イゴールの約束(1996)

原題はLa Promesse」(約束)

喉に棘が刺さって飲み込めないようなストーリーですが

傑作でした

 

日本でも改正入管法が成立して話題になりましたが

難民がどのような生活をしているか

違法就労者や不法入居者がどれくらいるのか

近所でよく見かける外国人は合法な移住者なのか

実際のところよくわかっていません

想像がつくといったら、自分の故郷を捨ててまで

外国に来なければならない事情があること

(紛争などで)帰りたくても帰れないこと

 

そして本作の舞台ベルギーだけでなく

日本人のほとんども(私も含め)実は難民に対し想像以上に冷たく利益優先

不法移民の多くが犯罪組織に雇われるしかなかったり

しかも利益のほとんどはむしり取られてしまう

そういう現状はあるかも知れません

15歳の少年イゴール

学校には通わず、自動車工場で整備士になるため見習いをしながら

父親の違法就労させるための(認定されていない)難民を売買する

仕事を手伝っています

 

そしてもろに父親の影響を受けている(笑)

同じ指輪、同じ刺青

同じようにタバコを吸い、喋り方も一緒

車の調子が変だと老婦人が修理工場に来ると

気安くボンネットを開けてファンベルトを直し

老婦人が「おいくら?」と言っても「要らないですよ」

何て親切なんだと思うわけですが(笑)

 

老婦人が財布が無いのに気付き「おかしいわ」と言っても

「どこかに置き忘れたんじゃないですかと」平然と答え

事務所に戻ると裏庭に行き、赤い財布から札だけ抜き取って埋めるのです

工場長が「仕事を終わらせてからにしろ」と言っても

父親が迎えに来るとさっさと帰り支度して

ちゃっかり趣味のゴーカートのマフラーを頂いていく

盗みが板についています

 

父親とベルギーに密入国してきた人々を引き取りに行き

父親は移民をボロアパートに高い家賃で住まわせ

不法就労を斡旋し手数料をせしめていました

その中のひとり古株のアミドゥは

西アフリカのブルキナファソ(世界で最も貧しい国のひとつ)からやって来た

若妻のアシタと、生まれた赤ちゃんと再会し暮らし始めました

イゴールはアシタが気になり、部屋を覗き見したりしてします

 

いつものように、イゴールが工場で働いていると

父親から移民局の査察が入るという電話がかかってきて

急いで現場に行き(工場長からはクビを宣告される)

走り回りながら、作業中の移民たちに身を隠す様に伝えていると

知らせを受けたアミドゥが慌てて足場から落下、動けなくなってしまいます

「妻と娘を頼む」とアミドゥ

救急車を呼ぼうとするイゴール

(警察を恐れ)アミドゥを戸板の影に隠すよう命令する父親

流れ出血を砂で隠し、何事もなかったように移民局の職員に対応する

 

夜になり、イゴールは父親とアミドゥの遺体を運び

セメントを流し込み固めてしまいます

夫がいなくなり騒ぎ出すアシタ

そこにアミドゥを探しに借金取りがやって来ます

アミドゥはギャンブル好きで1万フラン負けていたのです

 

「前にも借金取りから逃れるため雲隠れしたことがある」と

イゴールは苦しい言い訳をし

アシタを助けるため、アミドゥの借金を肩代わりします

しかし父親にバレ、殴る蹴るの暴行を受けてしまう

(父親の愛人が助けてくれる)

こんな父親だけど、息子は唯一無二の存在

違法な仕事でお金を稼いで、タンス貯金をしているのも

イゴールと暮らす家を買うため

カラオケバーに連れて行って女をあてがい、デュエットする

やり方があっているかどうかは別にして(笑)

息子を愛していることは間違いないのです

 

アミドゥが帰って来なければ警察に行くと言うアシタに

父親は知人を雇いアシタを襲わせ

ひとりでいると危険だから故郷に帰りなさい勧めます

しかしアシタの意志は硬い

に父親は「明日ケルン駅で待つ アミドゥ」というニセ電報を打ち

翌日アシタをケルン駅まで送ることにします

長年一緒に仕事をしてきたイゴール

父親が「金は要らない」とアシタに言うのを聞いてピンと来ました

 

父親が車を離れた隙に、運転席乗り込むイゴール

アシタイゴールの首にナイフを突き付け理由を聞くと

「ケルンはウソ、娼婦として売るため」

「警察に行って」

「だめだ」「親を密告する気はない」

アシタを勤めていた工場の離れに隠すイゴール

そこでアシタの赤ちゃんが熱を出してしまい

苛立っているアシタはイゴールに「出て行って」と叫びます

泣いてしまうイゴール

 

イゴールがアシタを守ろうとしているのは

アミドゥと約束したからだけじゃない

15歳とはいえ本当はまだ子ども

母親を知らないイゴールは、赤ちゃんを抱くアシタに

母親の姿を見ていたのです

年上の女性に初恋的な感情もあったかも知れません

イゴールは父親から貰った指輪を現金に換え

アシタと赤ちゃんを病院に連れて行きます

しかし保険が効か450フラン足りない

 

困っているイゴールを見た清掃員の女性不足分を払ってくれました

彼女も西アフリカからの移民でした

 

ロザリーと名乗るその女性は、ふたりを占い師に連れて行きます

占い師はしアシタにイタリアの親戚のところに行くべきだと答えます

イタリアに行き赤ちゃんを預け、その後アミドゥを探す決意をしたアシタ

出国のための身分証明書はロザリーが貸してくれました

ターバンを巻けば、顔なんてわからないわよ

隠れ家に戻ったイゴールが、壊れたアシタのお守りを直していると

父親が現れアシタを取り戻すため襲ってきました

アシタが父親の頭を殴り、イゴールが父親の足を鎖でつなく

「お前のためにしていることなんだ」と叫ぶ父親



そしてラストがものすごくいい

映画だけど、映画の「FIN」じゃないんです(笑)

終わりじゃない

この後も人生は続く

に向かい黙々と歩くふたり

イゴールはついにアミドゥが死んだことを告白します

もうここには戻ってこないほうがいい


アシタの顔は見えない

言葉を発することもな

揺れる背中

いい年をして故郷に金を送るどころか

ギャンブルに借金まみれ

そんな夫でも頼って来るしかなかった

イゴールが父親と離れられないのと同じ

彼もまた父親のところに帰るでしょう



それでも、駅に着くまで、汽車に乗るまで

アシタがイゴールに少しでもやさしくできますようにと

祈る自分がいました

 

 

【解説】映画.COMより

父親に盲従していた下層階級の少年が精神的に自立していく姿を、不法移民問題をからめて描いたドラマ。監督はベルギーのドキュメンタリー畑出身のルックとジャン=ピエールのダルデンヌ兄弟で、本作が長編第3作目。主演は新人のジェレミー・レニエ。共演は「八日目」のオリヴィエ・グルメほか。カンヌ映画祭「ある視点」部門で注目され、パリで小規模公開ながらロングランを記録。

1996年製作/93分/ベルギー・フランス・ルクセンブルクチュニジア合作
原題:La Promesse
配給:ビターズ・エンド