原題は「Strategia del ragno」(蜘蛛の戦略)
原作はホルヘ・ルイス・ボルヘスの「Tema del traditore e dell'eroe」
(裏切り者と英雄のテーマ)
クレジットタイトルはアントニオ・リガブエの絵画が背景
(ポー河流域の風景にライオンや豹の野獣が登場)
若き天才の才能が開花した作品といえるのではないでしょうか
しかもまさかのテレビ放送用(笑)
グリーン、グリーン、グリーンのドア、グリーンの窓枠
どこまでが家か庭なのかわからない回廊
フィアットを掴み自転車が進む
三つボタンのコットンスーツとタッターソール
少年だと思ったら美少女(笑)
町そのものがオペラの舞台
「ラスト・エンペラー」と「リトル・ブッダ」がある(たぶん 笑)
プロットは、「市民ケーン」 をベルトリッチ版にして
ミステリー・ホラーな感じ
北イタリアにあるタラという(架空の)田舎町にやってきたアトス
タラには反ファシズムの英雄だった父アトスの記念碑
名前の付いた通り、文化クラブなどがありました
そこで父の愛人だったドライファから
父殺しの犯人を見つけてほしいと頼まれます
アトスは真相を知っているかもと
当時のファシストで町の地主ベッカチアの家を訪ねます
しかし男たちに追い出され
彼の家に向かいます(ブゼッカという臓物のハムを作っている)
男はかつて反ファシズムで父の同志でした
誰もいない通り
町にいるのは年寄りと、わずかな子どもだけ
若者の姿はない、働いているのは子ども
「アメリカの煙草はあるかい」「ないよ」
なのに次の瞬間マルボロを持ってくる(笑)
<回想>
アトスはサファリジャケットに赤いスカーフ姿
(サファリ服はハンティング=野蛮な行為の象徴)
黒シャツのファシストたちが睨みをきかせるダンスパーティーでは
町の娘を誘って見事なダンスを披露
その時、新設される劇場の落成式に
ムッソリーニ閣下が来るという知らせが入ります
ガイバッツィ、コスタ、ラゾーリ、そして父アトスの4人は
川辺にある廃車になったトラックでムッソリーニ暗殺を計画します
警備は厳重なはず
舞台から撃つのはどうか
銃声ですぐ捕まり殺されしまう
あらかじめ爆弾を仕掛けるのはどうか
しかし暗殺計画はばれ、ムッソリーニの来訪が中止になってしまいます
場所は変わりドライファの部屋
腰の筋肉痛だと、ドライファにさらしを巻いてもらうアトス
窓の外ではサーカスから逃げ出したライオンを捕獲しようとしています
<現在>
友人3人の、あらかじめ打ち合わせしたような話にアトスは納得できず
ドライファに会いに行くと「テラスで待ってて」と言われます
気が付くと夕方で、3人と地主のベッカチアがいました
ライオンが逃げた思い出話をしていると、ライオンの料理が運ばれてきます
(ライオンは権力の象徴、それを殺して食べる)
アトスはベッカチアにあなたが父を殺したのかと聞くと
憎んでいたが犯人ではないと答えます「私が殺す前に、殺された」
アトスが町を歩いていると、彼を捕まえようとする人々が集まってきます
アトスは逃げ、父の墓に行きその墓を壊す
べカッチアに劇場に呼ばれ「墓を荒らしたのは私ではない」
ハム屋にポー河沿いにある廃車のトラックに連れて行かれると
3人は棒を持ち、怖くなったアトスは森に逃げます
現在のアトスと、過去のアトスが交差する
アトスはドライファに3人が父殺しの犯人だ、ここを発つことを伝えに行くと
ドライファは色気づき、ここで一緒に暮らしましょうと懇願します
19歳の姪も呼ぶわ
<再現>
「リゴレット」が上演される劇場のボックス席
向かい側には3人組、その隣のボックス席にはベッカチア
3人はひとり、またひとりと姿を消しアトスの後ろに現れます
しかしそこには鏡がありました
襲われる前に父は気付いたはず
3人はアトスを殺したことは認めますが、彼に頼まれてやったこと
裏切り者は父であり、当局への密告により爆弾は発見されてしまう
父は「裏切り者は死んでも裏切る」と
ムッソリーニの暗殺に成功したとしても、ファシストはなくならない
だから殺してくれ
<現在>
父アトスの追悼集会でスピーチを頼まれるアトス
彼は真相を打ち明けることなく駅に向かいました
駅では来たときと同じ水兵が挨拶をしてまた消えていきます
列車を待つアトス、遅れるとアナウンス
売店に新聞はあるかと聞くと、今日は来ていないと返事
線路に降りると雑草で覆われている
もうこの町に列車は何年も通っていないのだ
それはアトスがこの町から
永遠に出ていけないことを暗示していました
そもそもタラは、タラの人々は本当に存在していたのだろうか
脚本も手掛けたベルトリッチによると
「英雄化された父親の裏切りを発見するのは
パルミーロ・トリアッティのスターリン主義を発見するエンリコ・ベルリングエル
だが両者にとって、裏切りもスターリン主義も必要だった」
(ともにイタリア共産党の元書記長)
を表現したかったそうです
【解説】映画.COMより
「暗殺の森」「ラストタンゴ・イン・パリ」などで知られるイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチが、1970年に手がけた長編監督第4作。ラテンアメリカ文学の鬼才ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」に収められている「裏切り者と英雄のテーマ」を原作に、物語の舞台を北イタリアの架空の町に置き換えて描いた。ファシストによって暗殺された父の死の真相を探るべく、アトスは北イタリアの田舎町を訪れる。この町で父は英雄的存在になっており、謎は少しずつ解明していくが、そこには意外な事実が待ち受けていた。ジュリオ・ブロージが若き日の父と息子の2役に挑戦し、「第三の男」のヒロイン役で知られるアリダ・バリが父の愛人役を演じた。日本では1979年に劇場初公開。2018年、デジタルリマスター版でリバイバル公開。
1970年製作/99分/イタリア
原題:Strategia del ragno
配給:コピアポア・フィルム