みじかくも美しく燃え(1967)

原題は「Elvira Madigan」(エルヴィラ・マディガン

1889年に実際に起きたスウェーデンのシクステン・スパーレ中尉(34歳)と

サーカスの綱渡りダンサーエルヴィラ・マディガン(21歳)の心中事件を

ボー・ヴィーデルベリ監督映画化

ただただ美しい、文芸作品として愛でたい秀作

木漏れ日がきらめき、野の花が風にゆれる

草原も森も川も、まるで天国を見ているよう

緑の中を無邪気に転げまわる黄色いドレス、揺れる金髪

ヒロインを演じたピア・デゲルマルクが、世界中の映画ファン(男性)を

虜にしたことが容易に想像できます(笑)

 

でも綺麗なだけの映画ではないんですね

幸福もつかの間、空腹と嫉妬と怒りと絶望

あとは真っすぐに破滅へと堕ちていくだけ

デンマーク夏の終わり

幼い少女が森の中ひと組の男女を見つけます

軍服の男と若い女が楽しそうにじゃれあってる

それはスウェーデン陸軍を脱走し

伯爵の称号を持つ貴族シクステン・スパーレ中尉

サーカスの綱渡りスター、エルヴィラ・マディガンでした

スパーレは軍服を脱ぎ捨て

エルヴィラと小さな宿に身を隠します

しかし少女が軍服の金ボタンを拾ったことから身分がばれてしまい

逃げることになります(指名手配されいる)

 

身銭がなくなり、湖で食料の魚を釣るふたり

そこにスパーレの軍友で幼馴染のクリストファーが彼を探してやってきます

奥さんと子どもたちが心配していると伝えに来たのです

スウェーデンではとても有名な話ということで

ふたりがどうやって知り合ったか、なぜ駆け落ちしたかは

一切描かれていないのですが

伯爵とは名ばかり、スパーレは自分が結婚していることも

財政難で借金だらけだったこともエルヴィラに隠し

「結婚してくれなきゃ死んでやる!」とストーカー化

神経衰弱してしまったエルヴィラを半ば強引に連れ去ったんですね

しかも子どもは28人いたそうです(どれだけ愛人がいたのよ)

 

スパーレは軍隊だけじゃなく

家族の養育から、借金から、若い女に逃げただけ

なのでスウェーデン人はエルヴィラに対してとても同情的なのですね

逃亡先でも、お金もないのに見栄っ張り

毎日がピクニック、レストランで食事をする

支払おうとするクリストファーからエルヴィラはレシートを奪い

靴に隠していたお金をこっそりスパーレに渡します

しかしクリストファーは見抜いていました

うまくやったつもりでも、こんな生活は続かないよ

さらにエルヴィラに聞こえるようにスパーレの妻が自殺未遂したことを告げます

エルヴィラはその場を去り、スパーレはクリストファーに絶交宣言

エルヴィラを追いかけます

「自殺未遂の話は嘘なんだ」(本当の可能性のほうが高い)

宿で愛し合うふたり

夜になり読書のためスパーレが本を開くと

そこには栞の代わりに、子どもからの手紙が挟んでありました

どこまでも最低の男

見て見ぬふりをするエルヴィラ

その宿で知り合いのカルテットと偶然会ったエルヴィラは

コンサートのチケットを渡されます

「お嬢さん」と呼ばれているのは

エルヴィラの両親(サーカス会社経営)は金持ちなのかも知れませんね

でもドレスがない

なんと宿のテーブルクロスを被り、鏡の飾りを頭に付けて行く(笑)

さらに食べる物もない

大事にしていた似顔絵(無名時代のロートレックが描いたもの)を売り

その2クローネでクリームを買い、森で採った果実を食べるのです

 

エルヴィラはダンサー募集の広告を見つけ

面接に行き25クローネで雇ってもらうことになります

エルヴィラの仕事中劇場の外で待つスパーレ

そこに酔っ払いの客が用を足しにやって来て

エルヴィラのことを凄い美人だ、最高の膝だと言うと

スパーレはその客を殴り倒して逃げてしまいます

おかげでエルヴィラはクビになり

給料を貰うことさえできませんでした

 

なぜ膝を見せたのかと怒るスパーレ

「私たちの問題はそこではない」と答えるエルヴィラ

食料は木の実とキノコと草だけ

吐いてしまうエルヴィラ

スパーレは別れてくれないだろう

別れたところで彼を待っているのは、逮捕と借金だけなのだから

 

やるしかないの

「こめかみよ」

酒場で腕相撲の賭けに勝ったスパーレはパンとワインを手に入れます

鶏小屋から卵を盗みゆで卵にする

エルヴィラが家賃の代わりにアクセサリーを置いていく

 

野原では子どもたちが遊んでいました

目隠しをした鬼の子がエルヴィラにタッチ

目隠しを取りエルヴィラの顔を見たとたん

子どもたちは一斉に逃げ出してしまいます

スパーレは倒れたエルヴィラを抱え森の奥に向かいワインを与えました

久しぶりのご馳走、なのに(空腹すぎて)パンも卵も喉を通らない

ふたりは抱き合いエルヴィラに銃口を向けるスパーレ

でも撃てませんでした

すると蝶を見つけたエルヴィラが、追いかけていきます

そしてその手に蝶を捕まえた瞬間

ふたつの銃声が森に響いたのでした

ふたりが追いかけた小さな蝶は

永遠に叶うことのないせの象徴だったのでしょうか

彼らが最後の地に選んだデンマークの森は後にエルヴィラの森と呼ばれ

劇中で使われたモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調(K.467)

「エルヴィラマディガン協奏曲」と呼ばれることもあるそうです

 

 

【解説】allcinema より

1889年にスウェーデンで実際に起きた事件を描いた美しい悲恋物語。妻子ある伯爵のスパーレ中尉(T・ベルグレン)はしがないサーカスの綱渡り芸人エルヴィラ(カンヌ主演賞のP・デゲルマルク)と愛しあい、二人で逃亡。友人の制止も聞き入れず、あてどない逃走を重ね、やがて金も尽き、着たきり雀で野宿が常となる。日蔭物の身に職もなく、手配書は至る所に回っている。木苺や茸で飢えをしのぐ森での暮らし。しかし、北欧の夏は短い。行く末を儚んだ二人は、見事に晴れ渡った一日をピクニックに過ごし、最後の贅沢にランチを満喫し、銃で心中を謀る……。そのラスト、痛ましい結末まで見せずに、野原の上で蝶に心奪われ、それを追うエルヴィラのストップ・モーションに銃声が被る--という余韻の持たせ方が秀逸。逃亡のさ中にも洗濯ロープで綱渡りをする彼女の芸人の性が、彼らの行く手を阻むことになる場面も忘れ難い。素晴らしいクラシックの佳曲の彩りも巧緻だった。