
原題は「Le passé」(過去)
アスガー・ファルハディの映画って
まっこうから国、文化、宗教、男と女の違いをぶつけてくる
どこからどう切り出したらいいのか
私にとってレビューを書くのが最も難しい監督のひとり
(もうひとりはドゥニ・ヴィルヌーヴ 笑)

ここでの「過去」とは失敗した結婚生活のこと
夫(イラン人)に去られた妻(フランス人)は寂しさを紛らわせるため
新しいパートナー(イラン系フランス人)と交際しますが彼も既婚
男の妻は夫の浮気で鬱になり自殺未遂
その半年後、女の妊娠が発覚
男と結婚したい女は、外国に住む夫を離婚手続きのため呼び寄せるところから
物語は始まります

優柔不断(優しい)の夫に、男に依存しなければ生きていけない妻
でも、ここではなぜW不倫に至ったか、というより
そのことが原因でもたらした不幸が描かれています
何より振り回されるのが子どもたち
(子役、特に男の子の演技が逸品で苦しくなる)
なのに大人は反省しない
それよりも不都合な「過去」はなかったことにしようとするのです

4年ぶりにイランからパリに戻ったアーマド
薬剤師の妻マリー=アンヌが恋人と再々婚を希望していて
離婚の手続きをするため呼ばれたのです
マリーには17歳のリシューと5歳のレアという娘がいて
ホテルに宿泊するつもりだったアーマドに
最近リシューの様子がおかしいので、家に泊まって
彼女と話をして欲しいと頼みます
リシューとレアはマリーの前夫の子、いわゆる連れ子ですが
アーマドになついているのですね

もとは自分の家といえ、マリーが恋人のサミールと
彼の息子フアッドもいる家に寝泊まりするのは居心地悪い
それはサミールとフアッドも同じ
(アーマドはサミールの存在を、サミールはアーマドの訪問を知らされていなかった)
でもマリーにとっては離婚手続きと
(再婚に反対している)リシューを説得することのほうが大事
徐々に彼女の身勝手さが見えてくるようになります
アーマドがリシューに家に居たがらない理由を聞くと
サミールは離婚しておらず、しかも彼の妻は自殺未遂で植物状態
その原因は不倫に原因があるのだと話します
さらにマリーがサミールを選んだのはアーマドと似ているから(つまり身代わり)
戸惑うアーマド

しかしマリーからサミールの子を妊娠していると打ち明けられ
正式に離婚することを受け入れるアーマド
その後昔馴染みで親友のシャーリヤルが経営する食堂に行き
アーマドはリシューにマリーがサミールの子を妊娠していることを伝えます
ショックを受けるリシューを(自殺が不倫のせいではないと)納得させるため
マリーから事情を聴き、サミールの経営するクリーニング店の従業員
ナイマをリシューに会わせるアーマド
ナイマの話ではドレスについた染みのことで客とトラブルになったとき
サミールの妻セリーヌがナイマに言いがかりをつけ警察に突き出すと言い
(ナイマは不法移民なので警察沙汰になると困る)
それを知ったサミールがセリーヌを叱り
(仕事が出来るナイマではなく)彼女のほうを出入り禁止
その数日後、セリーヌは自殺未遂
つまり自殺の原因は、彼女がもともと患っていた鬱と
客とのトラブルと、ナイマへの恨みということ

ここまででもややこしいのに、これで解決ではない
むしろここからサスペンスがファルハディ(笑)
その夜リシューが家出をしてしまい
リシューがシャーリヤルの家にいることがわかり
アーマドが彼女を迎えに行くと

リシューはセリーヌが自殺した前日、サミールのクリーニング店に電話をし
セリーヌから聞いたアドレスに、マリーのサミールとの不倫メールを
マリーの携帯から転送したことを教えます
自殺の本当の原因は自分にあったと悩むリシューに
アーマドは、自分を許すためにはマリーに真実を話すことだと促します
しかしマリーは錯乱しリシューに「出て行け!」と叫び
アーマドともお互い責め合ってしまいますが
いざ冷静になってみるとリシューがいない(一応母性は残ってる)
アーマドにリシューを探しに行くよう頼みます
マリーはリシューがしたことを伝えるため
サミールに会いに行くと(でもやっぱり男が大事)
彼は妻の香水と、妻の好きな香りの自分の香水を箱に詰めていました
植物状態でも匂いには反応することがあると知り
妻が回復するならどんなことでも試したいといいます
それは「失敗した結婚を取り戻すため」

