裸のランチ(1991)

原題も「Naked Lunch

原作はビートジェネレーション派作家の代表ウィリアム・バロウズの同名小説

 

ビートジェネレーション(ビートニク)とは

(社会的や、政治的に)騙され、打ちのめされ、心身的に消耗したり

ドラッグによる精神や(自由恋愛・同性愛といった)性の解放を愛好した

文学運動やそれに影響を受けたライフスタイルを実践したグループのこと

しかし1950年代当時同性愛国家から認められておらず

(同性愛者は子孫を残せないという理由で、生産性のない差別対象だった

政治犯罪者として扱われていました

そこでハロウズが作り出した架空の理想郷が

インターゾーン(原作ではフリーランド)

インターゾーンでは麻薬中毒者が蔓延し

同性愛者による性行為が公然と行われています

一方で政治や警察は腐敗し、密売者や密告者と繋がり私腹を肥やしています

さらにカットアップという文章をバラバラに切り刻み

それを滅茶苦茶に繋ぎ合わせるという手法を駆使しているというから厄介(笑)

ひとことで言えば、麻薬取引に巻き込まれてしまったジャンキーの作家の語が

とんでもなくややこやしいことになっている(笑)

クローネンバーグは(学生時代から敬愛していた)バロウズの原作に加え

実際に内縁の妻を射ってしてしまった事件も描いていることから

最初に脚本を読んだときバロウズは戸惑ったそうですが

クローネンバーグの高いレベルの芸術的技巧に感銘し、祝福を与え

物語を作り上げるため協力したそうです

1953年ニューヨーク

作家になる夢を諦め、害虫駆除の仕事をしているビル・リー

不可解なことに薬剤が切れてしまい、仕事が出来ず家に帰ると

妻のジョーンがゴキブリの駆除剤を麻薬として使用していました

リーは駆除薬と称して麻薬を売っているのではないかと警察に連行され

駆除薬をまぶした巨大なゴキブリと共に取調室に閉じ込められます

リーの上司だと名乗るそのゴキブリ

妻のジョーンはインターゾーンのスパイであり

リーに妻を殺すように命じます

ゴキブリを叩き潰し、扉を破って脱出したリー

駆除薬を断つため、同僚の紹介でベンウェイ医師を訪ねる

ベンウェイ医師からムカデから精製したという

ブラック・ミート」という薬剤を渡されます

しかし「ブラック・ミート」でリーと妻はさらにハイになり

ウィリアム・テルごっこ”という、頭に乗せたリンゴを撃ち落とすゲームで

リーは妻を撃ち殺してしまいます

動転したリーがバーに向かうと、そこで出会ったマグワンプという怪人から

インターゾーンと呼ばれる場所でスパイ活動を行い

情報を報告書で送るよう指示を受けるのです

質屋で「クラーク・ノヴァいうタイプライターを手に入れ

インターゾーンに到着したリーは指令通り報告書を作成しようとしますが

上手く書くことが出来ません

その後、ハンスという男と出会い彼の「ブラック・ミート」の精製工場で

「ブラック・ミート」を口にして部屋に戻ると

タイプライターは巨大ゴキブリの姿に変わっていました

私が今まで見た映画の中で、クリーチャーの出来は上位ランキング

タイプライターとゴキブリが合体したバグライター

肛門のような口はお喋りをし、同性愛的な部分もあります

突起部から(ハイになる)液体が出るマグライター

女性器や尻がモチーフのセックス・ブロブと呼ばれるもの

クリーチャーデザインは、アカデミー賞最優秀メイクアップ賞を

受賞したこともあるステファン・デュプイ

最初のほうこそゴキブリが出てきただけで鳥肌ものでしたが(笑)

この「キモチワルイ」造形も、見慣れてくれば

ジブリのキャラクターのように可愛い

(そう思うのはオマエだけだ)

