原題も「WIND RIVER」(風の川)
プロットはFBI捜査官がレイプ殺人犯を追うという
よくあるクライムサスペンスなのですが
見せ方が巧みなうえ、もの悲しさを含む重厚な仕上がりで
とても良く出来ていると思います
ネイティヴ・アメリカンの居留区
コリー(ジェレミー・レナー)はそこで、家畜を襲う野生動物を駆除する
FWS(合衆国魚類野生生物局)のハンターをしています
子牛が殺されピューマの狩りのため山奥に行ったコリーは
雪に埋もれたネイティブ・アメリカンの少女
ナタリーの変死体を発見します
BIA(インディアン部族警察)署長のベンは
すぐにFBIに連絡しますが
やって来たのは新人女性捜査官のジェーンひとり
ウィンド・リバーは鹿児島県と同じくらいの面積で人口は2~3万人
失業率が高く、アルコール依存者も多い
犯罪発生率は全米平均のなんと5~7倍(被害者は先住民族)
にもかかわらず部族警官は6名しかおらず
事件を自由に捜査する権限がありません
いくら頼りなくても、この女性捜査官に任せるしかないのです
検死の結果、少女には裂傷やレイプ痕があるものの
死因はマイナス30℃の冷気を吸ったことによる、肺の出血による窒息死で
他殺ではないと断言します
連邦法にはレイプ犯罪の規定がないため
レイプ犯を逮捕するのは州や市の警察になるわけですが
州や市の警察は居留地の中で行動することはできません
つまり居留地ではレイプ犯を捜査することも、裁くことも出来ないのです
そこでジェーンはFBI本部に何も報告しないまま犯人を捜すことにします
そして土地勘のあるコリーに助手を頼むのです
コリーには断れない理由がありました
彼の愛娘も16歳の時行方不明になり
山に捨てられた遺体はコヨーテに食い荒らされ検死もできなかった
という過去があったのです
そして愛娘と死んだナタリーは親友でした
土地は広いけど閉ざされた空間なので
すぐに犯人の足取りは掴めるんですね
ナタリーの兄の証言で、ナタリーは
掘削現場の白人警備員マットと付き合っていたことがわかります
そこでコリーがスノーモービルの跡を追っていくと
撲殺されたマットの死体を発見します
ウィンド・リバーは山に死体を捨てたら
あっという間に吹雪で死体も足跡も隠れてしまうし
肉食の野生動物も生息するので
ほとんど発見されることがないんですね
しかもそんな猛獣がウヨウヨいるので
誰もが護身用とかじゃなくて、戦争か!っていうくらい
高性能のライフルやマシンガンまで持っている
ジェーンと部族警官たちは掘削現場に事情聴取に行きますが
全員どうみても怪しい(笑)
明らかに犯人に決定なんですけど、そこからの見せ方がまた巧い
居留地ではネイティヴ・アメリカンが白人を逮捕する権利がないという
裁定が下されているため
部族警官は警備員に銃を向けられて膠着(こうちゃく)状態になっても
逮捕することが出来ないのです
そしてジェーンがトレーラーハウスをノックしたところから
事件の真相が明かされます
地味だけど見ごたえのある銃撃戦
ナタリーを襲ったのと、娘を殺した犯人が同一人物かどうかはわからない
でもコリーは復讐せずにいられませんでした
あくまで白人側から見た、ネイティヴ・アメリカンの姿ですが
今でも多くのネイティヴ・アメリカンが僻地で差別され
時代に取り残され、貧しい暮らしをしているという
情報発信として成功していますし
ジョン・ウェインの西部劇時代から
変わっていないという事実に驚かされる
「ネイティヴ・アメリカン女性の行方不明者の統計が存在しない」
実話ベースで、居留地での行方不明者が多いことや
部族警官が6人しかいないことは社会問題になり
2012年にオバマ大統領が6倍の36人にしたそうです
それでも少ないけど、それが精いっぱいだったんだろうな
【解説】KINENOTEより
「ボーダーライン」脚本のテイラー・シェリダン初監督作品。雪深いネイティブアメリカン居住地“ウィンド・リバー”で女性の死体が見つかる。新人FBI捜査官ジェーンは、心に傷を持つハンターのコリーと共に謎を追い、思いもよらなかった結末にたどり着く。出演は、「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナー、「マーサ、あるいはマーシー・メイ」のエリザベス・オルセン、ドラマ『ウォーキング・デッド』のジョン・バーンサル。
厳寒の大自然に囲まれた、雪深いアメリカ中西部ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー”で、突如女性の死体が発見される。FBIから単身派遣された新人捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)は、遺体の第一発見者で地元のベテランハンターであるコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)に協力を求めるが、不安定な気候と慣れない雪山の厳しい条件により捜査は難航する。隔離されたこの地では多くが未解決事件となる現状を思い知るも、不審な死の糸口を掴んだコリーと共に謎を追うが、思いもよらなかった結末が待ち受けていた。