ボーダー 二つの世界(2018)

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原題は「Grän」(英語の "border"=国境、境目、境界 )

脚本は「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008)の原作者

ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストと

イラン系デンマーク人のアリ・アッバシ監督の共同

 

スウェーデンのファンタジー映画ということで

見る前からグロは覚悟はしていましたが

これはかなり上級者向け、耐久性が必要(笑)

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人間が本能的に拒否反応をおこす生々しい造形は

場合によってはトラウマになるかも知れませんし

どちらかといえばニッチなマニア向き(笑)

 

実際に北欧では、妖精が自分の子どもと人間の子どもを取り替える

または連れ去られるという伝承があり(取り替え子)

そのことを巡る歴史的記録を少しでも知っておくと

この映画を見る目もかなり違ってくると思います

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国際フェリーの税関職員として働くティーナは

「嗅覚」だけで犯罪者を見分ける能力を持っていました

酒の密輸、児童ポルノSDカード

その的中率は100%で、一緒に働く職員からも信頼されています


ある日の到着ゲート、自分と似た特殊な顔の男に何かを感じたティーナは

男を呼び止め荷物のチェックをします

しかし怪しい金属製の箱は、昆虫の孵卵器だとわかりました

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そしてまた数日後、その男はやって来ます

ティーナはまたもや犯罪者の臭いを感じ取ると

同僚(男)にヴォーレと名乗るその男の身体検査を頼むのです

すると同僚はその男からは何も出てこず

しかも生殖器が女性のものだったと動揺を隠せません

(肛門や膣の中も調べなければいけない、ということか)


そこではまだ、典型的な両性具有者なのかな

と、思っていたのですが


どうしてもヴォーレと、ヴォーレの臭いが気になったティーナは

彼に宿泊先を聞きます、そうして会いに行ってしまいます

すると彼は庭の木の幹から蛆虫をつかまえて食べていました

「気持ち悪い」というティーナに「試したいくせに」と笑うヴォーレ

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そしてティーナはヴォーレを家に招き、ゲストハウスを貸すことにします

ボーイフレンドのローランドは彼を不気味がり連続殺人犯呼ばわり

しかしローランドはヒモで居候の身分、強いことは言えません


ティーナは外見が似ているだけじゃない

自分にもヴォーレと同じ腰に傷のあとがあること

雷に撃たれたあとがあること

そして犯罪者の臭いと、我慢できないほど惹かれる匂い


だけど自分は染色体に異常があって醜いうえ

子どもを産めない身体だと打ち明けます

しかし彼は「人と違うことは優れていること」と言い

ふたりは愛し合い、自分たちは「トロル」だと教えられるのです

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謎に思っていた自分の生い立ちを知り

いままで抱えていたトラウマが消えていくティー

(でもお父さんは許してあげようよ)

 

それにしても、肝心のストリーがわからなくなってしまうほど

重要なシーンにモザイクをかけてしまうのはいかがなものか

せめて内容が損なわれない程度のぼかしにするべき

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時を同じくして、ティーナは児童ポルノ摘発のため

警察に協力するよう頼まれていました

すぐに怪しい男は見つかり、臭いを頼りに部屋まで追いかけると

そこにいたのはごく普通に見える夫婦でした


警察はティーナを戒めますが、ティーナは自分の嗅覚を疑うことはありません

犯罪の臭いがする、絶対赤ちゃんはいた

留守を狙い警察が踏み込むと(合法なのか?笑)

ティーナの予言通りポルノを撮影したビデオが隠されていました


妻は夫が知らない男から赤ちゃんを買ったといいます

そして夫がその男と会ったのは一度だけだと

しかし犯人を知っている夫は、護送中に何者かに車から引きずり出され

殺されてしまいます

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現場から臭いを嗅ぎ取ったティーナは森の中でヴォーレを見つけます

税関で感じた犯罪の臭いはやはり間違いではなかった

夫婦に赤ちゃんを売ったのはヴォーレだったのです

では赤ちゃんはどこから


チェンジリング」(取り替え子)

ヴォーレは定期的に赤ちゃんを産み(未受精のため長く生きられない)

人間の赤ちゃんと取り替えていたのです

それは両親を拷問死された、人間たちへの復讐でした

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一緒に逃げてたくさん子どもを作ろうと言うヴォーレ

だけどいくら彼を愛していても、性犯罪のための誘拐は許せない

しかも親しくしている隣人の赤ちゃんまで・・

ティーナがゲストハウスに戻ると、ヴォーレは荷物をまとめて消えていました

「フェリーで待つ」というメモを残して


しかしティーナは警察に通報し

フェリーから海に飛び込んだヴォーレは

そのまま海に消えてしまいます


そして数か月後、ティーナの家の前に置かれていた箱の中には

フィンランドの絵葉書と、尻尾の生えた赤ちゃんが入っていました

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日本人のイメージする妖精と違って

ヨーロッパでいう妖精とは、しなびた外観に不愉快な性格

人間に畏れられ、侵略され、森の中や地下に隠れてしまいます


作中では女性の股間から性器が突起し、男性が出産する

女性と男性のボーダーはどこにあるのか

LGBTQを妖精たちに例えて、差別や虐待によって

多様と人権が奪われていることを訴えているのです

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主人公を演じた女優は体重を約20キロ増加させたそう

しかも醜い顔にボサボサの髪に、汚れた歯と爪

この外観で喜怒哀楽を表現するのには苦労したと思います

スウェーデン映画の特殊メイクの技術の高さにも驚きました

 

ただ、オススメかというと

ノーマルなムービーファンには正直あまり勧められません(笑)



【解説】ウィキペディアより

2018年のスウェーデンのファンタジー映画。監督はアリ・アッバシ、出演はエヴァ・メランデルとエーロ・ミロノフなど。ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストのアンソロジー集『Pappersväggar (Paper Walls)』に収録されている同名の短編を基にアッバシ、イサベラ・エクルーフ、リンドクヴィストが脚本を執筆した。第71カンヌ国際映画祭ではある視点賞を獲得した。第91アカデミー賞外国語映画賞スウェーデン代表作として出品されたものの落選したが、一方でメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。

ティーナは生まれつきの特殊な嗅覚を活用して、国境フェリー税関職員として働いていた。 密輸犯罪者や違法ポルノ所持者を嗅覚で嗅ぎ分けるため、評価は高かった。 同居人ローランドは犬のブリーダー。表向きはカップルとして生活しているが、 ティーナは自分の醜い顔、他人と違う性質のせいで孤独感に悩んでいた。

ある日、税関で怪しい旅行者ヴォーレを検査するが何も出ず、税関は彼を通した。 そのやりとりを通じ、ティーナとヴォーレはお互いに共通する何かを感じ取る。 ティーナは個人的にヴォーレと接触し、自宅の離れに泊めることにする。 ヴォーレと話をするうちに、やがてティーナとお互いを求めあうようになり、 そしてついに、ティーナは自分が人間ではない出生の秘密を知る。

ティーナは人間の価値観と彼らの性質との間の葛藤により苦悩するようになり、ローランドを自宅から追い出す。 その後税関で疑いをかけた違法ポルノの男を追ううちに、ヴォーレが犯罪に関わっていることを知る。 ティーナは人間として社会生活を送る以上、ヴォーレを犯罪者として無視できず、 ヴォーレを逮捕しようとする