群衆(1941)

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「たかり屋め!」

原題は「Meet John Doe」(ジョン・ドゥに会う)

ジョン・ドゥとは「名無しの権兵衛」の意


同じ1941年に公開され、同じメディアパワーと政治を題材にした

市民ケーン」と「群衆」

アカデミー賞では原案賞のみ「群衆」がノミネートされたのに比べ

市民ケーン」は9部門ノミネートされ脚本賞を受賞

(作品賞はじめ10部門ノミネート、5部門受賞は「わが谷は緑なりき」)

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しかも「市民ケーン」の評価は年々高まり

今では映画史上最大の傑作と言われ「オールタイム・ベストテン」

アメリカ映画ベスト100」の1位に選ばれています


ですが、一見コメディ風なラブ・ロマンスですが

本作のほうが、人間の本性をよく描いていて、私は怖かった

ピノキオの曲を使った演出もうまい

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ただ残念なことに、ラストの回収が大失敗(笑)

もっと納得のいく終わりかただったら

もっと愛される作品になったような気がします

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ジョン・ドゥは頭がいいわけでない

ケーン(ウィリアム・ランドルフ・ハースト)のような新聞王でもない

新聞社をリストラされた女性記者アン(バーバラ・スタンウィック)が

やけくそになってコラムに捏造した架空の人物を

見てくれがいいからと、今はホームレスの元マイナーリーグの野球選手

ウィロビー(ゲイリー・クーパー)が偶然演じるようになっただけ

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アンのコラムは人気となり、新聞の売り上げもどんどん増えます

ラジオ出演が決まり、(ライバル新聞社からお金を貰った)ウィロビーは

自分はジョン・ドゥでないと打ち明けようとしますが


アンに「父の魂が宿った原稿」と熱く語られ

ウィロビーは単純な男なので、アンを好きになってしまうのです

そして「ジョン・ドゥは世の中に大勢いる」「隣人と団結すべきだ」

とスピーチし民衆を感動させます

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ジョン・ドゥは各地で講演を開き、彼の言葉は社会現象になります

やがて「ジョン・ドゥ・クラブ」が発足しますが


新聞社のオーナー、ノートンの本当の目的は

ジョン・ドゥの人気を利用して国政入りすることだったのです

それを知ったウィロビーは、アンに裏切られていたんだと思い

講演会で真実を話す決意をしますが

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ノートンの策略によって、ジョン・ドは偽物という新聞が配られ

各地から15千人もが集まった会場では暴動が起こり

ウィロビーは警察に逮捕されそうになりますが

相棒の大佐(ウォルター・ブレナン=実はオスカーを3度も受賞したスゴイ人)

に助けられ、群衆からも、アンの前からも、姿を消してしまうのです

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この雨の中の暴動のシーンが見事で

誰もウィロビーの言葉を聞こうとせず

やがて石まで投げつける

 

アンに裏切られた思ったウィロビーと

ジョン・ドゥに裏切られたと思う民衆の対比

信じれば信じるほど、愛すれば愛するほど

嘘をつかれていたと知ったときの怒りは大きい

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そして架空のジョン・ドゥが「市庁舎から飛び降りる」 と予告した

クリスマス・イブの夜

アンが、ノートン一行が、そしてウィロビーが

雪降る市庁舎の屋上にやって来ます


やはりキャプラも、アンと結ばれるラストには相当迷ったらしく

バット・エンドも考えていたそうです

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私は、暴動によって会場で言えなかった真実を

新聞でも、ラジオでも、屋外放送でもいい

何らかの形で民衆に伝え、ノートンの悪だくみを暴くべきだと思いました

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それで赦してもらえなくても、正気に戻った一部の支援者たちと

そしてアンと一緒に、もういちどやり直す

そのほうがキャプラらしかったんじゃないかな(笑)



【作品情報】ウィキペディアより

フランク・キャプラと脚本家のロバート・リスキンが最後に手を組んだコメディ映画。でっちあげられた新聞のコラムから物語が展開する「草の根運動」をテーマにした映画である。この映画は興行的にも大成功をおさめ、その年のアカデミー賞にノミネートされた。また、アメリカ映画協会が選ぶ「感動の映画ベスト100」では49位に選出されている。

公開の28年後である1969年に著作権登録を更新できなかったため、現在はアメリカにおいてはパブリックドメインになっている。

キャプラは最初からゲイリー・クーパーをジョン・ドゥー役にするつもりであったが、クーパーは『オペラハット』ですでにキャプラ作品の主演を務めていたことや、ずっとバーバラ・スタンウィックとの共演を望んでいたため、映画の内容を知るまでもなく、この役のオファーを快く引き受けた。

新聞社の経営者が変わって、多くの働いている人のリストラが決まる。クビを切られることとなった新聞社のアン(バーバラ・スタンウィック)は腹いせに、炎上しても構わないとばかりに、架空の記事をでっちあげる。記事の内容は、職につけないのは腐敗した政治のせいで、その抗議として、クリスマスイブの夜に市庁舎の屋上から飛び降りることを旨とする、ジョン・ドゥーという架空の人物からの投書だった。この投書が新聞に載るや否や、反響は凄まじいものになる。発行部数を伸ばしたい新聞社は、この投書のジョン・ドゥーという人物を誰か雇って演じさせ、新聞記事にすることで販売部数を伸ばそうとしたりと、商売にしようとたくらむ。翌日、自称「ジョン・ドゥー」が新聞社にたくさん集まってきた。そのなかから選ばれたのは、職をさがして新聞社を訪れた、現在無職の元野球選手ジョン・ウィロビィ(ゲイリー・クーパー)だった。彼はジョン・ドゥーという架空の人物を演じることになる。アンが演説の原稿を書き、ジョン・ドゥーがラジオ出演や講演会などで演説すると、アメリカ中で人気者となる。さらには、彼の思想を崇拝する者たちが「ジョン・ドゥー クラブ」を作ったりと、一大ムーブメントとなる。