ハッド(1962)



「お前のような奴が増えたらこの国はダメになる」
原題も「Hud」(主人公の名)


一見すると西部劇のカウボーイもののようですが

時代設定は50年代から60年代初頭

それぞれの人物描写は素晴らしく

カメラはジェームズ・ウォン・ハウ


厳格な父親の愛情を得られず、孤独で反抗的な男の物語で

アプローチは「エデンの東」(1955)と似ていていますが

エデンの東」のキャルより、ハッドのほうがろくでなし

まったく同情はできません




ハッド(ニューマン)は34歳で独身、自慢の愛車を飛ばし

間男をして町の噂になってるうえ、夜は酒場で喧嘩する札付きのワル


牧場主である父親のホーマー(メルビン・ダグラス)の手伝いも

死んだ兄の息子のロン(ブランドン・デ・ワイルド)に押し付け遊び呆け

家政婦のアルマ(パトリシア・ニール)に色目を使う毎日




牛が口蹄疫かもしれないと獣医に告げられ落ち込む父親に

「牛たちを他州へ売ってしまえ」と主張するハッド

「病気を広める気か」と父親が一喝しても

「この国は病気だらけさ」と減らず口をたたきます


真面目に働き、苦労して金を稼ぎ、正しい行いをして

家族を守る生き方こそ正しいという考えの父親と

汗の成果ではないもので一攫千金を得ようとするハッド




これは、病めるアメリカを暗に匂わせながら

実はハッド自身がその象徴なのです


大切に育てた牛たちが殺処分され、貴重な品種され

苦渋の判断で自ら射殺する父親

なのにハッドは父親に同情するどころか

(油田があるらしい)牧場を自分名義にしてしまいます




確かに、ハッドの心底には優しさも流れていて

不器用なせいでそれをうまく表現できないことを

知っている


高級車も、遊ぶ金も、父親が与えたものでしょう

みんな本当はハッドのことが好きだったのに

それに気づかず裏切ったのは、ハッドのほう




すべては父親が愛してくれなかったせいだという

それは酒酔い運転の自動車事故で、兄を死なせてしまったから


そんなハッドに父親は、兄が死ぬ前から

ハッドの生き方や考え方に反対だったと打ち明けます

父親の本音を知り、自暴自棄になり泥酔し

アルマの寝室を襲おうとするハッド




アルマは牧場を去ることになり

ハッドに憧れていたロンからまで

軽蔑されてしまいまいます


父親は死に、アルマもロンもいなくなり

ひとり侘しく残されるハッド




ここでハッドが牧場をいちから建て直す描写でもあれば

この作品も、もっと人気が出たのでしょうが(笑)

そうではなく、最後まで真実味のあるドラマになっています


こんな男、幸せになれないのです

たとえどんなに金儲けしても

偉くなっても




メルヴィン・ダグラスと、パトリシア・ニールがオスカーを受賞

マーティン・リットの演出も冴えていて

隠れた傑作のひとつでしょう




【解説】allcinemaより
牧場を営む一家で理解者のいない若者の空虚な心を描いた西部ドラマ。監督は『ノーマ・レイ』のマーティン・リット。出演は『ハスラー2』のポール・ニューマンと本作でアカデミー賞助演男優賞を獲得した『チャンス』のメルヴィン・ダグラス。
 テキサスで牧場を営むバノン一家の息子ハッド。30代で独身の彼は、夜になると町へ繰り出し酒と女に入り浸っていた。一方、一代で大牧場を築き上げた父ホーマーとは、イマイチ折りが合わないでいる。そんなある日、飼い牛に病気が発生、政府の殺戮令に親子は衝突してしまう。そして、これを機に牧場主の名義を自分にしようとするハッドに対し、彼がかつて実の兄を無謀運転で死なせたことを忘れられないホーマーは、それをはじめとしたこれまでのハッドに対する冷たい感情の原因をついに吐露し、親子の溝を深めていく…