原題は「Histoires extraordinaires」(特別な物語)
フランス・イタリア製作の3部構成からなるホラー映画
原作はエドガー・アラン・ポーの短編小説
いくらオムニバス形式だからって
一本の映画に出てるって、すごくない?(笑)
第一部(中世篇)「黒馬の哭(な)く館」
原題は「Metzengerstein」(メッツェンゲルシュタイン)
監督/ロジェ・ヴァディム
脚本/ロジェ・ヴァディム、パスカル・クーザン
撮影/クロード・ルノワール
出演/ジェーン・フォンダ、ピーター・フォンダ
全てが思いのまま、乱交パーティで快楽に溺れる
狐狩りの罠にかかったある日、先祖代々から宿敵の名家の
ウィルヘルム男爵(ピーター・フォンダ)の虜になってしまします
だけど男爵は、醸し出す色気とは真逆に
人間より動物が好きという変わり者(それってBBと同じじゃん 笑)
自分に対する冷たい態度に怒ったフレデリックは
家臣に男爵の厩(うまや)に放火しろと命じ
そのため愛馬を守ろうしたウィルヘルム男爵は焼死してしまいます
振り向いてもらうため、ほんの少し懲らしめるつもりが
男爵を失い深い喪失感に襲われてしまったフレデリック
そこに現れたのがタペストリー(壁掛けの織物)そっくりの黒馬
フレデリックはその黒馬と過ごすことだけで癒されるようになり
やがて織物職人がタペストリーを完成させたとき
黒馬に乗ったフレデリックは燃え盛る野火の中に飛び込むのでした
これはもうロジェ・ヴァディムによる
ジェーン・フォンダのコスプレ映画(笑)
ファッションとビジュアル的な美しさを満喫できるうえ
「イージー・ライダー」(1969)で、まだブレイク前の
ピーター・フォンダの貴重な王子様姿を見ることまでできます(笑)
第二部(近代篇)「影を殺した男」
原題は「William Wilson」(ウィリアム・ウィルソン)
ポーの短編の中で最も有名で、テーマはドッペルゲンガー
監督/ルイ・マル
脚本/ルイ・マル、クレメン・ビデル・ウッド、ダニエル・ブーランジェ
撮影/トニーノ・デリ・コリ
出演/アラン・ドロン、ブリジット・バルドー
アラン・ドロンの子ども時代を演じた子役が
あまりにもドロンさまにそっくりで驚いた(笑)
これはルイ・マルの演技指導の賜物でしょう
突然「人を殺した」と神父に懺悔しに教会にやってきた
ウィリアム・ウィルソン(アラン・ドロン)と名乗る男
そして彼が殺したという、もうひとりのウィリアム・ウィルソンについて
語り始めます
養護施設時代から悪ガキと虐めで仲間から恐れられていた
ウィリアム・ウィルソンの前に、同姓同名で容姿までもそっくりな
ウィリアム・ウィルソンという正義の少年が現れます
やがて成長したウィルソンは医学校に通いますが
サディスティックな性格は治ることはなく
娼婦を誘拐し医学生たちの前で生きたまま解剖しようとします
そんなウィルソンの悪事が成し遂げられようとする寸前
いつもやってきて邪魔するのが、もうひとりのウィルソン
軍隊に入り士官となったウィルソンは
悪事でその名を世間に知られ畏れられていました
しかし賭博場で出会ったジュセピーナ(ブリジット・バルドー)だけは
ウィルソンをけなし見下していました
怒ったウィルソンはジュセピーナにカードの勝負を申し込み
イカサマで勝利し、ジュセピーナの上半身を鞭で打ちます
そこにまたもうひとりのウィルソンが現れ、インチキが暴かれてしまう
怒り狂ったウィルソンは、ついにもうひとりのウィルソンを殺害してしまいます
神父はウィルソンに、もうひとりのウィルソンは妄想だと言いますが
ウィルソンは発狂したように塔に登り、投身自殺をしてしまいます
しかし死体はウィルソンに刺殺された、もうひとりのウィルソンのものでした
ドロンさまにはこういう禍禍しい役が良く似合います(笑)
善や道徳が死んでしまうということは、その人にも死をもたらすという示唆
ただ投身するドロンさまが、あまりにチープな人形にはちょっとがっかり(笑)
