アイリッシュマン(2019)

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原題も「THE IRISHMAN」(アイルランド人)

原作は「アイリッシュマン」と呼ばれた実在したヒットマン

フランク・シーランの自白に基づいた(信憑性は定かでない)

2004に出版されたチャールズ・ブラント(元捜査官)のノンフィクション

I Heard You Paint Houses」(お前が家のペンキを塗っていると聞いた)

 

タイトルの由来はシーランがジミー・ホッファと電話で交わした最初の会話

ペンキを塗る”とは人を殺す(血液の飛沫で家の壁を汚す) という意味

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ジミー・ホッファ1957年から1971年まで

「チームスター」という愛称で知られる

全米トラック運転手の労働組合のトップ

ひとことでトラック運転手組合といっても

当時は全米のほとんどの貨物はトラックが配達

100万人のドライバー(組合員)が団結し

ジミー・ホッファは政府にもマフィアにも強力な交渉力を持っていました

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一時期は大統領の次に権力があるとまで言われた男が

1975730日突然消えてしまった

「ジミー・ホッファ失踪事件」を

デ・ニーロ演じるフランク・シーランの語り口で紐解いていきます

 

1950年代のフィラデルフィア

食肉を運ぶトラックの運転手をしていたシーランは

ある日トラックが故障してしまい、人の好い老紳士

ラッセル・バファリーノ(ジョー・ペシ)に助けられます

彼はペンシルバニアの大物マフィアでした

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ある日、シーランは古くからの友人でチンピラの

ウィスパー・ディトゥリオから、1万ドル(約115万円)で

デラウェア州のリネン工場を爆破してほしいと頼まれます

 

しかしその工場はフィラデルフィアのファミリーのドン

アンジェロ・ブルーノ(ハーヴェイ・カイテル)のものでした

バファリーノはブルーノにシーランを許すよう説得し

条件としてブルーノは、シーランにウィスパーを殺すよう命じます

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シーランは温厚で思慮深く見えますが

第二次大戦中はドイツ兵たちを殺戮した経験があり

人を殺すことに関しては冷酷なタイプ

 

そしてアクション映画のように決してドンパチはしない

普通のオジサンが、相手の至近距離まで近づき

数発で仕留めて立ち去り、武器は川に捨てるという単純な方法

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シーランを信頼したバファリーノは

彼を労働組合代表のジミー・ホッファ(アル・パチーノ)を紹介します

そしてシーランはホッファからの依頼をこなし、良き相談相手になる

親友としても深い絆を築いていきます

 

しかしジョン・F・ケネディが大統領になり

その弟ロバート・ケネディが司法長官になると

共和党を支援したホッファに報復

犯罪組織撲滅という名目で有罪判決を下します

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散々マフィアを利用し、息子を大統領までしてもらった

ジョセフ・P・ケネディにどうにかしてくれと頼もうにも

彼は脳梗塞に倒れ不随になり何の影響力もなくなっていました

そして裏切り者のケネディ兄弟は復讐されてしまう

 

ムショではニュージャージーのボスで組合員のトニー・プロと一緒で
トニー・プロは恐喝罪で多額の年金を受け取る権利を失ってしま
年金を取り戻して欲しいとホッファに頼みに来ますが
ホッファはそれを断り彼に恨まれてしまいます

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ホッファの服役中、ホッファの代理人を勤めていた
フランク・フィッツシモンズは

組合員の年金を政治家やマフィアたち気前よく流出し

ゴルフ接待で人気を集めていました

ホッファが5年の刑期を終え出所した時

ホッファの居場所はどこにもなくなっていたのです

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組合を取り戻すためにはトニー・プロの協力が必要でした

そこでトニー・プロはムショでのホッファの態度について謝罪を求めます

しかしホッファがトニー・プロを「イタ公」と呼んだことで

喧嘩になり交渉は決裂

 

しかもバファリーノがフィッツシモンズを支配し

年金基金を操作していることを知っていたホッファ

先手を打融資の操作をしたことから

バファリーノまで敵に回してしまいます

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バファリーノはホッファに引退して年金暮らしをするよう勧めますが

ホッファは組合は自分のものだと譲りません

 

皆から嫌われ、邪魔者扱いされるホッファ

それでもシーランは自身の組合の授与式に彼を招待し

スピーチをお願いします

それほどにシーランにとってホッファは大切な友人でした

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授与式の日シーランは、バファリーノから

世界に3人しかもっていないという指輪をプレゼントされます

バファリーノとの絆もまた深いものでした

 

