オスカー受賞のフランク・キャプラの佳作
原題は「Mr. Deeds Goes to Town」(ディーズ氏、都会へ行く)
原作はクラレンス・バディントン・ケランドによる「アメリカン・マガジン」に
6回にわたって掲載された連載小説「Opera Hat」(1935)
物語はヴァーモント州の小さな田舎町で
グリーティング・カード用に詩を書いている主人公が
一度も会ったことのない叔父から2千万ドルという遺産を譲られ
大都会のニューヨークで様々な困難を解決していこうとするもの
なぜキャプラがタイトルを変更したか
小説版の主人公にとってオペラ帽は
都会での生活を象徴するアイテムであり
オペラ劇場を再建するという部分がメインということ
そして問題が解決したときには、オペラハットの高さを変えて
感激を楽しむというハッピー・エンディングだそうです
(オペラハットには観劇の際後ろの観客の視界をさえぎらないよう
自由に伸縮できるバネ仕掛けがほどこされている)
しかし時代は大恐慌後
”go to town”には「街に行く」だけでなく
「成功する」「大金を使う」「羽 目をはずす」という意味を持ち
キャプラのコミカルな中にも、社会的メッセージを訴えたい
そんな思いが伝わります
そしてキャプラの描く理想の人物像
それは社会主義思想や共産主義思想にも強く通じるものがあるのですが
大戦前や戦後のアメリカでは、社会主義や共産主義に非常に寛大で
国民の共通の敵は「ナチス」やドイツ系の人々
ハリウッドでもあおりを受けたのが
チャップリンをはじめとする人々だったそうです
それでもやっぱりキャプラの作品は名作
こればかりはたとえ国が、人種が、宗教が違っても
見終えたあとには温かい気持ちになるし
どんなに無力でも、自分の信じる正しいことをしようと
そう思うことができるのです
ディーズ(ゲイリー・クーパー)を”シンデレラ・マン”と名付け
有給休暇のためだけに、特ダネを掴もうと色仕掛けで近づいた
美人記者ベイブ(ジーン・アーサー)
だけど純情素朴なディーズは、決して欲やお金に惑わされない
ベイブこそ理想の女性だと思い込んでしまいます
誠実で愛のこもったプロポーズの詩を贈られ
ついに良心の呵責に耐えられなくなってしまったベイブ
だけどデイブの嘘がディーズにばれた後には
彼女の真実の言葉さえ、全て嘘にしか聞こえなくなるのです
オープニングで流れる「For He's a Jolly Good Fellow」(彼はいい人)が
いかにも主人公にぴったり
彼はいい人、彼はいい人、彼はいい人・・・
お人好しの田舎者の仕草を笑い、奇人とからかう都会人
だけどやがて自分たちが忘れていた、人間の美質に気づかされる
これは忙しい時や、苦しい時、気持ちの荒れているときこそ見てほしい
だってキャプラは、そういう人たちでも夢を見れるように
映画を作ったのだから
【解説】allcinemaより
ヴァーモントの田舎町で油脂工場を営むディーズ氏のもとに、母の兄にあたる大富豪の遺産が転がり込む。ディーズはニューヨークにある彼の屋敷も手に入れるが、さっそく金目あての亡者どもが集まってきて大騒ぎに。女だてらに猛烈な取材ぶりで有名な新聞記者ベイブは行き倒れを装ってまでしてディーズに接近し、彼の記事を書くことに成功する。だがディーズは彼女が本性を隠しているとも知らずにベイブのことを愛し始めていた。そして、富豪の財産を狙う一味はディーズを罠に落とそうとよからぬ相談を始めていた……。キャプラらしいヒューマニズム溢れる人情喜劇。考え事をする時にはきまってのんびりチューバを吹くというのがクセになっているディーズ氏のキャラクターが抜群で、扮するG・クーパーの飄々とした演技も良い。アカデミー監督賞受賞。