「イングリッド、たかが映画じゃないか」
原題も「Under Capricorn」
Capricornには「やぎ座」(自己犠牲の星座)のほかに
「南回帰線」の意味をもつそうです(オーストラリアは南回帰線下の大陸)
原作はヘレン・シンプソンの同名小説で
ヒッチコック版「嵐が丘」という感じ(笑)
「パラダイン夫人の恋」(1947)のあと、待望の独立をはたしたヒッチさんが
ハリウッド人気ナンバーワン女優、バーグマンを迎えての第一作
が、バーグマンは(撮影中は怒らないと決めている)ヒッチさんに
納得いかないことは質問攻め、怒鳴りまくり、文句を言い放題
特に長回しのシーンはお気に召さなかったらしく
「カメラはわたしを追い回し、最初から最後まで喋りっぱなし、まるで悪夢だった」
と自伝「マイ・ストーリー」(1980)でも不満を告白しているそうです
一方のヒッチさんも、どうしても成功させたいと意気込んでいただけに
不入りにも悪評にもがっかり
一番の失敗の原因をバーグマンの登用と語り
「バーグマンを手に入れて得意になったのが間違いで、思い上がっていた
この映画は出発点から虚飾の塊だった」と反省し
崇高な演技を使命と信じているバーグマンに「とても疲れた」たそうです
あらすじは
1831年のシドニー、フロンティアタウン
当時のオーストラリアはイギリス諸島から送られた
思想犯や過激派の元囚人でいっぱい
新しい知事 、リチャード卿( セシル・パーカー )を訪ねた
従兄弟のチャールズ( マイケル・ワイルディング )は
殺人罪の元囚人で、実業家のサム( ジョセフ・コットン )に
法的な土地売買を相談します
夕食に招かれたチャールズは、強度の鬱でアルコール依存症の
サムの妻ヘンリエッタ( イングリッド・バーグマン )が
アイルランドで共に過ごした幼馴染で、妹の親友なのに気づきます
サムは妻が元気になることを願い、チャールズに屋敷に留まってくれと頼みます
チャールズの励ましでヘンリエッタは自信と美しさを取り戻していきますが
ヘンリエッタに家事を奪われたのが気に喰わない家政婦のミリー
料理番を決めるのに、3人の汚れた女中に作らせた
不味そうな目玉焼きが出てくるシーンは面白い(笑)
ヘンリエッタが再び鬱になるよう薬物入りのアルコールを飲ませ
チャールズとヘンリエッタの仲を意味深にサムに報告する
真夜中にサムはチャールズを追い出すますが、その馬が転倒で足を折り
サムは馬を撃とうとした銃でチャールズに大怪我を負わせてしまいます
サムは殺人未遂のため起訴され、二度目の有罪になれば死刑が決定
ヘンリエッタは、サムの最初の殺人罪(ヘンリエッタの兄を射殺)で
兄を撃ったのは自分で、サムは罪を被っただけと告白します
リチャード卿 は、サムが無実というヘンリエッタの主張を無視しますが
サムに対するヘンリエッタの真実の愛を知ったチャールズは
サムとは対立も、銃をめぐった闘争もなく
すべては事故だったと証言するのです
怪我が回復し、アイルランドに戻ることになったチャールズは
釈放されたサムと、元気になったヘンリエッタに別れを告げるのでした
ヒッチさんの最悪作品と評され、バーグマンは相変わらずのオーバーアクトだけど
イギリス文学風な純愛ドラマとしては成立しているので
好きな人は好きな作風だと思います
ある意味価値のあるカルト映画かも(笑)
カメラは名匠ジャック・カーディフ
劣化が激しいので、デジタルリマスター版などで見ることができれば
映像はかなり素晴らしいものになると想像できます
もしバーグマンが生きていて、現代の技術で修復された本作を見たら
機嫌も直るのではないでしょうか(笑)
【解説】映画.comより
サスペンス映画の神様アルフレッド・ヒッチコックが、イングリッド・バーグマン&ジョセフ・コットン主演で描いた時代劇ドラマ。イギリスの流刑地だった19世紀オーストラリア。かつて犯罪者としてこの地へ送られ、一代で財を築きあげた街の有力者フラスキーの元に、一攫千金を狙うイギリス総督の甥チャールズがやって来る。チャールズはフラスキーの妻ヘンリエッタが心を病んでいることを知り、彼女を救おうとするが……。