暗殺のオペラ(1970)

原題は「Strategia del ragno(蜘蛛の戦略)

原作はホルヘ・ルイス・ボルヘスTema del traditore e dell'eroe

裏切り者と英雄のテーマ

クレジットタイトルはアントニオ・リガブエの絵画が背景

(ポー河流域の風景にライオンや豹の野獣が登場)

 

ベルナルド・ベルトルッチヴィットリオ・ストラーロ

若き天才の才能が開花した作品といえるのではないでしょうか

しかもまさかのテレビ放送用(笑)

グリーン、グリーン、グリーンのドア、グリーンの窓枠

どこまでが家か庭なのかわからない回廊

フィアットを掴み自転車が進む

三つボタンのコットンスーツとタッターソール

少年だと思ったら美少女(笑)

町そのものがオペラの舞台

蚊取り線香とスイカ、この東洋趣味の先に

「ラスト・エンペラー」と「リトル・ブッダ」がある(たぶん 笑)

 

プロットは、「市民ケーン」 をベルトリッチ版にして

ミステリー・ホラーな感じ

北イタリアにあるタラという(架空の)田舎町にやってきたアトス

タラにはファシズムの英雄だった父アトスの記念碑

名前の付いた通り、文化クラブなどがありました

そこで父の愛人だったドライファから

父殺しの犯人を見つけてほしいと頼まれます

アトスは真相を知っているかもと

当時のファシストで町の地主ベッカチアの家を訪ねます

しかし男たちに追い出され

待ち伏せしていたフィアット(車)の男に声をかけられ

彼の家に向かいます(ブゼッカという臓物のハムを作っている)

男はかつて反ファシズムで父の同志でした

誰もいない通り

町にいるのは年寄りと、わずかな子どもだけ

若者の姿はない、働いているのは子ども

アメリカの煙草はあるかい」「ないよ」

なのに次の瞬間マルボロを持ってくる(笑)

<回想>

アトスはサファリジャケットに赤いスカーフ姿

(サファリ服はハンティング=野蛮な行為の象徴)

黒シャツのファシストたちが睨みをきかせるダンスパーティーでは

町の娘を誘って見事なダンスを披露

その時、新設される劇場の落成式に

ムッソリーニ閣下が来るという知らせが入ります

ガイバッツィ、コスタ、ラゾーリ、そして父アトスの4人は

川辺にある廃車になったトラックでムッソリーニ暗殺を計画します

警備は厳重なはず

舞台から撃つのはどうか

銃声ですぐ捕まり殺されしまう

あらかじめ爆弾を仕掛けるのはどうか

しかし暗殺計画はばれ、ムッソリーニの来訪が中止になってしまいます

 

場所は変わりドライファの部屋

腰の筋肉痛だと、ドライファにさらしを巻いてもらうアトス

窓の外ではサーカスから逃げ出したライオンを捕獲しようとしています

<現在>

友人3人の、あらかじめ打ち合わせしたような話にアトスは納得できず

ドライファに会いに行くと「テラスで待ってて」と言われます

気が付くと夕方で、3人と地主ベッカチアがいました

ライオンが逃げた思い出話をしていると、ライオンの料理が運ばれてきます

(ライオンは権力の象徴、それを殺して食べる)

アトスはベッカチアにあなたが父を殺したのかと聞くと

憎んでいたが犯人ではないと答えます「私が殺す前に、殺された」

アトスが町を歩いていると、彼を捕まえようとする人々が集まってきます

アトスは逃げ、父の墓に行きその墓を壊す
べカッチアに劇場に呼ばれ墓を荒らしたのは私ではない

ハム屋にポー河沿いにある廃車のトラックに連れて行かれると

3人棒を持ち、怖くなったアトスは森に逃げます

現在のアトスと、過去のアトスが交差する

 

アトスはドライファに3人が父殺しの犯人だ、ここを発つことを伝えに行くと

ドライファは色気づき、ここで一緒に暮らしましょうと懇願します

(母親と息子が交わるギリシャ神話オイディプス匂わせ

19歳の姪も呼ぶわ

<再現>

リゴレット」が上演される劇場のボックス席

向かい側には3人組、その隣のボックス席にはベッカチア

3人はひとり、またひとりと姿を消しアトスの後ろに現れます

しかしそこには鏡がありました

襲われる前に父は気付いたはず

3人はアトスを殺したことは認めますが、彼に頼まれてやったこと

裏切り者は父であり、当局への密告により爆弾は発見されてしまう

父は「裏切り者は死んでも裏切る」と

ムッソリーニの暗殺に成功したとしても、ファシストはなくならない

しかし英雄がファシストに殺されたら、反ファシズムは残る

だから殺してくれ

<現在>

父アトスの追悼集会でスピーチを頼まれるアトス

彼は真相を打ち明けることなく駅に向かいました

駅では来たときと同じ水兵が挨拶をしてまた消えていきます

列車を待つアトス、遅れるとアナウンス

売店に新聞はあるかと聞くと、今日は来ていないと返事

線路に降りると雑草で覆われている

もうこの町に列車は何年も通っていないのだ

 

それはアトスがこの町から

永遠に出ていけないことを暗示していました

そもそもタラは、タラの人々は本当に存在していたのだろうか

脚本も手掛けたベルトリッチによると


「英雄化された父親の裏切りを発見するのは

パルミーロ・トリアッティのスターリン主義を発見するエンリコ・ベルリングエル

だが両者にとって、裏切りもスターリン主義も必要だった」

(ともにイタリア共産党の元書記長)

を表現したかったそうです

 

 

【解説】映画.COMより

暗殺の森」「ラストタンゴ・イン・パリ」などで知られるイタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチが、1970年に手がけた長編監督第4作。ラテンアメリカ文学の鬼才ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」に収められている「裏切り者と英雄のテーマ」を原作に、物語の舞台を北イタリアの架空の町に置き換えて描いた。ファシストによって暗殺された父の死の真相を探るべく、アトスは北イタリアの田舎町を訪れる。この町で父は英雄的存在になっており、謎は少しずつ解明していくが、そこには意外な事実が待ち受けていた。ジュリオ・ブロージが若き日の父と息子の2役に挑戦し、「第三の男」のヒロイン役で知られるアリダ・バリが父の愛人役を演じた。日本では1979年に劇場初公開。2018年、デジタルリマスター版でリバイバル公開。

1970年製作/99分/イタリア
原題:Strategia del ragno
配給:コピアポア・フィルム