パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021)

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原題もThe Power of the Dog」(犬の力)

海外の批評家からは絶賛され

79ゴールデン・グローブ賞では3冠に輝きましたが

これは手強い、見る人を選ぶ作品でした

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LGBTQ(性的マイノリティ)

ギフテッド(IQ130以上の発達障害

身分の差や、アルコール依存症がテーマになっていますが

最後の最後にやっと全てが繋がった

 

これはサスペンスなのです(そして120腐女子向け)

なのでこれから本作を見る予定のある方は

この先のレビューは読まないほうがいいと思います

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次代は1920年代のアメリカ・モンタナ州

カウボーイのフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)

ジョージ(ジェシー・プレモンス)は大牧場を経営する兄弟でした



牛追いツアーで寄った宿で、口の悪い兄のフィルは

紙屑で美しい造花を作ったり、ヨーロッパ式のマナーで客をもてなす

宿の息子ピーター(コディ・スミット=マクフィ)をからかいます

弟のジョージが会計に行くとシングルマザーのローズ(キルステン・ダンスト)

泣いていました

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兄にいつもキツイことを言われ、馬鹿にされているジョージには

ローズの気持がよくわかります

彼女への同情は、やがて愛情に代わり

ジョージはフィルの了解もなくローズと結婚してしまいます

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ローズの淹れたコーヒーを飲み、彼女にステップを教えてもらうと

「ひとりじゃないって いいな」と涙ぐんでしまうジョージ

カウボーイたちの中で独りだけ浮いていた彼は、それほど孤独だったのです



ジョージはローズをとても大切にしました

高価なグランドピアノを買い与え、食事会には知事まで招待する

逆にそれはローズに大きなプレッシャーを与えてしまいます

しかも牧場の経理を担当するジョージは家を不在にすることが多かった

その間、威圧的なフィルと顔をあわせなければならないストレス

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ローズは酒に溺れ、やがて寝床に伏せることが多くなります

そんな時息子のピーターが夏休みで牧場にやって来る

母親のアルコール依存症に気付き

その原因はフィルの存在であると確信します

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フィルはローズ(弟と結婚したのは息子の大学資金のためだと思ってる)

同様に、ピーターにも嫌がらせをします

 

ある日ピーターは、森に偶然フィルの隠れ場所を見つけ

そこにあったのは男性のヌード写真(ブロンコのもの?)や

ゲイ専門と思われる雑誌でした

その時からピーターのフィルに対する逆襲が始まるのです

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新しい帽子とウエストの細さを強調したジーンズで

女の子のように装うピーターに

カウボーイたちは「おとこ女」と野次を飛ばしますが

ピーターは可愛らしい仕草で歩いたり座ったり

そして時々、思わせぶりにフィルのほうを見つめるのです

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いわば「ベニスに死す」(1971)の西部劇版

美少年タジオのように中年男を惑わしてゆくのです

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フィルはピーターに「俺のことはフィルと呼べ」といい

今編んでいるロープが出来たらピーターにプレゼントすると言います

そのうえフィルが宝物にしている

今は亡き伝説のカウボーイ、ブロンコ・ヘンリーの鞍に乗せ

乗馬を教える

 

フィルの期待に応えるかのようにピーターも懸命に乗馬を覚え

カウボーイたちもピーターのことを馬鹿にしなくなります

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そして決定的にフィルがピーターにメロメロになってしまうのが

遠くに見える山脈が何に見えるかという質問に

「吠える犬」と答えるピーター

 

これは本当に偶然なのですが

ブロンコ同様、ピーターも自分と繋がっていると信じてしまう

潜在的には通じるものがあるのだろう)

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一方のローズは息子をフィルに取られたような気になり

ますます酒浸りになっていく

そこでピーターは野うさぎを捕まえ母親にプレゼントします

可愛いうさぎに喜ぶローズ

が翌日ピーター(外科医志望)は、そのうさぎを解剖してしまいます

そこに彼の残虐さを伺わせる

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さらにひとりで乗馬で難所まで行き、死んだ牛を見つけメスを入れます

この流れだと、それも勉強のため解剖するのかと思う

でも違った

 

同じ頃ピーターは、手袋をせず牛の去勢をしたフィルが

ナイフで自分の手を傷つけてしまったのを見ます

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そして牛の皮を譲って欲しいとやって来た先住民族の父子

メイドが追い払い立ち去る父子を、ローズは必死に追いかけ

どうか皮を貰っていって欲しいと懇願します

しかもお礼に渡された刺しゅう入りの手袋に異様なまでの執着心をもつ

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たぶん、先住民はピーターに雇われていて

ローズは息子から「先住民の恩返し」とか

「幸福の手袋」というような物語を聞かされ

マインドコントロールされていたのではないでしょうか

 

そして「手袋」は、フィルが手袋をしていたら助かっていた

というメタファーにもなっています

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ロープの仕上げが出来なくなったと落ち込んでいるフィルに

皮なら僕が持っている

あなたに憧れて取っておいたんだ

使って欲しい、と声をかけるのです

 

その夜フィルはロープの仕上げにかかります

素手で皮を洗い、ギュッと腰を効かせてロープを編みあげていく

(ピーターに男らしくカッコいい姿を見てもらいたい)

フィルを見つめるピーターは、煙草に火をつけ彼に吸わせる(間接キス)

フィルはロープが完成したらピーターと結ばれると期待したかも知れない

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でも翌朝彼を待っていたのは、激しい苦しみでした

どういうことだ・・・

病院に運ばれたフィルはそのまま死んでしまいます

死因は炭疽菌でした

 

あれほど炭疽病の牛を避け、気を付けていたフィルがなぜ?

でも彼が手を怪我していたことは、皆が知っている

ありえないことではない

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フィルがいなくなり、窓から見えるのは

ジョージと幸せそうにキスしているローズの姿

 

「私の魂を(つるぎ)から救い、犬の力から助け出してください」

ラスト、ピーターが読む旧約聖書の一節は

愛する人の行く手にある障害物を取り除け」という

父親の教えと同じ意味をもっていたのです

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ベッドの下にそっと置かれたロープは

再びローズが苦しめられるようなことがあれば

また誰かに使われるのかも知れません

 

 

【解説】映画.COMより

ピアノ・レッスン」で女性監督として初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジェーン・カンピオン監督が、ベネディクト・カンバーバッチを主演に迎え、1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台に、無慈悲な牧場主と彼を取り巻く人々との緊迫した関係を描いた人間ドラマ。大牧場主のフィル・バーバンクと弟ジョージの兄弟は、地元の未亡人ローズと出会う。ジョージはローズの心を慰め、やがて彼女と結婚して家に迎え入れる。そのことをよく思わないフィルは、2人やローズの連れ子のピーターに対して冷酷な仕打ちをする。しかし、そんなフィルの態度にも次第に変化が生じる。フィル役をカンバーバッチが演じ、ローズ役のキルステン・ダンスト、ジョージ役のジェシー・プレモンス、ピーター役のコディ・スミット=マクフィーが共演。2021年・第78ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞。Netflix2021121日から配信。それに先立つ1119日から一部劇場で公開。