
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに
国及び国民の安全の確保に関する法律(平成15年(2003)6月13日公布)とは
外国の武装勢力やそれに準じるテロ組織が日本を攻撃した場合
日本が民間人を保護、緊急の避難をさせ
武力攻撃に対抗し武装勢力を排除し、速やかに事態を終結させることや
存立危機事態(日本と密接な関係にある他国が襲われ、日本の存立が脅かされること
その他の所定条件を満たす事態)への措置に関する日本の法律である

世間を騒がしている「存立危機事態」
国家があらゆる緊急事態に対してシミュレーションしなければいけないことは
当然のことではあるけれど
国会という場所で「存立危機事態になりうる」(軍事介入する可能性がある)ことを
首相たる立場の人間が明確にしてしまったこの発言
(質問したほうもいかがなものと思うが)
日本語のどっちともつかずな曖昧な言語を、外国語に翻訳したとき
正しく意味が伝わらない場合があることを考慮することも大事ですね

私は国や宗教や政治的思想に関係なく
世界中の人々が平和で豊かに暮らせることを祈っていますが
(外国人による不正や事故、不動産の転売など防ぐには法律や罰金制を整備すべき)
もし、万がいちにでも、日本が「軍事介入」したらどうなるでしょう
同盟国(日本の唯一の同盟国はアメリカ)や、アジア諸国や、国連は
他国の攻撃から日本国民の生活と安全を守ってくれるのでしょうか

もしそう信じている人がいたら、この映画を見て欲しい
いざ戦争が始まったら、敵味方関係なく
「交渉」など全く通じなくなることを
私たちは知っておかなければいけないのです
原題は「Quo Vadis, Aida? 」

1995年、ボスニア紛争中のボスニア・ヘルツェゴビナにおける
国連の安全地域(非武装地帯)であるスレブレニツァにあるポトチャリ基地 で
スルプスカ共和国軍(セルビア軍)が占領してしてきた場合に備え
国連防衛部隊(平和維持軍)オランダ軍のトム・カレマンス司令官と
スレブレニツァ市長と会議から物語は始まります
通訳(国連職員)はかって地元の中学校教師だったアイダ

もしセルビア軍が進軍して来ても、NATOの空軍が支援に来るので
スレブレニツァの町は安心安全だと繰り返すカレマンス司令官
ところがセルビア軍がスレブレニツァを包囲したというニュースが流れ
アイダの夫のニハドと10代の息子ハムディヤとセヨをはじめとする
約2万5000人の住民が保護を求めて国連基地に押し寄せます

基地に避難できたのは約5000人
2万人以上が締め出されてしまいます
かといって基地に入れた住民に水や食料、トイレさえもありません

セルビア軍のムラディッチ将軍はカメラの前でスレブレニツァが解放されたと歓び
オランダ軍に交渉係として民間人の代表者3名を要求します
アイダは夫ニハドはインテリでドイツ語も話せる
交渉係になれるとカレマンス司令官を説得し
夫と長男を基地に入れてもらうことに成功
(次男だけは先に基地に避難していた)

実業家だったムハレムとチャミラという中年女性と共に交渉に向かうニハド
(セルビア人のチャミラに対する態度があからさまなセクハラすぎて怖い)
ムラディッチ将軍は、スレブレニツァ市民(ほとんどがムスリム人の民間人)に
バスを用意し安全な(セルビア軍支配下にある)グラダンに運ぶと約束します
ニハドとムハレムはムラディッチ将軍の言葉を信じますが
チャミラはムラディッチ将軍がどういう男か知っていました
たぶん全員処刑されてしまうだろうということも

基地ではカレマンス司令官が国連にNATO軍の空爆を要請するものの
飛行機が飛んでくるどころか、国連職員に退去命令が出されます
家族をおいて自分ひとりだけ避難できない
アイダは同僚に国連職員のIDの作成を頼むものの
物資不足でプリンターは壊れたまま
通訳仲間の協力で避難名簿に夫と息子の名前を載せてもらったものの
その名前もオランダ軍に消されてしまいます

