深夜の告白(1944)

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「私はひとりの女のために人を殺した だが金も女も手に入らなかった」

 

原題Double Indemnity」は「倍額保障」という保険用語

ここでは自動車に比べ鉄道事故が少ないので

鉄道の死亡事故の場合、車の倍額保険金が支払われる特約付保険のこと

 

その後数多くのミステリー映画やドラマの原型となったと言われる本作

刑事コロンボ」も明らかに影響を受けていると思います

そのせいで、今見ると新しいトリックはなにもないのですが(笑)

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白黒の光と影をうまく利用した画面作りと

ミクロス・ローザのスコアが不安を煽る

バーバラ・スタンウィックファム・ファタール振りや

エドワード・G・ロビンソンの強烈な個性も圧巻

 

原作は「郵便配達は2度ベルを鳴らす」のジェームス・M・ケイン

当時は不倫、悪女、保険金殺人という内容に、映画化が危ぶまれたそうです

ビリー・ワイルダーとのコラボレーションで知られる脚本家

チャールズ・ブラケットアンモラルだとられてしまい(笑)

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映画会社と契約したばかりのレイモンド・チャンドラーに脚本を依頼

なるほど、チャンドラーらしい洒落たセリフがあちこちで出てきます

マッチに指で火をつける仕草も粋でかっこいい

 

でも気難しいチャンドラーとワイルダー

ジェームス・M・ケインも折り合いが悪かったということ

そのわりにはちゃっかりカメオ(序盤で雑誌を読む男)出演

させてもらうという図々しさ(笑)

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深夜のロサンゼルス、猛スピードで走ってきた車が止まり

撃たれた男が保険会社のオフィスにやって来ました

そして口述式のテープレコーダーのマイクに向かい

同僚のキース(エドワード・G・ロビンソン)に告白を始めます

 

男はその会社で働く保険勧誘員ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)

数か月前、自動車保険の更新に訪れたディートリチスン氏の屋敷で

夫人のフィリス(バーバラ・スタンウィック)が脚に着けているアンクレットから

目が離せなくなってしまいます

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今でこそアンクレットを付けている女性は珍しくありませんが

「昼下がりの情事」(1957)でもですが

当時のアメリカでは男を誘う象徴だったのかも知れません

 

夫人のエロスの虜になってしまったネフは

保険金殺人の計画にまんまと乗せられてしまいます

ディートリチスン氏に自動車保険更新の書類のほかに

もう一枚、倍額特約の書類にサインさせることに成功します

 

契約書にサインさせる微妙な手の動きの巧みな演出

ここから主人公は犯罪者になってしまうわけですが

思わず完全犯罪が成立することを願ってしまう自分がいる(笑)

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ディートリチスン氏は足に怪我をしてしまい

松葉杖でスタンフォード大の同窓会へ行くことになり

夫人が運転する車に乗り込みます

 

そこを後部席に隠れていたネフがディートリチスン氏を絞め殺し

彼になりすまして列車に乗るのです

ここでカメラは殺人の様子を写すことはありません

そこにあるのは、表情をまったく変えない夫人の顔だけ

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しかし展望車で乗り合わせた乗客に顔を見られてしまう
乗客がいなくなったすきに列車から飛び降り、車で先回りしていた夫人と合流

本物の死体と松葉杖を線路に置く

車のエンジンが、なかなかかからないのにはハラハラ(笑)

 

ディートリチスン氏は過失死と認められ

夫人には倍額保険が支払われることになります

だけど保険調査員のキースは警察の調査がどうしても腑に落ちない

過失死するには列車の速度が遅すぎると、ひとりで調査を始めます

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そしてもうひとり、ディートリチスン氏のひとり娘ローラ

事件が落ち着くまで夫人と会うのを控えていたネフは

今度はローラに懐かれてしまいます(笑)

ネフのほうも夫人より、若いローラのほうに心を奪われていく

 

ローラの恋人ニノに殺人の嫌疑がかかりますが

ローラは父親を殺したのは夫人だと言います

夫人は元看護師で、病気の母親を殺して父親と結婚して

今度はお金のために父親を殺したのだと

すべて奪って私を寄宿舎に入れようとしていると訴えます

 

キースも犯人は夫人だと考えていました

しかも協力者がいる

ディートリチスン氏になりすまして列車に乗ったのは誰なのか

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ネスはキースの的確な推理によって不安に駆られ

あれほど愛していた夫人にイライラしてくる

ついにニノと夫人との関係がばれたことで大喧嘩になり

夫人は銃を取り出し、共犯なのに裏切り者だとネフに発砲します

ネフは力ずくで銃を取り上げ夫人を撃ってしまう

彼女の最後の言葉は「抱いて・・」でした

 

夫人はネフを本当に愛していたのかもしれないな

心に自分と同じ黒いものを持っていることに、最初から気づいていた

同じ穴のムジナなのに、自分だけいい人になってローラにつくなんて許せない

女の嫉妬心が彼に銃口を向けてしまったのです

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夜明けに誰より出勤するキースは、ネフの告白をすべて聞いていました

受話器をとり警察に通報、そして最後の煙草に火をつける

「同僚だから身近すぎて、俺が犯人だと気がつかなかっただろう」

「同僚?それ以上だ」

犯罪者と知っても揺るがない、男同士の友情が美しい

 

ちなみに「マンハッタン殺人ミステリー」(1993)の作中で

ウディ・アレンダイアン・キートンが見ているのがこの作品

皮肉なことにその頃アレンもミア・ファローの養子、スン=イーに手を出し

とんでもないことになっていました(笑)

 

 

【解説】KINENOTEより

「流刑の大陸」のジョセフ・シストロム製作の心理スリラー映画、1944年作品。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などの作家ジェームズ・M・ケインの小説を「皇帝円舞曲」のビリー・ワイルダーと「見知らぬ乗客」のレイモンド・チャンドラーが脚色、ワイルダーが監督にあたった。撮影は「砂漠部隊」のジョン・サイツ、音楽は「悲恋の王女エリザベス」のミクロス・ローザの担当。主演は「スピード王(1950)」のバーバラ・スタンウィックと「ジャバへの順風」のフレッド・マクマレイで、「飾窓の女」のエドワード・G・ロビンソンが共演。以下当時新進のジーン・ヘザー、「月世界征服(1950)」のトム・パワーズバイロン・バー、リチャード・ゲインズらが出演する。