幸せなひとりぼっち(2015)

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 原題は「En man som heter Ove」(オーヴェという名の男)

アプローチはC.イーストウッドの「グラン・トリノ」(2008

だけど同じ頑固爺の「征伐」でも、 国が変われば

ラストの幕の閉じ方もかなり違います

 

妻に先立たれ、仕事までクビになった59歳のオーヴェ

愛する妻の元に逝くために、首つり自殺

車での一酸化炭素中毒の自殺、猟銃自殺を試みるものの

隣に引っ越してきたおせっかいなイラン人家族のせいで

なかなか死ぬことができません

 

次に列車自殺を図ろうとしますが、逆に線路に落ちた人を助けてしまう

放っておいて欲しいのにヒーロー扱いされ記者までやってくる

毒舌クソ爺にもかかわらず、近所の人にも嫌われていないようだし

不本意にも子ども達に懐かれ、野良猫は居候

ついには家を追い出されたゲイの青年まで頼ってくるのです

 

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そんななか、少しづつオーヴェの過去が明らかになっていきます

 

母親を亡くし父子家庭の生活、父親の死

ソーニャとの夢のような出会い、結婚、妊娠

そして夫婦でスペイン旅行に行った帰り道、事故にあい

ソーニャは子どもを失ったうえ、車椅子生活になってしまいます

 

なのにどんな苦難も諦めず、いつも前向きで明るい

素敵な素敵なソーニャ

そして誰よりも、頑固で偏屈なオーヴェ

(サーブ車へのこだわり 笑)の理解者だったのです

その彼女が癌で死んでしまう

 

これはスウェーデンだからこそ作れる作品なのでしょう

スウェーデン社会福祉政策は高水準で

高齢者、社会サービス、医療、こどもの権利、障害者支援等が

整っているそうで、物語の中にもそのようなテーマが

いくつも織り込まれています

 

舞台となるのは住宅が集まっているコミュニティー

日本で言えば”団地”ですが、それぞれが一軒家

オーヴェは元自治会長で、かって一緒に自治を立ち上げた

元親友とはいまだに喧嘩中

 

その親友も全身麻痺で車椅子生活なのですが

自宅で妻が介護しています

 

また、この作品が作られた2015年ごろは

減少する労働力のためにと、数多くの難民を受け入れ

無償で住居(作中にあるような団地)を支給し
生活に必要な物資(冬用の靴、メガネ、ベビーカーなど)

大人1人当たり1日約900円の生活費

医療費は無料か、低価格という手厚い支援を行ってきたそうです

 

なのでオーヴェからも、なんだかんだ言いながら

物を貸したり、子どもを預かったり、車の運転を教えたり

差別のようなものは感じられません

 

しかし現在はあまりにも急増した難民によって

さすがのスウェーデンでも反難民・反移民勢力が躍進し

難民に対する国民の目はかなり厳しくなっているそうです

 

隣人のイラン人妻によって、本来のやさしさを取り戻していくオーヴェ

ずっと抱えていた怒りが収まり、再び友情を見つけたとき

赤い靴を履いたソーニャが迎えにきてくれました

 

葬儀に集まった会場いっぱいの人々

彼が元自治会長として懸命にやってきたことに

みんな感謝していたのです

 

だけどたった5年前の映画なのに、ここに描かれているのは

もはや”古き良き時代”

 

高齢化の進展による社会保障費の増大と労働人口の減少

移民による人口問題や経済問題の解決策の失敗は

どこの先進国も抱える問題だけれど

 

争おうとする姿勢を示すだけでなく

平和を目指すための話し合いを皆でもっとしてほしい

そんな思いを感じ取れると思います

 



【解説】allcinemaより

フレドリック・バックマンの同名ベストセラーを映画化したスウェーデン製ハートウォーミング・コメディ・ドラマ。愛する妻に先立たれ、長年勤めた職場もクビになった孤独な不機嫌オヤジが、近所に越してきた移民家族に振り回されながらも、彼らとの思いがけない交流によって再び生きる希望を見出していく姿をユーモラスなタッチで綴る。主演は「アフター・ウェディング」のロルフ・ラッスゴード。監督は「青空の背後」のハンネス・ホルム。
 最愛の妻ソーニャを病で亡くし、長年勤めてきた仕事も突然のクビを宣告されてしまった59歳の孤独な男オーヴェ。すっかり絶望し、首を吊って自殺を図ろうとした矢先、向いに大騒ぎをしながらパルヴァネ一家が引っ越してきた。自殺を邪魔されておかんむりのオーヴェだったが、陽気な主婦パルヴァネは、そんなことお構いなしにオーヴェを積極的に頼るようになっていく。何度も自殺を邪魔された上、遠慮のないパルヴァネに最初は苛立ちを隠せないオーヴェだったが…。