「でも、妊娠した」
「あれは事故だ」
サミールにしてみれば、勝手に夫をイランから呼んできて
リシューは問題ばかり、マリーとの生活にはもううんざりなのでしょう
そして彼自身も自分がアーマドの身代わりだと知っている
だからといってここまで言う?なんですけど
フランス男はコンドームをつけるのがあたりまえだそうで
望まない妊娠はまさしく「事故」なんですね
「まだ中絶もできるわ」と答えるマリー

リシューが妻と話したということに疑問に思ったサミールは
(自殺の前日セリーヌは店に居なかった)
妻のアドレスを教えたのはナイマであることに気付きます
サミールがナイマを問い詰めると
セリーヌは夫が不倫していることに気がついていて
相手は(マリーではなく)ナイマだと思い込み
ナイマに嫌がらせをしていたんですね
セリーヌのアドレスを教えたのは確かだけど
ナイマは転送されたメールをセリーヌは見ていないと言います
もし見ていたらセリーヌは薬局のマリーの目の前で自殺する
自分とフアッドの前で洗剤は飲まないはずだと

しかしサミールはナイマを許しませんでした
自分の浮気など棚に上げ
行く当てのない彼女をクビにし店から追い出します
しかもマリーには「お腹の子はなかったことに」と告げるのでs
「できる?」
「その方が良い」
「出来なかったら?」
答えないサミール、黙って煙草を吸うマリー
アーマドは娘たちに別れを告げイランへ帰る準備をし
(4年前帰国した理由を語ろうとするがマリーは断る=許さない)
サミールはセリーヌの病院を訪れていました
セリーヌの好きだった香りを首つけて
「匂いがしたら手を握ってくれ」と話しかけ
彼女に寄り添うと彼女の目から一筋の涙

ただ、彼女がサミールの手を握り返したかどうかは明かされません
マリーの腕の怪我の理由も最後まで明かされません
(妊娠したことでサミールと喧嘩になったのかも知れない)
マリーが中絶するか、産む決意をするのかもわからないまま
私の周りにも何組かいますが
家族を捨て、不倫相手と結婚した人に共通して感じるのは
「自分たちさえ幸せになればいいのか」という疑問
そこはやはり、イラン人のファルハディ監督
浮気、離婚、中絶、嘘・・全て罪、神への冒涜
結局は罰が当たり最後は自分が苦しむんだよと
警告しているようでした
【解説】映画.COMより
イラン映画で初めてアカデミー外国語映画賞を受賞、ベルリン国際映画祭でも金熊賞を含む3冠を達成した「別離」(2011)のアスガー・ファルハディ監督が、初めて国外を舞台に撮り上げた長編作。子連れのカップルが再婚を考えるが、娘の告白がきっかけで、それぞれの過去や本心が次々と明らかになり、見えなかった真実が浮き彫りになっていく様子をサスペンスタッチに描いた。夫と別れて4年がたつシングルマザーのマリーは、子持ちの男性サミールとの再婚を予定し、新たな生活を始めていた。しかし、正式な離婚手続きをしていないため、イランにいる夫のアーマドをパリに呼び寄せる。アーマドはマリーの新しい家庭と生活を目の当たりするが、そこにはどこか不穏な空気が流れていた。長女リュシーとの関係がうまくいっていないというマリーから、娘の本音を探ってほしいと頼まれたアーマドは、リュシーの話を聞くことになるが……。主演のマリー役は「アーティスト」のベレニス・ベジョで、カンヌ映画祭女優賞を受賞。
2013年製作/130分/G/フランス・イタリア合作
原題または英題:Le passe
配給:ドマ、スターサンズ