「間違った電車でも、正しい場所につく」
原題は「DABBA」
(ダッパー=ステンレス製で2~5段になったインドのお弁当箱)
インド(ムンバイ)ではダッパーワーラーと呼ばれる配達人が
家庭で作られたお弁当を勤務先に届ける弁当配達ビジネスが盛んで
利用者は約18万人、間違いは600万回に1度しかないそうです
夫と娘(10歳くらい)とムンバイのアパートに住む主婦イラも
ダッパーワーラーに夫のお弁当を届けてもらうひとり
同じアパートに住むおばさん(声だけ)にアドバイスを受けながら
倦怠期の夫の愛情を取り戻すため
毎日のお弁当の材料や味付けを一工夫する努力をしていました
その甲斐あってか、お弁当は完食
気を良くしたイラは夫に感想を聞くと、夫の返事はそっけなく
「ブロッコリーが美味しかった」とだけ
それから毎日、イラのお弁当は(妻に先立たれ仕出し屋に弁当を注文している)
早期退職を控えた下級役人、サージャンに届けられることになるのです
そこでイラは「残さずきれいに食べてくれてありがとう」と書いた
手紙を弁当箱の中に入れます
すると戻った弁当箱の中に「今日は塩味が少し強かった」というメモがあり
翌日には「今日の塩味はよかった」という返事があります
そうして名前も、顔も、年齢も知らない
イラとサージャンの文通が始まるのです
インド映画って、歌って、踊って、お喋りで、明るいイメージがあるけど
これね、インドのウォン・カーウァイ(笑)
愛情に対するストレートな態度や言葉より
相手を大切にする思いのほうが強くて
恋愛も「宿命」にまかせているんですね
いくら好きだからって結ばれるわけではない
一方でありえない相手と結ばれるかも知れない
イラは夫が冷たくなったのは、浮気しているからだと気付きます
するとサージャンは「2人目の子を作ってはどうか」と提案します
これもわかる(笑)
2人目や3人目が、人生の教訓教えてくれるのは、よくあることだし
もしかしたら夫との相性も良くて
家族の潤滑油になってくれるかも知れない
だけど夫とは会話もなく、イラのことは無視
当然子作りも拒否されてしまう
イラは手紙に「幸福の国ブータンに行きたい」 と書きます
その時サージャンの気持ちが動いた
思わず「一緒にブータンに行けたらいいな」と返事を書いてしまいます
言霊って本当にあると思う
ただの文字でも、その人の気持ちが宿って相手に伝わる
サージャンへの思いが我慢できなくなったイラは
ついに「カフェで待ってる」とお弁当箱に手紙を入れるのです
しかしその日サージャンは上司に呼ばれ、書類がミスだらけと指摘されます
仕事を頼んだ部下のシャイクは結婚が決まり、将来のある身
サージャンは自分のミスだと偽り、全ての書類を修正する作業にかかります
次の日のイラのお弁当箱は空っぽでした
手紙も入っていませんでした
その空っぽのお弁当箱にサージャンは返事を書きます
実はサージャンも待ち合わせのカフェに行ったのです
そこで待っていたのは若くて美しい人妻
自分は電車で席を譲られるような、もうすぐ老人
ただ遠くから見つめることしかできなかったのです
部下のシャイクは結婚し、妻の親から昇進のお祝いにスクーターを贈られます
サージャンは孤児のシャイクの身内として式に出席し祝福
ダッパーワーラーから間違った届け先を聞き出したイラは
サージャンに会いに役所に行きますが、すでに退職
シャイクが家まで案内してくれましたが
彼はすでに引っ越した後でした
だけど彼女は決断する
装飾品を売り、荷造りをして
娘が学校から帰るのを待つ・・という手紙を書く
彼女は娘を連れて出ていくつもりなのだ
届くかどうかわからない、サージャンに宛てた手紙を投函して
一方、ひとりで旅立っても、行く当てなんてなかった
サージャンは戻って来る
1/600万回の確立でサージャンに届けられたイラのお弁当
再びイラの手紙は、サージャンに届くのか
イラとサージャンが結ばれるにしても
イラが夫の元に帰るとしても
それらはすべて「宿命」で決まっていること
自分ではどうにもならないこと
それでもイラは賭けたのです
顔も知らないサージャンとの未来に
インド(国立映画公社)、ドイツ(ROH)、フランス(ASAP)
アメリカ(シネ・モザイク)製作とあって
異国情緒な雰囲気はたっぷり
唯一惜しいのが、ムーディさが足りないこと
そこだけがウォン・カーウァイ × クリストファー・ドイルに
完璧に負けている
とはいえシチュレーションはいい
それにしても、今日も名言出た(笑)
「すべて”宿命”で決まっていること、自分ではどうにもならないこと」
いつだって、誰かを好きになってもいい
そう思う
【解説】allcinema より
インドの大都会ムンバイでは、家庭でつくった“できたて”のお弁当をオフィスに届ける配達サービスが充実していて、1日20万個のお弁当箱がダッバーワーラーと呼ばれる配達人5千人によって家庭とオフィスを正確に往き来しているという。本作はそんなムンバイのお弁当事情を背景に、めったに起きない誤配が縁で繋がった一組の男女が、そのお弁当を介して互いの心の隙間を埋めていく姿を心温まるタッチで描いたハートフル・ドラマ。出演は「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のイルファン・カーンとニムラト・カウル。監督は、これが長編デビューのリテーシュ・バトラ。
ムンバイに暮らす主婦のイラ。すっかり冷めてしまった夫の愛情を取り戻そうと、お弁当作りに精を出す。ところが、その丹精を込めた4段重ねのお弁当が、なぜか早期退職を控えた男やもめ、サージャンのもとに届いてしまう。その日、お弁当箱は、きれいに空っぽになって帰ってきた。それを見て喜ぶイラだったが、ほどなく夫が食べたのではないと気づく。そこで次のお弁当には、きれいに食べてくれた見知らぬ誰かへのお礼の手紙を忍ばせるイラだったが…。