原題も「THE IRISHMAN」(アイルランド人)
フランク・シーランの自白に基づいた(信憑性は定かでない)
2004年に出版されたチャールズ・ブラント(元捜査官)のノンフィクション
「I Heard You Paint Houses」(お前が家のペンキを塗っていると聞いた)
タイトルの由来はシーランがジミー・ホッファと電話で交わした最初の会話で
”ペンキを塗る”とは人を殺す(血液の飛沫で家の壁を汚す) という意味
ジミー・ホッファは1957年から1971年まで
「チームスター」という愛称で知られる
全米トラック運転手の労働組合のトップ
ひとことでトラック運転手組合といっても
当時は全米のほとんどの貨物はトラックが配達
100万人のドライバー(組合員)が団結し
ジミー・ホッファは政府にもマフィアにも強力な交渉力を持っていました
一時期は大統領の次に権力があるとまで言われた男が
1975年7月30日突然消えてしまった
「ジミー・ホッファ失踪事件」を
デ・ニーロ演じるフランク・シーランの語り口で紐解いていきます
1950年代のフィラデルフィア
食肉を運ぶトラックの運転手をしていたシーランは
ある日トラックが故障してしまい、人の好い老紳士
彼はペンシルバニアの大物マフィアでした
ある日、シーランは古くからの友人でチンピラの
ウィスパー・ディトゥリオから、1万ドル(約115万円)で
デラウェア州のリネン工場を爆破してほしいと頼まれます
しかしその工場はフィラデルフィアのファミリーのドン
アンジェロ・ブルーノ(ハーヴェイ・カイテル)のものでした
バファリーノはブルーノにシーランを許すよう説得し
条件としてブルーノは、シーランにウィスパーを殺すよう命じます
シーランは温厚で思慮深く見えますが
第二次大戦中はドイツ兵たちを殺戮した経験があり
人を殺すことに関しては冷酷なタイプ
そしてアクション映画のように決してドンパチはしない
普通のオジサンが、相手の至近距離まで近づき
数発で仕留めて立ち去り、武器は川に捨てるという単純な方法
シーランを信頼したバファリーノは
彼を労働組合代表のジミー・ホッファ(アル・パチーノ)を紹介します
そしてシーランはホッファからの依頼をこなし、良き相談相手になる
親友としても深い絆を築いていきます
しかしジョン・F・ケネディが大統領になり
その弟ロバート・ケネディが司法長官になると
共和党を支援したホッファに報復
犯罪組織撲滅という名目で有罪判決を下します
散々マフィアを利用し、息子を大統領までしてもらった
ジョセフ・P・ケネディにどうにかしてくれと頼もうにも
彼は脳梗塞に倒れ不随になり何の影響力もなくなっていました
そして裏切り者のケネディ兄弟は復讐されてしまう
- ムショではニュージャージーのボスで組合員のトニー・プロと一緒で
- トニー・プロは恐喝罪で多額の年金を受け取る権利を失ってしまい
- 年金を取り戻して欲しいとホッファに頼みに来ますが
- ホッファはそれを断り彼に恨まれてしまいます
- ホッファの服役中、ホッファの代理人を勤めていた
- フランク・フィッツシモンズは
組合員の年金を政治家やマフィアたち気前よく流出し
ゴルフ接待で人気を集めていました
ホッファが5年の刑期を終え出所した時
ホッファの居場所はどこにもなくなっていたのです
組合を取り戻すためにはトニー・プロの協力が必要でした
そこでトニー・プロはムショでのホッファの態度について謝罪を求めます
しかしホッファがトニー・プロを「イタ公」と呼んだことで
喧嘩になり交渉は決裂
しかもバファリーノがフィッツシモンズを支配し
年金基金を操作していることを知っていたホッファは
先手を打ち融資の操作をしたことから
バファリーノまで敵に回してしまいます
バファリーノはホッファに引退して年金暮らしをするよう勧めますが
ホッファは組合は自分のものだと譲りません
皆から嫌われ、邪魔者扱いされるホッファ
それでもシーランは自身の組合の授与式に彼を招待し
スピーチをお願いします
それほどにシーランにとってホッファは大切な友人でした
授与式の日シーランは、バファリーノから
世界に3人しかもっていないという指輪をプレゼントされます
バファリーノとの絆もまた深いものでした
ホッファを助けたい、バファリーノは裏切れない
ふたりの板挟みになってしまうシーラン
結婚式に出席するため、お互いの妻たちとデトロイトまで
のどかにドライブ旅行しているバファリーノとシーラン
