見知らぬ乗客(1951)

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原題も「STRANGERS ON A TRAIN」(電車で見知らぬ人)

タクシーから降りて歩く二人の足下を映すカメラワーク
ひとりは普通の皮靴、ひとりは派手な白黒のストレートチップ
それだけで二人の性格や生活ぶりを表す

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ライターやめがねなど小道具の扱い方の絶妙さ
アクシデント挿入のタイミングの巧みさ
テニスの試合の観客席でひとりだけ首を振らない観戦者
ヒッチさんの映画職人ぶりも随所に堪能できます

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原作は「太陽がいっぱい」で有名なパトリシア・ハイスミス
ここでも「誰もが犯罪者に成り得る」潜在的な犯罪への欲望
人間の善と悪の二面性が描かれています

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マチュアテニス選手のガイ(ファーリー・グレンジャー)は
偶然電車で乗り合わせたブルーノ(ロバート・ウォーカー)から
「奥さんを殺す代わりに私の父親を殺してくれませんか」と
交換殺人を持ち掛けられます

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ガイは悪い冗談だと思って聞き流し、途中駅のメトカブで下車します
そのとき恋人のアンからプレゼントで「A TO G」と刻まれた
特注のライターをブルーノに貸したまま忘れてしまいました

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メトカブで暮らす妻ミリアムは男遊びが絶えず
相手が誰かわからない子を妊娠していました
ガイとは離婚協議中でしたが、突然離婚を取りやめ
お腹の子をガイの子として産んで育てると言い出します
困ったガイは恋人のアンに電話して「離婚協議が長引きそうだ」と告げ
「妻を絞め殺してしまいたい」と漏らします

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ブルーノはバスに乗り、夜の遊園地へ向かっていました
2人の男とデートするガイの妻の後をつけて、湖の小島まで追いかけ
男と離れた隙に妻を絞殺、彼女のメガネを現場から持ち去るのです

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ヒッチさんは絶対「窒息プレイ」フェチですね(笑)
(そんなこと言ってるのオマエだけだ)
「ロープ」(1948)は絞殺がファースト・カット
「ダイヤルⅯを廻せ!」(1954)ではグレース・ケリーをねちっこく絞めつける
極めつけは「フレンジー」(1972)のネクタイを使った連続殺人(笑)

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そこからは、警察ガイが犯人と疑う~アリバイを証明できなければガイ逮捕
ブルーノに呼ばれたガイはメガネを見せられる~再び交換殺人を持ち掛けられる
ガイ、恋人のアンに相談に行く~アンの父親で代議士のモートン
メガネっ子の妹バーバラ(ヒッチコックの娘)がガイを気遣う

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犯行時間にガイと電車に乗り合わせた微分学の教授が見つかる
~酔っていてガイのことを覚えていない
モートン代議士のパーティ~ブルーノが現れご婦人たちと殺人談義
夫人に首絞のゼスチャー~アンの妹の眼鏡~夫人を絞め殺しそうになる
妹の証言~アンに「交換殺人」の話を打ち明けるガイ

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テニスの試合の日~ガイは殺人現場にブルーノより先に行くことを計画
対戦相手が強くフルセット~ブルーノが遊園地に到着~ライターを下水溝に落とす
ガイが試合に勝ち遊園地に急ぐ~警察が遊園地を警戒パトロール
ボート乗り場で順番待ちするブルーノ~係員がブルーノの顔を覚えている
(ライター置きに行くだけなのに、日没まで待つ意味は不明 笑)

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ガイとブルーノの回転木馬の中での乱闘
警官が回転木馬の操作係を誤って射殺(これはダメでしょ)
暴走する回転木馬~木馬から落ちそうになる子ども~助けるガイ
床下に潜るおじさん~ブレーキ~無残に潰れて停止する木馬

揉み合いと回転木馬の事故でブルーノ死亡
手に握られていたライターにより、ガイの無実が証明

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直接的に残酷なシーンを見せなくても、恐怖を煽る上品な演出はさすが
遊園地の力自慢のゲームでの腕力の誇示
子どもの風船を無意味に割ってみせる狂気
絞殺をメガネのレンズ越しに写す
真夜中に忍び込んだ屋敷の番犬、寝室での待ち伏せ
厳格な父親、母親の異常性(ルサンチマン
映画のお手本となるシーンを挙げれば、キリがない

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また原作は同性愛者ものなので
愛する気持ち→殺意、ペニスの代わりにナイフを突き立てる(町山氏解説)
そんな側面で最初から見るのも面白いかも知れません

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サスペンス要素は十分、遊び心もたっぷり
なによりデヴィッド・O・セルズニックとお別れして正解です(笑)

 


【解説】allcinemaより
 言葉を失うくらいの映像魔術に陶然とする、テーマ的にも手法的にもヒッチコックの絶頂を示すスリラーの傑作。開巻の視覚的な、二人の男の“接近遭遇”を示すショットの連なりからして、大胆で素晴らしい効果をあげている。「太陽がいっぱい」のP・ハイスミス原作の同性愛的ムードを底辺に漂わせ、ひたすら強烈な状況設定の鎖として映画を見せていくヒッチ演出。列車の中で、テニス選手のガイ(グレンジャー)は見知らぬ男に声をかけられる。その男ブルーノ(ウォーカー)は、ガイが悪妻ミリアム(エリオット)と別れたがって果たせないでいるのを知っていた。そして、一方的に、口うるさい自分の父との交換殺人を持ちかけ、勝手に計画を実行に移してしまう。ガイは国会議員モートンの娘アン(ローマン)と一緒になりたいと思っていた。確かに動機は存在するのだ。そして、ブルーノは列車内でくすねた彼のライターを“物証”として握っている。アリバイも怪しげで、ブルーノの脅迫にビクついていたガイはいよいよ警察に不信の目でみられるが……。有名な遊園地を舞台にした二つの殺害現場をクライマックスや、全員が首を左右に振って見入るテニスの試合でただブルーノの首だけが動かずガイを見つめている、といった何気ないショットの計算の確かさにも目をみはらされる。脚色家の筆頭に作家チャンドラーの名がみえるが、実際の所、何もしないに等しかったそうである。DVDはラスト・シーンの処理が異なるイギリス版を同時収録した「特別版」となっている。