ある日、妻と瓜二つの女性ジョーンを見つけたリーは

男娼キキの紹介で、ジョーンとその夫トムに会います

トムが自分のタイプライター「マルティネリ」をリーに貸し与えると

クラーク・ノヴァ」は「マルティネリ」をスパイだと食い殺し

ジョーンを調査のため誘惑するよう命じます

ジョーンを訪ねたリーはブラック・ミートを舐めさせ

トムのタイプライターで卑猥な文章を打たせると

タイプライターは体のような虫に姿を変え快悦を与えてくる

家政婦ファデラによって虫は窓から投げ落とされ

壊れタイプライターを見つけたトムは

リーに「マルティネリを返すよう要求します

ジョーンは呪術師に姿を変えた家政婦のファデラ(恋人関係にある)と

どこかに行ってしまい

 

部屋へ戻ったリーが報告書を作成していると

痺れを切らしたトムがやって来て、壊れた「マルティネリ」の代わりに

クラーク・ノヴァ」を持ち去りました

「マルティネリ」の残骸を袋に入れ彷徨い、浜辺で倒れてしまうと

作家仲間のハンクとマルティンがやってきて

出版社が早く小説を書き上げるよう急かしていると

出来上がった原稿を受け取り帰ってしまう

キキの案内で、修理工場にマルティネリ」持ち込むと

マルティネリ」は「マグワンプ顔のタイプライターになり

リーが報告書を打っているとマグワンプ」は

クローケ(リーに性的な興味を持っている)と接触

ベンウェイ医師を探れと命令します

 

キキの仲介でクローケに近づいたリーは

ベンウェイ医師とファデラが親しいことを聞き出しました

トムの家では、修理した「マルティネリ」と

拷問されて瀕死の「クラーク・ノヴァ」を交換し

クラーク・ノヴァ」からジョーンとファデラが

ハンスの「ブラック・ミート」工場にいることを教えられます

工場はマグワンプに似たの突起物から滲み出る液体を吸

中毒者で溢れていました

ジョーン導かれファデラ対面する

ファデラは変装したベンウェイ医師でした

ベンウェイ医師は極東のアネクシアという国麻薬ビジネスを展開するため

インターゾーンブラック・ミートを精製し人体実験をしていたのです



ベンウェイがリーにアネクシア派遣員になることを提案すると

リーは、ジョーンを連れていくことを条件に承諾します

アネクシア検閲車を止められたリーは、職業は作家だと答え

検閲官に作家であることを証明しろと要求される

ジョーンとウィリアム・テルごっこをし、彼女の頭を撃ち抜くと

アネクシアへの入国を許可されるのでした

書けない小説家、麻薬中毒、幻覚、妻殺し、国外逃亡

いくら麻薬で、苦しみや時間の概念を無くしても

その瞬間のエクスタシーで生きていることを実感しても

過去が消えることも、変わることもない、逃れることも出来ない

見事な解釈に思えました

 

 

【解説】映画.COMより

スキャナーズ」の鬼才デビッド・クローネンバーグの監督・脚本で、ウィリアム・Sバロウズの同名小説を映画化。映像化不可能と言われていた難解な原作を大胆に再構築し、原作者バロウズの半生を盛り込みながら悪夢的な世界観で描き出す。
1950
年代、ニューヨーク。害虫駆除員のウィリアムは、仕事用の駆除薬を妻ジョーンがドラッグ代わりに使っていることに気づく。自身も駆除薬に溺れるようになったウィリアムは、誤ってジョーンを射殺してしまう。インターゾーンと呼ばれる謎の街に身を隠したウィリアムは、奇怪な生物マグワンプに命じられて活動報告書を書くことになるが……。
ロボコップ」シリーズのピーター・ウェラーが主演を務め、「バートンフィンク」のジュディ・デイビス、「エイリアン」のイアン・ホルム、「眺めのいい部屋」のジュリアン・サンズが共演。

1991年製作/115分/PG12/イギリス・カナダ合作
原題:Naked Lunch
配給:東北新社
日本初公開:1992年7月