「文脈を無視すれば言葉は好きに解釈できる」
原題も「The Trial of the Chicago 7」(シカゴセブン裁判)
2022年北京冬季オリンピックにおいて
香港での政治的自由や民主化デモの弾圧
ウイグル族に対する残虐行為
テニス選手の彭帥さんの安否の懸念などの理由で
アメリカとその同盟国が外交ボイコットをしています
私は中国を援護するわけでも、リベラル派でもありませんが
アメリカ政府がどの口を開いて
中国を批判しているのかわかりません
それともアメリカ人は歴史や現代史を学ぶということを知らないのか
黒人をはじめとする有色人種への容赦ない人種差別
警察官による暴行
ネイティブアメリカンの人々は未だ保留地に閉じ込められ
深刻な社会崩壊現象を引き起こしている
本作でも、被告者たちに裁判という形はとられたものの
判事本人が裁判を中断したり、陪審員を出席させないよう裏工作したり
被告に猿ぐつわをさせたり
判事という名の独裁者、司法もなにもあったもんじゃない
繰り返される「世界中が見てるぞ」というメッセージ
アメリカ政府はまず自分の国の差別や人権
貧困や殺人を解決しろっていうの
話はそれましたが(映画と中国は関係ありません 笑)
シカゴセブンとは1968年8月28日シカゴのグランドパークで行われた
1969年9月24日から1970年2月18日まで行われた裁判のこと
デモではデモ隊と警察隊がぶつかり数百名が負傷を負い
暴動を扇動したとされる8人が共謀罪などの罪で起訴されます
デモに参加していなかったボビー・シールは
裁判から外されたものの法廷侮辱罪で懲役四年の判決
ジョン・フローイネスとリー・ウィンナーの2名は無罪
残りの5名は暴動の示唆で有罪判決をうけたものの
1972年11月21日、上訴裁判所によって逆転無罪を勝ち取ります
普通こういう裁判もの、社会派ものは小難しく
説教くさかったり、同情を煽るものが多いですが
これはわかりやすいし、感情移入しやすい
主要人物が多いにもかかわらず、それぞれのキャラクターを立たせ
ところどころにユーモアを挟み飽きさせない
エンタメとしても成り立っている
アーロン・ソーキンの手腕のなせる技ですね
アマプラやネトフリで配信されているオリジナル映画って
テレビドラマでもいいんじゃない?って内容が多いんですけど(笑)
これは映画として面白かった
民主社会学生同盟(SDS)
トム・ヘイデン(エディ・レッド・メイン)
主に反戦運動を行う団体
シカゴセブンの中で最も論理的で保守的
理不尽な裁判内容に反抗しようとするメンバーをなだめたりします
しかし「血を流せ」と聴衆を扇動するヘイデンの声が録音された
テープが見つかったせいで被告人らを不利にさせてしまう
レニー・デイヴィス(アレックス・シャープ)
SDSのためのコミュニティ組織の全国主催者
デービッド・デリンジャー
ベトナム戦争に反対するデモを組織するために結成された
温厚な性格(にもかかわらず最期はキレてしまう)
イッピー(青年国際党)
イッピー(Yippies)とは
YIP(キャンキャン吠える)とHippies(ヒッピー)の造語
ベトナムでの米軍の暴力や虐殺を、音楽や麻薬や非暴力で訴え
愛と平和とセックスと自由、自然回帰を目指し
巡礼の旅の愛好家として人々から認知されている集団
アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)
コメディアンのようにユーモアあるトークで平和や反戦を訴える活動家
頭が良く知識が深い、皮肉屋でヘイデンを怒らせよく対立する
裁判では判事と名字が被っていることをギャグにしたり
判事や警察官のコスプレをして判事を苛立させる
ジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング)
アビーの弟分のような存在
レイプされそうになった女の子を助けて逮捕されてしまったり
ピュアでやさしい
ステキ女性がFBIの潜入捜査官と知った時のがっかり感が可愛すぎる(笑)
ボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マーティン2世)
ブラックパンサー党(もともとは警察から身を守るための自衛団)の委員長
陪審員の心象を悪くしようと、デモと無関係なのに起訴されてしまう
代理人(弁護士)もつけてもらえず、発言も許されないまま死刑判決を受ける
(のちに激しい釈放運動によって釈放)
もともとはシカゴエイトと知られていたものを、報道陣らは
シカゴセブン(民主主義のために戦った7人の英雄)と名称を替え
彼の名を除いたのにも、アメリカでの白人男性主義の
病巣を感じられずにいられません
シカゴセブン弁護団
ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)
シカゴセブンを擁護したことで知られる弁護士、公民権運動家
弁護人憲法権センター(CCR)共同創設者、アメリカ市民自由連合(ACLU)理事
国家弁護士組合現役メンバー
レナード・ワイングラス(ベン・シェンクマン)
刑事弁護人で憲法擁護者
「サリンジャーを読むのをやめないで」
検察官
リチャード・H・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)
悪徳判事と正義感との板挟みになりながらも根強く辛抱する
作中最もカッコいいのが、アビーとこの検察官
判事
ジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)
被告の発言には法廷侮辱罪を駆使、または記録しないとやりたい放題
そのうえ自らの悪意や偏見、人種差別を自覚していないというお得な人格
クラーク前司法長官(マイケル・キートン)
判事がどんな人間で、どんな悪どい手を使ってくるか承知の上
被告人らが共謀罪にあたらないという真実を証言する
ラスト、ベトナム戦争の戦死者たちの名前を読み上げていくヘイデン
裁判所内総立ちするカタルシスには
スポーツ映画で勝利を得たような爽快ささえ感じてしまいます
だけどアメリカの他国に対する軍事介入も
国内での暴力も差別も、なくなっていない
なくなってしまったのは、勇気をもって(何も考えていないともいう)
権力に立ち向かった若者たちの理想や、希望、強いエネルギーのほう
「4年に一度、俺たちはこの国を変えることができるんだろ?」
アビーの言葉が、美しくも虚しい
心に響きます
【解説】映画.COMより
「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞し、「マネーボール」や自身の監督作「モリーズ・ゲーム」でも同賞にノミネートされたアーロン・ソーキンがメガホンをとったNetflixオリジナル映画で、ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された7人の男の裁判の行方を描いた実録ドラマ。キャストには、「ファンタスティック・ビースト」シリーズのエディ・レッドメインをはじめ、ジョセフ・ゴードン=レビット、サシャ・バロン・コーエン、マイケル・キートン、マーク・ライランスら豪華俳優陣が集結した。1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会の会場近くに、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集まった。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化し、警察との間で激しい衝突が起こる。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男(シカゴ・セブン)は、暴動をあおった罪で起訴され、裁判にかけられる。その裁判は陪審員の買収や盗聴などが相次ぎ、後に歴史に悪名を残す裁判となるが、男たちは信念を曲げずに立ち向かっていく。Netflixで2020年10月16日から配信。一部の映画館で10月9日から劇場公開。第93回アカデミー賞で作品、脚本、助演男優など6部門にノミネート。第78回ゴールデングローブ賞では脚本賞を受賞している。