その間にムラディッチ将軍率いる部隊が基地に到着
カレマンス司令官は部下にセルビア軍を基地に入れるよう命じます
ここでははっきり描かれていませんが
国連はセルビア軍との交渉で
セルビア軍に拘束されていた14人のオランダ軍の解放と引き換えに
避難していた約5,000人のムスリム人を引き渡すことに合意したのです

男性、女性、子どもに分かれて到着したバスに乗せられ
(女装した男の子がいることを教えてしまい、叱られて泣く少年兵)
基地に隠れていたアイダのふたり息子も見つかり連れ去られます
他の母親たちと同じように、泣き叫びながら息子を追いかけようとするアイダ
夫は息子たちは自分が守るからと、同じトラックに乗り込みますが
郊外の建物の中に集められた男たちは、機関銃によって全員射殺されてしまいます

これだけを見ると、一方的にセルビア軍が悪いのですが
1992年、ボシュニャク人(ムスリム人)が多く住むスレブレニツァで
ムスリム人武装勢力がセルビア人約1200人を殺害した事件への報復なんですね
(旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所と国連は報復であることを否定している)

1993年、国連はスレブレニツァを「安全地帯」に指定して戦闘を禁止したものの
1995年7月13日、セルビア人勢力によるによるムスリム人虐殺の開始
7月19日、虐殺の大部分が完了
(行方不明または死亡した人々はわかっているだけで8,372人で8割以上が民間人)
8月4日 、クロアチア軍によるセルビア人勢力への「嵐作戦」が開始
11月21日、「デイトン合意」(ボスニア紛争の公式的な終了)

時が過ぎ、アイダは家族と暮らしていたアパートを訪ねます
そこには若いセルビア人女性と息子が(勝手に)暮らしていて
女性はアイダを暖かく迎え(保管していた)家族写真を返しますが
アイダはできるだけ早く引っ越すよう彼女に伝えます
(彼女も、彼女の夫の元セルビア人兵もアイダの教え子だったようだ)

集団墓地から掘り起こされた遺体が集められた場所では
女たちが所持品を確認していました
そこで夫と次男の着ていた服と靴を確認し、泣き出すアイダ

しばらくしてアイダは小学校の教師として復職
劇の監督として子どもたちを指導していました
発表会の観客席にはかって虐殺に加わったセルビア人と、被害にあったムスリム人
再び隣人となった彼らは、ともに我が子の成長を見つめるだけでした
決して家族を殺した相手を赦したわけじゃない
もう憎む気力さえ残っていないだけなのです
【解説】映画.COMより
「サラエボの花」でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ監督が、1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の中で起きた大量虐殺事件「スレブレニツァの虐殺」の全貌と、その中で家族を守ろうとした一人の女性の姿を描いたヒューマンドラマ。国連平和維持軍の通訳として働く女性を主人公に、家族を守るため奔走する彼女の姿を通して、事件当時に何が起こっていたのか、虐殺事件の真相を描き出す。1995年、夏。ボスニア・ヘルツェゴビナの町、スレブレニツァがセルビア人勢力によって占拠され、2万5000人に及ぶ町の住人たちが保護を求めて国連基地に集まってくる。一方、国連平和維持軍で通訳として働くアイダは、交渉の中である重要な情報を得る。セルビア人勢力の動きがエスカレートし、基地までも占拠しようとする中、アイダは逃げてきた人々や、その中にいる夫や息子たちを守ろうとするが……。第77回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門出品。第93回アカデミー国際長編映画賞ノミネート。
2020年製作/101分/PG12/ボスニア・ヘルツェゴビナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・ポーランド・フランス・ノルウェー合作
原題または英題:Quo vadis, Aida?
配給:アルバトロス・フィルム