは許せない
アンナは二度と夫に会いに行くことはないでしょう
唯一のストレス解消で、自己表現の場だった演劇クラスでは
演技ができなくなり(イプセンの「人形の家」)
地下鉄のホームで自殺を考える
そしてアンナのとった行動は
夫の痕跡を少しでもなくすこと
犬に罪はないけれど、夫の愛犬を手放す
ラスト、浜辺に打ち上げられた瀕死のクジラを見つめるアンナ
人々が海水をかけ、どうにか助けようとしている
でも所詮無理なのだ
ボロボロに傷つき醜悪な姿になったクジラは
たとえ海に戻ったとしても
長い時間をかけ苦しみながら死んでいく
今の自分と同じように
それでも死ぬまで生きるしかない
何もかも失ったあとに得たもの、それは自由
ランプリング姐(1946生 撮影当時71歳)の全裸とか
見たいような、見たくない心理をくすぐる(笑)
解説一切なしの雰囲気系ムービー
しかも老いての犯罪トラブル、孤独、家庭の不和、女性の心理を
ここまで掘り下げることに成功したのが
1982年生まれのイタリア人監督という驚き
スタイルは違うけど、フェリーニや
ヴィットリオ・デ・シーカの再来になればと願います
【解説】映画.COMより
「まぼろし」「さざなみ」のシャーロット・ランプリングが、2017年・第74回ベネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したドラマ。ベルギーの地方都市を舞台に、人生も終盤に差しかかった主人公の女性が、さまざまな業を背負い、もう一度「生きなおす」までの悲しみや決意を描いたミステリードラマ。ベルギーのある小さな都市で、夫とともに慎ましやかな生活を送っていたアンナだったが、夫が犯したある罪により、穏やかだった生活の歯車が少しずつ狂い始めていく。やがてその狂いは、見逃せないほど大きなものとなっていき……。共演に「ル・アーヴルの靴みがき」のアンドレ・ウィルム。監督はイタリア出身のアンドレア・パラオロ。