原題は「TENEBRE SOTTO GLI OCCHI DELL'ASSASSINO」
(影‐殺人者の目の前で)
ひとめでダリオ・アルジェントとわかる
人間の隠れた悪性の焦点を当てた
エロティックな殺人スリラーですが
なんと、アルジェント自身がアメリカで遭った
ストーカー行為や殺人予告をモチーフにしたそうです
長らく映画界でホラーはポルノ同様に俗悪な商品と扱わてきました
その中でもイタリアではホラー映画が作りやすい環境だったため
マニア向けの過激なスプラッターが制作され
「保守的で良心的な」評論家たちから、格好の餌食となったのがアルジェント
「女性を殺す」「女性を性的興味の対象として描いている」
「時代に逆行した暴力作品」だと、批判にさらされます
アルジェントの答えは「変態だって?ああ、そうだよ」(笑)
(皮肉を込めて)ヒロインにトランスジェンダーの女優を起用したり
結果、時代に先駆けた作品を作り上げてしまいます(笑)
序盤からアルジェント節炸裂(笑)
万引きの常習犯エルザが店で小説「暗闇」を盗み
警備員に捕まりますが、住所と名前を教えて釈放
その後ホームレスの男に絡まれると、彼女はその男を蹴り倒して逃げ
自宅に戻ると電話が通じないことに気付きます
窓の外には先程のホームレス
次の瞬間、何者かに背後から襲われ剃刀で喉を裂かれます
黒い手袋の犯人は「汚らわしい女」と「暗闇」のページ破き
エルザの口に詰め込み、写真に収め
ホームレスはその一部始終を目撃することになるのです
一方、新作「暗闇(Tenebrae)」をPRのためにローマを訪れることになった
人気作家ピーター・ニール(アンソニー・フランシオサ)
電話ボックスから電話していた女が
涙を流しながらピーターの旅客機を見送っています
空港ではティルダ(ミレッラ・ダンジェロ)ら記者たちが彼を出迎え
「暗闇」の内容は女性蔑視だと追及されます
戸惑うピーターに出版社のエージェントのブルマーは
「暗闇」がそれだけローマで人気なのだと説明します
さらに取材の場の無言の男はベルディという書評家で
彼の番組に出演が決まっているといいます
オフィスに到着し秘書のアンにピーターがお土産を渡そうと鞄を開けると
中には汚れた服と壊れた腕時計だけが入っていました
飛行機に乗る前に何者かに鞄をすり替えられたのです
さらに宿泊先のホテルに向かうと
ジェルマーニ警部(ジュリアーノ・ジェンマ)と
女刑事のアルティエリが待っていました
女性がニールの小説と同じ手口で惨殺されたといいます
部屋に落ちていたという封筒をピーターが開封すると
「怒りを鎮める方法はひとつだ」という「暗闇」の一節が記されていて
犯人から再びメッセージがくるかもしれないという警部に
謎の鞄の中身を見せるピーター
そこに犯人と思われる人物から「殺人を楽しもう」と電話がかかってきます
犯人に監視されていたことに気づき
外の電話ボックスを見ると、すでに犯人は消えていました
男が苦悶して薬を飲み
赤いハイヒールを履いた白いワンピースの女を思い出しています
【回想】
若い女が4人の青年を挑発するような態度を見せ、青年たちは女を囲みます
ひとりの青年が彼女を殴って逃げると、他の青年たちに取り押さえられ
女は彼の顔を赤いヒールで踏みにじるのでした
記者のティルダが自宅に戻り恋人のマリオンが出迎えると
ティルダとマリオンは(男に対する態度に嫉妬した?)痴話喧嘩をはじめます
ティルダは「汚らわしい女め」という声を聞きましたが
気のせいと感じ(お約束の 笑)着替えを始めると
何者かが彼女を襲い剃刀で殺害
物音に気づいたマリオンがティルダのもとに向かうと
犯人は電球を割り、暗がりでマリオンを待ち伏せして殺します