黒髪のブリジット・バルドーの退廃した美しさは人間離れしていて
もうムンクの絵画の中の女性のようでした
第三部(現代篇)「悪魔の首飾り」
原題は「Il ne faut jamais parier sa tête avec le diabl」(悪魔に首を賭けるな)
監督/フェデリコ・フェリーニ
脚本/フェデリコ・フェリーニ、ベルナルディーノ・ザッポーニ
音楽/ニーノ・ロータ
撮影/ジュゼッペ・ロトゥンノ
出演/テレンス・スタンプ、サルボ・ランドーネ
原作は大幅に翻案され、アル中で落ち目のシェークスピア役者の
幻覚と不安と焦燥感を描いた悪夢世界の疑似体験
テレンス・スタンプの衰弱しきった病的な演技も凄まじいのですが
大きなボールを持った少女の、怖くて怪しく美しい姿には
ジェーン・フォンダもブリジット・バルドーも消えた(笑)
さすがフェリーニ、映像の魔術師と呼ばれるだけのことはある(笑)
この少女の表情がその後のホラー映画に大きな影響を与えたことは
間違いありません
イタリアに映画の撮影のためやってきた落ち目の英国人俳優
トビー・ダミット(テレンス・スタンプ)は迎えのプロデューサーから
映画はキリストを主役とした西部劇で、ドライエルとパゾリーニの中間をいき「
少々ジョン・フォードの味を加えた画期的な映画・・
なのだと説明を受けます(笑)
空港のロビーで群がる怪しげなインタビュアーやパパラッチ
異様で人工的なテレビのトーク番組の撮影
わけのわからない映画賞の授賞式
ただ話題が「悪魔」に触れた時だけ、トビー・ダミットは身を乗り出し
「私にとって悪魔は可愛くて陽気だ 少女のように」 と答えるのです
そして授賞式を逃げ出し、報酬のフェラーリに乗って走り出す
ニーノ・ロータのモダンな音楽に乗ったミュージカルのような軽やかさと
人物がデフォルメされたシュールなフェリーニの猥雑さ
現代を象徴する高級車が、古くから残っているローマ市街をライトで照らす
走っても走っても車を止めることのできなかったダミット
やがて通行止めの標示を蹴散らし、崩れ落ちた高架に辿り着きます
その途切れた道の先に、白い毬を持った少女が立ち微笑みかける
ダミットは笑い、車を一度後退させて少女に向かい一気に突っ込みます
道に張られていたワイヤーが血で赤く染まり浮かび上がる
少女はほほ笑み、白い毬のかわりに
道に転がるダミットの首に手を伸ばすのでした
底知れぬ絶望と、暗闇に飛び込んでしまいたい願望
これ短編映画としてもホラー映画としても
結構な傑作だと思いますよ(笑)
フェリーニを古いとか、難しいくて苦手という人でも見やすいし
若いムービーファンの初フェリーニ作品としてもお薦めだと思います
これはもう3作品とも間違いなく隠れた傑作
しかも変態映画としても逸品(笑)
久々の「お気に入り」を献上させていたたきます
【解説】allcinema より
エドガー・アラン・ポーの怪奇幻想小説を、仏・伊を代表する3大監督が競作したオムニバス作品。第1話「黒馬の哭く館」“Metzengerstein”はR・ヴァディムが監督。当時の妻であったJ・フォンダとP・フォンダ主演で、黒馬に乗り移った男の魂によって死へと誘われる令嬢の姿を妖しく描く。第2話「影を殺した男」“William Wilson”の監督はL・マル。同姓同名の男の存在に脅かされるウィリアム・ウィルソンの末路を追ってドッペルゲンガーの恐怖に迫る一編で、暗い画面とA・ドロンの神経質的な演技がじわじわとスリルを生む。最後の第3話「悪魔の首飾り」“Never Bet the Devil Your Head”はF・フェリーニが担当。飲酒によって人生を転落しつつある俳優の前に現れる少女の幻影。あまりにも綺麗な少女の姿がかえって不気味な感じを出し、舞台を現代に置き換えた事もあってか“ミスマッチが作り出す恐怖”の醸造に長けている作品。3篇の中ではもっとも出来が良いが、他の2篇も監督の個性がうまく発揮されており、トータル・バランスにおいて優れたオムニバス映画といえよう