ホッファを助けたい、バファリーノは裏切れない

ふたりの板挟みになってしまうシーラン

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結婚式に出席するため、お互いの妻たちとデトロイトまで

のどかにドライブ旅行しているバファリーノとシーラン

シーランが現地で落ち合う約束をしているホッファに電話すると

彼は結婚式には出ないと言いだします

いつもの気まぐれだと思い、翌朝到着したら会おうと約束するシーラン

 

しかしバファリーノは朝は観光して時間を潰すという

そしてシーランに用意されていたのは

デトロイト行きのプライベート小型機

車、デトロイトの地図、住所、そして銃でした

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マフィアのボスって、とにかく「状況をよく見て考えろ」と

はっきりした命令はしないんですね

シーランはそのことをよく理解していて

言われなくても何をすべきか判断する能力に長けている

 

教えられた住所に行くとそこで待っていたのは

(その日ホッファと会う約束をしていた)トニー・プロの子分と

運転手はホッファの義理の息子チャッキーでした

チャッキーはちょっとお間抜けですが(笑)

裁判中ホッファの命を狙う暗殺者を取り押さえたこともあり

ホッファから可愛がられています

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親友と、可愛い息子が迎えに来たとなれば

ホッファの気が緩んでしまうのも当然

組合のことより、話題は魚の臭いの話(笑)

 

でも到着した家にトニー・プロはいなく

ホッファはすぐ不穏な空気に感付きます

「帰ろう」

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シーランは言った「簡単だった」

ホッファに懐いていた娘のペギーは

ホッファ失踪のニュースを見ていた父親の態度で、すぐに犯人が誰かわかった

その日からシーランと一切話をしなくなります

 

そして「ジミー・ホッファ失踪事件」をきっかけに

ホッファと関わっていたマフィアの重要人物は全員

適当な罪をきせられ有罪判決を受けます

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が、その頃にはみんないい年になっていて、刑務所内は老人ホーム状態

バファリーノは心臓発作をおこし刑務所病院で亡くなり

シーランが出所したころには、彼以外全員が死んでいました



妻も肺がんで死に(「あたりまえだ」って 苦笑)

ペギーは未だに口をきいてくれない

長女は自分が家族を遠ざけたのだと責めるが違う

すべては家族の命を守るため

そのために友情まで裏切った

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その見返りが、哀れな晩年

墓も棺桶も、自分の葬式の準備まで自分でする

誰も見舞いには来ず

来るのは看護師と、牧師と、FBI捜査官だけ

施設でひとり寂しくクリスマスを過ごす

牧師に「扉は少し開けておいてくれ」とだけお願いして

 

自らも晩年(失礼)のスコセッシだからこそ撮れた

新しいギャング映画のかたちであり、終結

老いた男に訪れる孤独と後悔

時代の早すぎる移り変わり

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しかも(撮影当時)75歳のロバート・デ・ニーロ78歳のアル・パチーノ

VFX(視覚効果)によって40代~60代を熱演

シーランやホッファ本人に似ているかどうかより

デ・ニーロとアル・パチーノが競演していることが重要

ジョー・ペシも忘れないで 笑)

 

そのかわり、制作費推定15900万ドル(約184億)に対して

(巨額の製作費に配給権が二転三転し最終的にNetflicksの出資で完成)

興行収入はわずか650万ドル(約753百万)

映画はもはや劇場でなく、配信で見る時代に突入

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西部劇がなくなり、マフィア映画がなくなり

やがて映画館もなくなっていく

そんな寂しさも感じました

 

 

【解説】映画.COMより
タクシードライバー」「レイジング・ブル」など数々の名作を生み出してきた巨匠マーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロが、「カジノ」以来22年ぶり9度目のタッグを組み、第2次世界大戦後のアメリカ裏社会を生きた無法者たちの人生を、ひとりの殺し屋の目を通して描いた力作。伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた実在の殺し屋で、1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされるフランク・“アイリッシュマン”・シーランをデ・ニーロが演じるほか、ジミー・ホッファ役のアル・パチーノラッセル・バッファリーノ役のジョー・ペシと、ハリウッドのレジェンド級俳優が豪華共演。第92アカデミー賞で作品賞や監督賞のほか、パチーノとペシがそろって助演男優賞にノミネートされるなど、9部門10ノミネートを果たした。脚本は「シンドラーのリスト」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のスティーブン・ザイリアン。Netflix20191127日から配信。日本では第32東京国際映画祭のクロージング作品としても上映。配信に先立つ1115日から一部劇場にて公開