ふたりの遺体を撮影し
自宅に戻ると写真を現像、剃刀の血を洗い流す犯人
ホテルの管理人の使いで管理人の娘マリアが
ピーターの部屋にやって来て、ピーターの小説のファンだと言い
次に秘書のアンが現れると、ピーターはドアの隙間に封書を見つけます
ピーターは警部から最初の被害者と同じ手口で
ティルダと同居人のマリオンが殺されたことを知らされます
ベルディのテレビ番組の打ち合わせ
ピーターはベルディに「暗闇」は堕落者(作中の犠牲者は同性愛者)の
社会的影響がテーマではないかと質問し
ピーターは他のテーマも存在すると反論します
個人的な興味で尋ねただけだと笑うベルディ
そこに警部とアルティエリ刑事が現れ
犯人はピーターの影響を受け敬愛している人物かも知れない
もし思い当たることがあれば、いつでも話してほしいと伝えます
ホテルに戻ったピーターは、アンに小説は書くべきで無かったと漏らし
窓の外を見ると、アメリカにいるはずの婚約者ジェーンが
車を運転している姿を発見します
確認のためニューヨークのジェーンに電話をしますがつながりません
アンはピーターの鞄をすり替えたのはジェーンではないかと考えます
管理人の娘マリアは、デートの相手と喧嘩してひとり夜道を歩いていました
柵の向こうにいるドーベルマンに八つ当たりすると
怒った犬が柵を飛び越えて追いかけてきました
アンは走り、助けを求め一軒の家(鍵を扉に差し忘れたまま)に逃げ込むと
そこには殺害された女性たちの写真や
脅迫状を作るための切り抜いた活字がありました
アンは証拠になりそうな物をかき集めポケットに入れると
戻ってきた住人がアンに何度も斧を振り下ろし殺します
翌朝、アンの死体は芝刈りをしにきた男性に発見されます
次にピーターに届いたメッセージには
「あの娘は可哀想だったが、殺すしかなかった」
「次のターゲットは最大の堕落者だ」と書かれていました
犯人の狙いは堕落者
書評家のベルディは「暗闇」は堕落者がテーマだと語り
ピーターが滞在するホテルの近くに住んでいて監視がしやすい
マリアの遺体が発見されたのもベルディの宅地のそばだとピーターが話すと
推理作家の思い付きだとアンはいいます
その夜、アンは自宅の道路の反対側に車を停めていた
ピーターの婚約者ジェーンに気付き声を掛けると
彼女は車を走らせ去ってしまいました
ピーターとアシスタントのジャンニは連続殺人犯の証拠を掴もうと
ベルディの家の庭に忍びこむことにします
そこでは男が剃刀を砕き、写真を燃やしていました
ジャンニが裏手に回ると、部屋には書類を抱えたベルディ
ベルディは何かに驚き、「私が全員を殺した」という声がすると
頭に斧を叩きこまれます
ジャンニは頭を殴られ倒れているピーターを抱えてホテルに戻ります
警察に知らせたほうがいいというアンに、何も見なかったと答えるピーター
アンは心配だから泊まるといい、ジャンニが帰るとピーターと関係を持ちます
「今夜の事は忘れましょう」とアン
【回想】
浜辺で青年の顔を踏みつけている赤いハイヒールの女を隠れて見つめる誰か
誰かは彼女がひとりになると、刃物を彼女の腹部に刺します
翌朝アンが起きると、ピーターの姿はありませんでした
ピーターはブルマーを尋ね、命を狙われているので
ローマを離れパリに行きたいと頼みます
ブルマーはキャンペーンはあと2日間あるので
ホテルを移動して身を隠し、契約を果たすことを提案します
ピーターが去り、ブルマーが背後の扉を開けると
そこにはピーターの婚約者ジェーンがいました
ジェーンはブルマーと浮気していたのです
ピーターとジャンニがベルディ宅を捜査している警部を訪ねると
警部は凶器はマリアに使用したものと同じ斧で
