「私はひとりの女のために人を殺した だが金も女も手に入らなかった」
原題の「Double Indemnity」は「倍額保障」という保険用語
ここでは自動車に比べ鉄道は事故が少ないので
鉄道の死亡事故の場合、車の倍額保険金が支払われる特約付保険のこと
その後数多くのミステリー映画やドラマの原型となったと言われる本作
「刑事コロンボ」も明らかに影響を受けていると思います
そのせいで、今見ると新しいトリックはなにもないのですが(笑)
白黒の光と影をうまく利用した画面作りと
ミクロス・ローザのスコアが不安を煽る
エドワード・G・ロビンソンの強烈な個性も圧巻
原作は「郵便配達は2度ベルを鳴らす」のジェームス・M・ケインで
当時は不倫、悪女、保険金殺人という内容に、映画化が危ぶまれたそうです
ビリー・ワイルダーとのコラボレーションで知られる脚本家の
チャールズ・ブラケットにアンモラルだと断られてしまい(笑)
映画会社と契約したばかりのレイモンド・チャンドラーに脚本を依頼
なるほど、チャンドラーらしい洒落たセリフがあちこちで出てきます
マッチに指で火をつける仕草も粋でかっこいい
でも気難しいチャンドラーとはワイルダーも
ジェームス・M・ケインも折り合いが悪かったということ
そのわりにはちゃっかりカメオ(序盤で雑誌を読む男)出演
させてもらうという図々しさ(笑)
深夜のロサンゼルス、猛スピードで走ってきた車が止まり
撃たれた男が保険会社のオフィスにやって来ました
そして口述式のテープレコーダーのマイクに向かい
同僚のキース(エドワード・G・ロビンソン)に告白を始めます
男はその会社で働く保険勧誘員のウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)
数か月前、自動車保険の更新に訪れたディートリチスン氏の屋敷で
夫人のフィリス(バーバラ・スタンウィック)が脚に着けているアンクレットから
目が離せなくなってしまいます
今でこそアンクレットを付けている女性は珍しくありませんが
「昼下がりの情事」(1957)でもですが
当時のアメリカでは男を誘う象徴だったのかも知れません
夫人のエロスの虜になってしまったネフは
保険金殺人の計画にまんまと乗せられてしまいます
ディートリチスン氏に自動車保険更新の書類のほかに
もう一枚、倍額特約の書類にサインさせることに成功します
契約書にサインさせる微妙な手の動きの巧みな演出
ここから主人公は犯罪者になってしまうわけですが
思わず完全犯罪が成立することを願ってしまう自分がいる(笑)
ディートリチスン氏は足に怪我をしてしまい
松葉杖でスタンフォード大の同窓会へ行くことになり
夫人が運転する車に乗り込みます
そこを後部席に隠れていたネフがディートリチスン氏を絞め殺し
彼になりすまして列車に乗るのです
ここでカメラは殺人の様子を写すことはありません
そこにあるのは、表情をまったく変えない夫人の顔だけ
しかし展望車で乗り合わせた乗客に顔を見られてしまう
乗客がいなくなったすきに列車から飛び降り、車で先回りしていた夫人と合流
本物の死体と松葉杖を線路に置く
車のエンジンが、なかなかかからないのにはハラハラ(笑)
ディートリチスン氏は過失死と認められ
夫人には倍額保険が支払われることになります
だけど保険調査員のキースは警察の調査がどうしても腑に落ちない
過失死するには列車の速度が遅すぎると、ひとりで調査を始めます
そしてもうひとり、ディートリチスン氏のひとり娘ローラ
事件が落ち着くまで夫人と会うのを控えていたネフは
今度はローラに懐かれてしまいます(笑)
ネフのほうも夫人より、若いローラのほうに心を奪われていく
ローラの恋人ニノに殺人の嫌疑がかかりますが
ローラは父親を殺したのは夫人だと言います
夫人は元看護師で、病気の母親を殺して父親と結婚して
今度はお金のために父親を殺したのだと
すべて奪って私を寄宿舎に入れようとしていると訴えます
キースも犯人は夫人だと考えていました
しかも協力者がいる
ディートリチスン氏になりすまして列車に乗ったのは誰なのか
ネスはキースの的確な推理によって不安に駆られ
あれほど愛していた夫人にイライラしてくる
ついにニノと夫人との関係がばれたことで大喧嘩になり
夫人は銃を取り出し、共犯なのに裏切り者だとネフに発砲します
ネフは力ずくで銃を取り上げ夫人を撃ってしまう
彼女の最後の言葉は「抱いて・・」でした
夫人はネフを本当に愛していたのかもしれないな
心に自分と同じ黒いものを持っていることに、最初から気づいていた
同じ穴のムジナなのに、自分だけいい人になってローラにつくなんて許せない
女の嫉妬心が彼に銃口を向けてしまったのです
夜明けに誰より出勤するキースは、ネフの告白をすべて聞いていました
受話器をとり警察に通報、そして最後の煙草に火をつける
「同僚だから身近すぎて、俺が犯人だと気がつかなかっただろう」
「同僚?それ以上だ」
犯罪者と知っても揺るがない、男同士の友情が美しい
ちなみに「マンハッタン殺人ミステリー」(1993)の作中で
皮肉なことにその頃アレンもミア・ファローの養子、スン=イーに手を出し
とんでもないことになっていました(笑)
【解説】KINENOTEより
「流刑の大陸」のジョセフ・シストロム製作の心理スリラー映画、1944年作品。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などの作家ジェームズ・M・ケインの小説を「皇帝円舞曲」のビリー・ワイルダーと「見知らぬ乗客」のレイモンド・チャンドラーが脚色、ワイルダーが監督にあたった。撮影は「砂漠部隊」のジョン・サイツ、音楽は「悲恋の王女エリザベス」のミクロス・ローザの担当。主演は「スピード王(1950)」のバーバラ・スタンウィックと「ジャバへの順風」のフレッド・マクマレイで、「飾窓の女」のエドワード・G・ロビンソンが共演。以下当時新進のジーン・ヘザー、「月世界征服(1950)」のトム・パワーズ、バイロン・バー、リチャード・ゲインズらが出演する。