シーランが現地で落ち合う約束をしているホッファに電話すると
彼は結婚式には出ないと言いだします
いつもの気まぐれだと思い、翌朝到着したら会おうと約束するシーラン
しかしバファリーノは朝は観光して時間を潰すという
そしてシーランに用意されていたのは
デトロイト行きのプライベート小型機
車、デトロイトの地図、住所、そして銃でした
マフィアのボスって、とにかく「状況をよく見て考えろ」と
はっきりした命令はしないんですね
シーランはそのことをよく理解していて
言われなくても何をすべきか判断する能力に長けている
教えられた住所に行くとそこで待っていたのは
(その日ホッファと会う約束をしていた)トニー・プロの子分と
運転手はホッファの義理の息子チャッキーでした
チャッキーはちょっとお間抜けですが(笑)
裁判中ホッファの命を狙う暗殺者を取り押さえたこともあり
ホッファから可愛がられています
親友と、可愛い息子が迎えに来たとなれば
ホッファの気が緩んでしまうのも当然
組合のことより、話題は魚の臭いの話(笑)
でも到着した家にトニー・プロはいなく
ホッファはすぐ不穏な空気に感付きます
「帰ろう」
シーランは言った「簡単だった」
ホッファに懐いていた娘のペギーは
ホッファ失踪のニュースを見ていた父親の態度で、すぐに犯人が誰かわかった
その日からシーランと一切話をしなくなります
そして「ジミー・ホッファ失踪事件」をきっかけに
ホッファと関わっていたマフィアの重要人物は全員
適当な罪をきせられ有罪判決を受けます
が、その頃にはみんないい年になっていて、刑務所内は老人ホーム状態
バファリーノは心臓発作をおこし刑務所病院で亡くなり
シーランが出所したころには、彼以外全員が死んでいました
妻も肺がんで死に(「あたりまえだ」って 苦笑)
ペギーは未だに口をきいてくれない
長女は自分が家族を遠ざけたのだと責めるが違う
すべては家族の命を守るため
そのために友情まで裏切った
その見返りが、哀れな晩年
墓も棺桶も、自分の葬式の準備まで自分でする
誰も見舞いには来ず
来るのは看護師と、牧師と、FBI捜査官だけ
施設でひとり寂しくクリスマスを過ごす
牧師に「扉は少し開けておいてくれ」とだけお願いして
自らも晩年(失礼)のスコセッシだからこそ撮れた
新しいギャング映画のかたちであり、終結
老いた男に訪れる孤独と後悔
時代の早すぎる移り変わり
しかも(撮影当時)75歳のロバート・デ・ニーロと78歳のアル・パチーノが
VFX(視覚効果)によって40代~60代を熱演
シーランやホッファ本人に似ているかどうかより
デ・ニーロとアル・パチーノが競演していることが重要
(ジョー・ペシも忘れないで 笑)
そのかわり、制作費推定1億5千900万ドル(約184億)に対して
(巨額の製作費に配給権が二転三転し最終的にNetflicksの出資で完成)
興行収入はわずか650万ドル(約7億5千3百万)
映画はもはや劇場でなく、配信で見る時代に突入
西部劇がなくなり、マフィア映画がなくなり
やがて映画館もなくなっていく
そんな寂しさも感じました
【解説】映画.COMより
「タクシードライバー」「レイジング・ブル」など数々の名作を生み出してきた巨匠マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロが、「カジノ」以来22年ぶり9度目のタッグを組み、第2次世界大戦後のアメリカ裏社会を生きた無法者たちの人生を、ひとりの殺し屋の目を通して描いた力作。伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた実在の殺し屋で、1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされるフランク・“アイリッシュマン”・シーランをデ・ニーロが演じるほか、ジミー・ホッファ役のアル・パチーノ、ラッセル・バッファリーノ役のジョー・ペシと、ハリウッドのレジェンド級俳優が豪華共演。第92回アカデミー賞で作品賞や監督賞のほか、パチーノとペシがそろって助演男優賞にノミネートされるなど、9部門10ノミネートを果たした。脚本は「シンドラーのリスト」「ギャング・オブ・ニューヨーク」のスティーブン・ザイリアン。Netflixで2019年11月27日から配信。日本では第32回東京国際映画祭のクロージング作品としても上映。配信に先立つ11月15日から一部劇場にて公開。