さらにベルディはピーターの経歴を調べていたことを教えます
ジェーンが滞在先に戻ると、玄関の前に箱
ブルマーのプレゼントだと思い箱を開けると、中身は赤いハイヒールでした
一方のブルマーはジェーンとランチの約束で広場で待っていると
刃物でいきなり刺されます
人々が集まり、彼の絶命を確認した赤いハイヒールの人物が立ち去る
ピーターは極秘でローマから離れることにし
彼の乗った飛行機が飛び立ちます
犯人捜しに目覚めたジャンニは、ベルディの邸宅に忍び込み
そこで「私が全員を殺した」と言ったのは
殺されたベルディだったことを思い出します
ジャンニが車に戻ると車の鍵が消えていました
次の瞬間、後部座席に潜んでいた人物が彼の首に紐をかけ
ジャンニは絞殺されてしまいます
アンのところに、ジェーンから電話があり
「今はローマにいる」「助けて欲しい」と滞在先を知らされます
ジェーンが犯人だと疑っているアンは電話を切り
殺人犯を警戒するジェーンはが、銃を手にアンの到着を待っていると
窓ガラスが割られ、拳銃を握るジェーンの手が斬り落とされ
背中に斧が振り下ろされます
【回想】
浜辺で赤いヒールの女性が何度も刺され絶命すると
犯人は彼女の赤いハイヒールを持ち去ります
ジェーンの部屋に何者かが入ってくると、その女性も斧で一撃
しかし女性がアンだと思い犯人は激しく動揺します
そこに警部とアンが現れ、死んだのはアンでなくアルティエリ刑事でした
ピーターは飛行機に乗ってはいなかったのです
ジェーンがブルマーと愛人関係だと知ったピーターは
連続殺人犯である書評家のベルディを殺害し
ベルディにジェーンとブルマー殺しの罪をなすりつけようとしたのです
ピーターは、アンと警部の前で自分の喉を切り自殺
嘆き悲しむアンを、警部は警察車両に呼び
無線の報告でわかったことを伝えます
ピーターが10代の頃、知り合いの女性が殺害され
ピーターが容疑者として浮かび上がったものの、証拠不十分で事件は迷宮入り
もし彼が犯人であれば、彼の人格を歪め
小説に描かれているのは彼自身の心境だろうと説明します
アンを車に残し、警部が部屋に戻るとピーターの遺体は消えていました
警部の背後に立ったピーターが斧を振り下ろし
剃刀が芝居に使うダミーだと知らされる警部
物音に気づいたアンが部屋に入ろうとしますが
倒れたオブジェが扉をふさいでいました
ピーターがアンを襲おうと斧を手にし扉に向かうと
扉が開いた拍子にオブジェが倒れ、ピーターを串刺しにするのでした
ベルディはピーターの小説に影響を受けた模倣犯
ピーターは赤いハイヒールの女に踏みつけられたトラウマをもち
さらに婚約者の浮気(堕落)が許せなかった
そのせいで、罪のない人々が殺されてしまう不運
マリアを襲ったドーベルマンこそが
殺人犯の心情を最も表していたかも知れません
と、もうひとつの隠れた見どころは
ウエスタンではないジュリアーノ・ジェンマ(笑)
【解説】映画.COMより
ミステリー小説の作家が殺人事件にまき込まれ、犯人を探し出そうとするというスリラー。「インフェルノ」(80)のダリオ・アルジェントの原案に基づいて、彼とジョージ・ケンプが脚本を執筆。兄のクラウディオ・アルジェントが製作に当り、父のサルヴァトーレ・アルジェントがエグゼキュティヴ・プロデューサーをつとめている。撮影はルチアーノ・トヴォリ、音楽はシモネッティ・ピナネッリ・モランテが担当。出演はアンソニー・フランシオーサ、ジョン・サクソン、ジュリアーノ・ジェンマ、ダリア・ニコロディ、ジョン・スタイナーなど。イタリア原題は“Tenebrae”。
1982年製作/イタリア
原題:Shadow Tenebrae