「見るものは 見た」
「知るものは 知った」
原題は「Ansiktet」(顔)
原作は英ミステリー作家のG・K・チェスタトン「魔術-ある幻想的な喜劇」
旅芸人の魔術師の一座と、科学主義者たちの
科学と魔法の対立を喜劇にして描いた必見の傑作
ベルイマンのなかでは宗教色も難度も低めなので
ベルイマンが苦手、という人でも楽しめると思います
常連のマックス・フォン・シドーに
ベルイマンのミューズ、イングリッド・チューリンも安定の演技
【ここからネタバレあらすじ】
美しい木漏れ日の森を走るヴォーグレル魔術一座の馬車
森から幽霊の声が聞こえると御者が怯えるので
ヴォーグレル博士(シドー)は馬車を降り声のほうに歩いていきます
そこには死にかけたアル中の男が倒れていました
ヴォーグレルはスぺ―ゲルと名乗る男をその馬車に乗せますが
間もなく男は死にます
馬車が目的の街に着くと警察署長スタルベックによって
エーゲルマン領事の屋敷に呼ばれ、ヴェルゲールス医師から尋問されます
一座の魔術ショーは胡散臭いことで有名なのでしょう
調子のいい口上男テューバル、男装の助手アマン(チューリン)、御者シムソン
声が出せない魔術師ヴォーグレル博士と、見た目魔女のヴォーグレルの祖母は
翌日の昼間マジックを見せるため、屋敷に泊まることになりました
一座は屋敷の召使たちと食事をすることになり、メイドたちは魔法に興味深々
積極的なサーラ(ビビ・アンデショーン、もうひとりのミューズ)は
テューバルに手相で恋のゆくえを占ってもらい
魔女の作った女神アフロディテの媚薬をもらいます
料理番のソフィーアも媚薬を欲しがりますが、残っているのはインチキ薬ばかり
薬なんていらないと、テューバルを誘い部屋に戻っていきました
サーラはシムソンと媚薬を飲み、すっかりその気になってしまい洗濯室へ
若い使用人はテューバルに媚薬と騙され猫いらずを渡されポンコツになり
屋敷の御者で生意気なアントンソンは魔女から
「洗濯室で首つり死体を見た」と予言されます
純朴なサンナは魔女を怖がりますが
ベッドにやってきた魔女から耳の形のペンダントをもらい
彼女がやさしいことを知ると深い眠りにつきます(子守唄が怖すぎだろ 笑)
そして魔女は「死人が来る」と壁に十字をきる
夜中ヴォーグレルとアマンが明日のマジックの準備をしていると
色目を使った領事の妻がやってきました
席を外すアマン、カーテンの隙間から覗く領事
領事の妻は娘を失った悲しみを癒してくれるのはヴォーグレルしかいないと
夫に眠り薬を飲ませるので2時になったら寝室に来てほしいと懇願します
領事の妻が去ると、次に死んだはずのスぺ―ゲルがやってきます
(本当は酔っぱらって気を失っただけ)
スぺ―ゲルは使用人を驚かしたのが一世一代の名演技だったと自慢し
酒瓶を持ちヴォーグレルの腕に抱かれながら、今度は本当に死にます
遺体を棺桶に入れるヴォーグレル
ヴェルゲールス医師は自分の部屋にいくといいながら
寝支度をするアマンの部屋に入ります
昼間は男装をしていますが、本名はマンダといいヴォーグレルの妻でした
権力を笠にマンダを口説き始める医師
ドアの向こうでそれを見ていたヴォーグレルは我慢がならず
怒って医師の杖を折り部屋から追い出します
ベッドに横たわり、不機嫌なヴォーグレルに思い出話を語るマンダ
ヴォーグレルは妻とふたりきりになると声を出しました
翌日屋敷に客が招かれ、マジックショーが始まります
何が出るかと思っていたら、空中ショーのインチキがばれ皆が大笑い
次に警察署長の陽気な妻が呼ばれ、アマンが妻に署長のことを質問すると
妻は嬉々と夫の悪口を言い出し、子どもは違う男の子で
出来の悪いのだけは彼の子かもねとカミングアウト
慌てる署長を無視して
今度は屋敷の御者のアントンソンを見えない鎖で縛ります
本物の鎖で繋がれたようにまったく身動きがとれないアントンソン
しかし暗示を解いたとたん、アントンソンはヴォーグレルを
力任せに絞め殺して逃げ、驚いた見物客も部屋から飛び出してしまいます
皆が部屋に戻るとヴォーグレルには白い布が被されていました
ヴォーグレルが死んでいることを確認した医師は
死体を検視解剖するので、屋根裏に運べと命令します
超能力や超自然的神秘というより、これは「催眠術」
ここからヴォーグレルの復讐がはじまり
いままでの不思議な出来事の種明かしになっていく
魔女の予言通りアントンソンは洗濯室で首つり自殺をし
アマンは解剖の終わった医師をひとり屋根裏に閉じ込める
医師の前の机に切られた手首が現れ、鏡にはヴォーグレルの姿
逃げようとする医師の首は絞められ、ついに階段から転げ落ちる
殺してしまうのかと思ったその瞬間、ドアが開きアマンが止めに入ります
スぺ―ゲルのボロ服を着て幽霊を演じる
マックス・フォン・シドーがかっこいい
同じボロでも着る人が違うとこんなに違うのか(笑)
逮捕を恐れ、ヴォーグレルとアマンは早く出発しようとしますが
テューバルはソフィーアと落ち着くと(そして何度も部屋に呼ばれる 笑)
魔女まで媚薬でたんまり稼いだし、もう年だから残ると言い出します
代わりにサーラがシムノンについていくことになり
サーラとシムノンは支度に向かいますが、戻ってこない
おがげで出発が遅れ、一座は再び屋敷に呼ばれてしまいます
なんと王宮から領事のところに使者がやってきて
国王の前で一座にマジックを披露してほしいと招待されたのです
ヴォーグレルのマジックを詐欺と斥けるつもりだった
やっと威厳を取り戻しかけていた署長と医師は
悔しい気持ちで一座を見送りました
喋れないと思っていたら、そうじゃない
男だと思ったら、そうじゃない
幽霊だと思ったら、そうじゃない
妻の浮気を知っても、離婚しない
人間誰もが、無意識のうちに表と裏の「顔」をつかいわけているということ
ヴォーグレルとアマン、シムノンとサーラは
悠々と馬車で次の目的地まで旅立とうとしています
媚薬の効いた?サーラはシムノンから
「夜まで待って」となだめられていました(笑)
【ネタバレあらすじ終了】
でも行く先には、暗雲が立ち込めているような
気がしてならないのは私だけだろうか
【解説】映画.comより
スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが、魔術師の旅芸人一座と彼らのトリックを暴こうとする役人たちが繰り広げる騒動を描き、ベルイマン初期の到達点とされる傑作喜劇。19世紀スウェーデン。魔術師フォーグラー率いる旅芸人一座が、ある町にたどり着く。暇を持て余していた領事エガーマンは彼らを屋敷に拘束し、警察署長や医師らの前で芸を披露させてそのトリックを見破ろうとするが……。ベルイマン作品の常連俳優マックス・フォン・シドーとイングリッド・チューリンがフォーグラーとその妻を演じた。第20回ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。日本では1975年に劇場初公開。2018年の「ベルイマン生誕100年映画祭」(18年7月~、YEBISU GARDEN CINEMAほか)でリバイバル上映。