サスペリア(2018)

「母はあらゆるものになれる存在だが
 何者も母の代わりにはなれない」

















ヤン・デ・バエンデ・ウィット兄弟の死体               アントワン・キャノン「勝利の虐殺」(部分)





















ボッティチェリ「ホロフェルネスの遺体発見」      中世時代 者不明「(皮剥ぎの刑にあった)聖バルトロメオ

残酷な名画があるように
ホラーのジャンルでしか表現できない芸術というのもあって
異常な世界だけど、それが美しさにさえ見えてきます


この作品も宗教(メノナイト派キリスト教)や

1977年のドイツ赤軍によるテロ「ドイツの秋」事件
戦時中のナチスドイツによる迫害など
最終的には考察などを見ないと理解できない内容なのですが
(「魔女狩り」「ユダヤ人狩り」「赤狩り」って通底しているのね)








物語の軸である、魔女世界の内部抗争
アートとして鑑賞するのが望ましいのではないかと思います
ただしかなりグロテスクなシーンもあるので
得意、不得意にははっきりわかれるでしょう









クレンペラー博士のところにやってきた妄想症のパトリシア
彼女の手帳に書いてあったのは
「マルコス・ダンス・カンパニー」のことと

キリスト教誕生以前から存在する三人の古い魔女のことでした
「暗闇」の魔女“テネブラルム”
「涙」の魔女“ラクリマルム”
「嘆き」の魔女“サスペリオルム”






行方不明になったパトリシアの捜査を警察に依頼するクレンペラー博士
そしてダンスカンパニーを牛耳るマルコスは
その最古の魔女のうち誰かの権威を得ているのかもしれないと考えます

そんな「マルコス・ダンス・カンパニー」に
アメリカからやってきたスージー
マルコスに次ぐ実力者、マダム・ブランは
スージーのバレエの才能にほれ込み
(四肢が曲がり、失禁し、顔がぐしゃぐしゃになる「遠隔ダンス攻撃」)





彼女を舞踏「民族」の主役に抜擢します
しかしその本当の理由は、パトリシアの代わりに
スージーを“マザー・マルコス”の新しい「入れ物」にするためでした

大抵のホラー映画ならば、事実を知ったヒロインが
悲鳴をキャーキャーあげるところですが()
スージーは違います
それどころかパトリシアを探しに来た警察官が魔女たちに全裸にされ
男性器を弄ばれるのをニヤリと眺めるほどで





スージーは毎夜見る不思議な夢で、だんだんと自分の存在を自覚していき
「民族」の本番の日、魔女の力に完全に目覚め
「私がサスペリオルムよ」と“マザー・マルコス”に告げるのです

クレンペラー博士のセリフにもある通り
キリスト教誕生以前、人々は土着信仰が根付いており
のちに魔女と呼ばれる女性たちも、漢方薬の調合や
出産の手伝いなどをする賢人的存在でした




しかしキリスト教の勢力が増すにつれ
彼女らは弾圧され隠れて活動をするようになり
中世の魔女狩りはその弾圧が極に達したものでした

スージーは少女たちに安らかな死を与え
クレンペラー博士のトラウマも消し去ります
魔女の力をやすらぎの(過去の虐待を消す)ために使うのです





そしてエンドロール後、最強の魔女となったスージー
画面に向かって手で何かを触っているシーン

グァダニーノ監督はこのシーンのことを
「非常に重要」だと語っているそうで()
私を含め多くの観客は「ベルリンの壁を消す」動作ではないか、と
考えると思います






グァダニーノ監督は10歳のとき
サマーキャンプで訪れた北イタリアの映画館で
ダリオ・アルジェント監督のサスペリア(1977)のポスターを見て
強烈なビジュアルに魅了され

13歳の時、イタリア国営テレビではじめて鑑賞し虜になったそうです
それから30年以上経っての再映画化








オリジナルファンからは、「サスペリア」のタイトルには
相応しくない、駄作とか言われているそうです
しかし私の場合、アーティスティックといえばそれまでですが
将来的には芸術的カルト映画になる予感がします

欲を言えばトム・ヨークレディオヘッドがチョット好きなので(笑)
もっと作中でも使ってほしかったです



【解説】allcinemaより

ダリオ・アルジェント監督による1977年の名作ホラーを「ミラノ、愛に生きる」「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督がリメイク。アメリカの若手ダンサーが入団したベルリンの舞踊団を舞台に、ダンサーの失踪をはじめ次々と不可解な出来事が起こる中、舞踊団に隠された恐ろしい秘密が徐々に明らかになっていくさまをアーティスティックな筆致で描き出す。主演は「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のダコタ・ジョンソン。共演にティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ジェシカ・ハーパークロエ・グレース・モレッツ。またカリスマ振付師役のティルダ・スウィントンは“ルッツ・エバースドルフ”という俳優名で男性心理療法クレンペラー博士も演じて話題に。
 1977年、ベルリン。世界的舞踊団“マルコス・ダンス・カンパニー”のオーディションを受けるためにアメリカからやって来たスージーは、カリスマ振付師マダム・ブランの目に留まり、晴れて入団を許される。折しも舞踊団では主力ダンサーのパトリシアが謎の失踪を遂げる事件が起きていて、彼女のカウンセリングに当たっていた心理療法士のクレンペラー博士がその行方を追って独自の調査を進めていた。そんな中、マダム・ブランに才能を見出されたスージーは、目前に迫った次回公演の大役に大抜擢されるのだったが…。