ガッジョ・ディーロ(1997)

 

原題は「GADJO DILO」(ばかなよそ者)

フランス人のステファンという青年が

ジプシー歌手ノラ・ルカに会うため

ルーマニアのロマが住む村を訪ねる話

ロマ人の女はカラフルな衣装に三つ編み

男はハットを被り髭を生やす

ひと目で外国人とわかるステファンに

女たちはロマ語で卑猥な言葉を浴びせます

いくら言葉が通じないといって

女性が見ず知らずの男性に性的なことを言ったり

歌ったりするのかと思うのですが(笑)

本当みたいですね

たとえば日本人が支援のためロマのコミュニティに行った時も

女性ならロマの男性から性差別、人種差別的な発言を受け続け

後からついてこられるとか

怖いですよね(笑)

でも自分たちの価値観やルールを違う民族に求めるのは、間違っていること

そんな失礼な態度も、長い歴史の中で差別や迫害を受けてきたため

よそ者をコミュニティに入れないための手段かも知れません

その代わり、仲間と認めたら家族同然

喜びも悲しみもわかちあうのです

ロマがヨーロッパにやって来た経緯にはいろいろな学説があるそうで

ルーマニアで有力なのは1213世紀頃

北インドで奴隷にしていたロマ族を連れてきた、という説だそうです

ロマ語がペルシャ語サンスクリット語に近いこと

カースト制度があり(本作でも明らかに金持ちが出てくる)

自由恋愛は許されず、配偶者を決められるお見合い結婚

インドの習慣と似ているからだそうです

ユダヤ人がイスラエルに戻ろうとしたのに対して

ロマは起源とされるインドに戻ろうとはせず

流浪の民としてヨーロッパに住みついたんですね

戦争中はユダヤ人同様差別され(絶滅政策)

ガス室送りにされたそうです

息子のアドリアーニが何者かの密告により警察に連行されたため

ロマ人のイジドールが泥酔し叫んでいます

宿で外出禁止令だと、扉を開けてくれず困っているステファンに

イジドールは無理やり酒を勧め、挙句の果て家に連れ帰ります

翌朝、イジドールの家の前に集まったロマたちは

ステファンのことを、デカい、髭がない、靴が汚いのは怪しい

きっと鶏泥棒に違いないと噂します

 

ステファンは宿(ダイナーや雑貨屋も兼ねている)に行き

お菓子などを買ってロマたちに渡します

そして「パリ」から「ノラ・ルカ」を探しに来たと説明をすると

「パリ」と「ノラ・ルカ」だけは通じた(笑)

イジドールは息子と入れ替わりでやってきたのも何かの縁だと

ロマ語を習いに来たと皆に説明しステファンを可愛がります

そこで村で唯一フランス語を話せる(ベルギー人と結婚していた)

出戻りのサビーナに通訳を頼みますが、外国人の相手などまっぴらごめん

頑なに拒否されてしまいます

イジドールは楽団で生計を立てているんですね

結婚式やパーティに呼ばれて演奏したり歌ったり

女たちはダンスを披露します

 

イジドールと暮らしながら、少しづつですがロマ語や

ロマの文化を理解していこうとするステファン

でも女たちは男のくせに子どもの面倒をみたり、家事をするステファンを

「ホモじゃないかしら」と笑います

ロマの男は決して家事はしない

男と女の役割がきっちり分担されているのです

サビーナもだんだんとステファンに気持ちを許していきます

ステファンのためカセットテープに演奏を録音する協力もします

中古のポンコツ車でドライブ(帰りはいつも故障)

ふたりの間に芽生え始める恋心(恋の囁きも卑猥な言葉 笑)

そんなときイジドールの息子、アドリアーニが釈放され帰ってきました

イジドールもサビーナも大喜び

アドリアーニは宿に行き釈放されたお祝いだと皆に奢るといいます

(羽振りがいいので、アウトローと思われる)

そこでルーマニア人に、密告したのは誰だと詰め寄るんですね

さらに誤ってルーマニア人に怪我をさせてしまいます

怒った村人たちはロマの集落を焼き払います

アドリア―二が逃げた小屋も焼かれてしまう

そのときステファンとサビーナは川辺で愛し合っていました

集落に戻るとロマたちは追い出され、テントは全て焼き尽くされ

小屋からはアドリア―二の焼死体が見つかります

演奏に出かけているイシドールを迎えに行くステファンとサビーナ

アドリア―二の死を伝えるとイシドールは車から飛び出し慟哭します

 

「何をやってるんだ、俺は」

車を降りたステファンは、全てのカセットテープを棄て

ひとり静かに踊るのでした

たぶんステファンはロマの音楽を知ってもらい(販売し)

世話になっているイシドールにお返ししたり(掃除したら怒られるから 笑)

ロマの人々を支援しようとしたのではないでしょうか

 

でもそれって、震災などの支援もそうですが

こっちがよかれと思ったことを、押し付けているだけかも知れない

古着は本当に必要とされているのか

サイズや汚れを仕分けするボランティアの苦労を考えているのか

迷惑な支援物資かどうか、よく考えてから送ったほうがいい

大切なのは困ってる人の声を、そこで働く人たちの要望を

現実的かつ効果的に聞くこと

ロマだって、僅かなお金を貰って幸せになれるわけじゃない

差別という根本的な社会問題の難さ

それでも生きていかなきゃならない

たとえどんなに虐げられたとしても

 

だからといって重苦しい内容では決してなく

ちょっとエッチで(笑)コメディ的な要素も多く

特に音楽好きには見ていただきたい1

監督のトニー・ガトリフは、父親はアルジェリアカビール

母親はアンダルシア系ロマ人のハーフ

ロマ人やロマ音楽をテーマに映画製作し、高い評価を受けている監督で

作曲家でもあるそうです

 

 

【解説】KINENOTEより

フランスからやってきた青年とロマ(ジプシー)の村人たちとの心の交流を描いた一編。監督・脚本・音楽は「モンド」のトニー・ガトリフで、ロム系の血を引くという彼は、『Les Prices』『Lacho Drom』(日本未公開)に続き、この作品で流浪の氏3部作を完成させた。製作総指揮はガイ・マリグナネ。撮影はエリック・ギシャール。美術はブリジット・ブラッサール。編集はモニーク・ダルトーネ。録音はニコラス・ネイジェルソン。出演は「ドーベルマン」のロマン・デュリス、新人、ローナ・ハートナー(97モントリオール世界映画祭主演女優賞受賞)ほか。実際にロマの楽士であるイシドール・サーバンはじめ、ロマの村人たちが出演。97ロカルノ国際映画祭銀豹賞、主演女優賞など計5部門受賞作品。