パラダイン夫人の恋(1947)

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原題は「THE PARADINE CASE」(パラディン裁判)
ロバート・ヒッチェンズの原作をアルマ・レヴィル(ヒッチコック夫人)が翻案し
制作のデイヴィッド・O・セルズニック脚本の台詞劇
カメオは38分弱、駅から出てくるペックの後ろでチェロを持つヒッチさん

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ひとことでいうと「ヒッチコックっぽくない」(笑)
殺意のスパイスもなければ、どんでん返しもない
全てが台詞で説明された、男女の愛憎、法廷人間ドラマ

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ヒッチさんとしては実験的意味合いとして撮影したのかもしれないけど
どんな才能ある監督にも向き、不向きというものがあるもの
これは間違いなく、ウィリアム・ワイラー
ビリー・ワイルダーがやらんとダメな系でしょう(笑)

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展開は以下の通り
ひとこと感想は「こんな弁護士はいやだ」(笑)

盲目のパラダイン大佐が毒殺~若く美しい妻が逮捕
弁護士にやり手のアンソニー・キーン(グレゴリー・ペック)が雇われる
キーン、パラダイン夫人(アリダ・ヴァリ)に一目惚れ
判事がキーンの妻、ゲイを誘うが断られる~キーンのやり方が気に喰わない

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死の真相を知る大佐の世話人アンドレが法廷へ
キーン、アンドレが殺した線で無罪判決を勝ち取ろうとする
キーン、 弁護方針をパラダイン夫人に反対され嫌われる
パラダイン夫人への質問~アンドレの自殺の知らせ
パラダイン夫人、アンドレと暮らしたいために夫を殺害したと告白
アンドレを死に追い込んだキーンを法廷で侮辱

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法廷という弁護士にとっての聖域で、最愛の女に振られるという失態を犯し
キーンは妻の元に帰れず、(夫人の顧問弁護士)フラカーの家に泊まろうとする
キーンを迎えに来たゲイは、夫の過ちを許し「弁護士を続けて」と励ますのでした

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この映画の失敗は、愛人のアンドレさえ”邪悪な女”と呼ぶ悪魔の化身
パラダイン夫人の人物造形が描き切れていないこと

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主人に忠実な使用人アンドレにも、法に仕え愛妻家のキーンにも
どんな人間も心の中に悪の部分(ここでは不倫)を持っていて
悪魔の囁きに惑わされ、自我を失い奈落の底に落ちていく

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すべての男を骨抜きにするような魔性の女を演じるのには
アリダ・ヴァリには気品と知性がありすぎる(笑)
ここはもっと現実と狂気ギリギリ演じれる女優連れてこないとダメよ
ベティ・デイヴィスとか、悪役やらせたら本気で殺したくなる女(笑)

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それを救うのが妻のゲイで、こんな出来た女房
現実にいるわけないと思うわけだけど
パラダイン夫人に対して、ゲイの役割は天使なのね

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プロットは悪くないし、演出の巧みさやモノクロ映像の美しさなど
光るものはあるけれど名作になり損ねた残念な作品(笑)

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レイモンド・チャンドラーが脚本を手掛けた「見知らぬ乗客」まであと4年
巨匠にも失敗があったと思えば、勇気が湧くというものです(笑)

 


【解説】KINENOTEより
デイヴィッド・O・セルズニック(「風と共に去りぬ」)が製作し、アルフレッド・ヒッチコックが「汚名」に次いで監督したスリラー1947年。ロバート・シチェンズの原作小説をアルマ・レヴィルとジェームズ・ブリディが潤色し製作者セルズニック自身が脚色した。撮影は「探偵物語」のリー・ガームス、音楽は「陽のあたる場所」のフランツ・ワックスマンの担当。主演は「キリマンジャロの雪」のグレゴリー・ペック、「超音ジェット機」のアン・トッド、それに「第三の男」のアリダ・ヴァリ(本作品が米映画初出演)で、「青いヴェール」のチャールズ・ロートン、「追はぎ」のチャールズ・コバーン、「女海賊アン」のルイ・ジュールダン、エセル・バリモア、ジョーン・テッツェル、レオ・G・キャロルらが助演する。