妻への家路(2014)

5日は駅に行きます」

原題は「帰来」(帰路)

 

妻の記憶を取り戻すため、手紙を読むというプロットは

きみに読む物語」(2004)とも重なりますが

 

本作では夫婦がどのように出会い、愛し合い結婚したのか

夫がなぜ共産党に反社会分子として捕らえられたか

一切描かれていません

その理由は(原作では主人公の経緯も書かれてるということ

今の中国では、小説の内容すべてを映画化することは不可能であること

20代の青年から老人までをひとりの俳優が演じるには無理があること

 

だからと言って役者を変えてしまうと、別々の映画になってしまうこと

そこで、原作の最後に家に帰るというくだりを始まりにして

ストーリーを組みなおし、中国の「一滴から太陽が見える」という諺の如く

歴史的背景を登場人物の細部の演技やセリフに凝縮させたそうです

映画は「革命模範バレエ 紅色娘子軍」を踊る少女たちの姿から始まります

主役を目指す丹丹(ダンダン)が応接室に呼ばれると

そこには母、馮婉玉(フォン・ワンイー)と党の幹部の姿

農村に強制労働に送られた父親の陸焉識(ルー・イエンシー)が脱走し

連絡が来たら教えて欲しいというものでした

家に帰ろうとするダンダンの前にイエンシーが現れ

母親に「駅の橋の下で待っている」と伝えて欲しいと頼まれます

(その後、家の玄関の下にメモをくぐらせていた)

ダンダンがいくら止めても、イエンシーに会いに行くため

大量の肉まんを作る母親

そんなことをしたら、革命模範バレエの主役どころじゃない

母娘共々「反革命勢力」として捕まってしまう

ダンダンは党員にイエンシーの居場所を密告し

イエンシーは母親の前で待ち伏せしていた警官隊に捕らえられます

揉み合いに巻き込まれ転んでしまった母親は

頭を強く打ってしまいました

 

結局ダンダンは「革命模範バレエ」でいちばん隅っこの端役

母親が舞台を見に来ることもありませんでした

それから3年後の文化大革命終結した翌年の1977

名誉回復したイエンシーが釈放され、20年ぶりに家に帰ってきます

一瞬夫と理解したフォン・ワンイーですが

イエンシーが奥の部屋に入ろうとした瞬間

イエンシーを、方(ファン)さんと呼び

激しく抵抗、家を追い出してしまいます

 

イエンシーが医者に相談すると、心因性の記憶障害だろうと

20年も会っていないので顔も変わってる

何か夫であると結びつくものを見せれば思い出すかも知れない

写真とか・・

ところがイエンシーの写真は全てダンダンが切り捨てていて

1枚もありません

叔母がもっていた唯一の写真も古くてボケていてよくわからない

次にはピアノの調教師として

次には届かなかった手紙を読む人として

フォン・ワンイーに会いに行くイエンシー

 

フォン・ワンイーが夫の言葉には従順なのに気付いたイエンシーは

「最近の手紙」を書くことを思いつきます

5日に帰る」

喜んで駅まで迎えに行くフォン・ワンイー

でもイエンシーのことはわかりません

ならば自分がだめでも母娘の絆だけは取り戻そう

「ダンダン」を赦す

「ダンダン」と暮らす

(バレエに挫折し紡績工場の寮に住んでいる)

ずっと母親との不仲が辛かったダンダン

父親に密告したのは自分だと告白する

「知っていたよ」とイエンシー

泣いてしまうダンダン

「ファンさんとは誰?」

「小さい頃でよく覚えていないけど、お母さんをおたまで殴っていた人」

おたまを隠し持ってファンの家を尋ねるイエンシーでしたが

ファンの妻から「夫は何も悪いことはしていない」「夫を返して」と

叫ばれてしまいます

文革後、権力を楯に市民を虐待した党の幹部は姿を消し粛清されていました

しかし彼らも党の命令に従っただけ

そしてここにも不幸な妻がひとり

妻の記憶を呼び戻すのは、本当に正しいことなのか

辛い思い出のほうが多いのではないか

イエンシーは手紙を読みに行くことを止めてしまいます

「手紙を読む人」が来なくなり、寂しい思いをしている母親に

ダンダンは年越し餃子を持って行こうと誘います

風邪で寝ていたイエンシーに

冷めないよう布団で包んできた餃子を差し出すフォン・ワンイー

このときイエンシーは、フォン・ワンイーの記憶が決して戻らなくても

一生彼女に寄り添っていくことを誓います

毎月5日になると「陸焉識」のプラカードを持ち、ふたりで駅に行く

雨が降っても、雪が降っても

やがて共白髪になっても

 

しかし文革の分裂が、決して消えないことを示すように

閉めた門の柵がふたりを隔てていました

撮影前には、病院や施設で実際にお年寄りと生活して

役作りをしたというコン・リー

ラスト数分以外は特殊メイクなし

若年記憶障害という難しいキャラクターを

演技だけで活かしたというのですからさすがです

ダンダンを演じたチャン・ホエウェン(張慧雯)は現在29

京舞踊学院中国民族舞踊学科を卒業後 (どうりで踊りが上手い)

中国本土ではテレビドラマやバラエティに出演し

ファションリーダーとしても活躍しているそうです

 

 

【解説】allcinema より

中国の巨匠チャン・イーモウ監督が、「紅いコーリャン」「活きる」のコン・リーと久々のタッグを組み、文化大革命によって引き裂かれた一組の夫婦の過酷な運命と切なくも感動的な愛を綴ったヒューマン・ドラマ。共演は「HERO」のチェン・ダオミンと新人チャン・ホエウェン。
 反党的な知識人を右派分子として弾圧する反右派闘争によって強制労働送りとなった夫ルー・イエンシー。そんな夫を待ち続ける妻フォン・ワンイー。一方、バレエに情熱を燃やす中学生の娘タンタンは、幼いときに生き別れた父に対してそれほどの思い入れは持っていない。そんな中、ワンイーとの再会を切望し脱走したイエンシーだったが、その願いもむなしく彼はワンイーの目の前で、待ち伏せしていた警官隊に再び拘束されてしまう。3年後の1977年、文化大革命終結し、名誉回復されたイエンシーが20年ぶりに帰宅する。ところがワンイーは、イエンシーを夫と認識できなかった。長きにわたる心労のあまり、夫の顔だけが記憶から抜け落ちてしまっていたのだ。それでも夫への深い愛情は変わらず、彼の手紙と帰宅をひたすら待ちわびるワンイー。そんな記憶障害の妻に、親切な隣人として寄り添い、自分を思い出してもらおうと懸命に奮闘するイエンシーだったが…