原題も「Atlantique/Atlantics」(大西洋)
監督のマティ・ディオプはフランス系セネガル人
2019年カンヌ映画祭グランプリ(パルムドールに次ぐ賞)を獲得
パルムドール争う史上初の黒人女性監督になりました
ぜネガル映画は初めて
しかも純愛ものかと思ったら、そこから
放火事件→謎の体調不良→白目の女たち→白目の警視、と
サスペンス、やがて予期せぬホラーへ(笑)
この奇想天外な展開を、よくまとめたと感心します
そこにはアフリカの風土や
古くからの超常的な現象に対する風習が
根強く残っているのかも知れませんね
大西洋岸沿いのダカール郊外
近代的な高層ビルがオープンしようとしています
しかし建設労働者たちには何ヶ月も賃金が支払われていません
その中のひとり、スレイマンと17歳のエイダは恋しています
しかしエイダは富豪のオマールとの結婚式を控えていました
その夜、スレイマンに会うためエイダは親友のファンタらと
(恋人たちのたまり場になっている)ディオールのバーに行くと
スレイマンたちは、恋人に別れも告げず
スペインに仕事を求め船で出発したと告げられます
嫌々オマールとの結婚式を迎えるエイダ
エイダの性格があまりに子どもでイライラする(笑)
招かれた友人たちは豪邸の立派な寝室に大はしゃぎ
そのとき友人のひとりがスレイマンを見たとエイダを呼びに来ました
次の瞬間、寝室から不審火
夫婦で過ごすためのベッドが焼かれてしまいます
幸い火はすぐ消し止められましたが
捜査を担当することになった警視のイッサは
何人もの「スレイマンを見た」の評言から
エイダが放火の共犯だと疑い調査することにします
ぜネガルは人口の94%がイスラーム
一夫多妻制(4人まで結婚が許可)
でもアラブのように戒律が厳しくないというか
女性の肌の露出は多いし(笑)恋愛にもオープンな感じですね
公用語はフランス語(本作では現地語のウォロフ語)で
西洋の文化が入っているからでしょうか
そこに失業問題、富裕層の貧しい人々からの摂取
他国への出稼ぎ労働、という社会問題が織り込まれています
警視のイッサは突然気を失ってしまうという
謎の体調不良に悩まされていました
ファンタも同じように汗とだるさに苦しみ
何かが身体の中に入ったような感覚があると訴えます
ある夜、労働者の恋人たち(全員白目)が集まり
未払いの給料を求めに高層ビルのオーナーの屋敷に集まります
そして深夜の墓場に金を持って来い
でなければビルを燃やすと脅して帰ります
そしてオーナーの家からも謎の不審火
イッサはオーナーの家の警備も引き受けることになりました
オマールの屋敷と同様に、スレイマンを疑うわけですが
スレイマンの乗った船が嵐に遭遇し沈没
全員死んだという知らせを受けます
スレイマンがすでに死んでいるなら、犯人は誰
結婚式で撮影された動画を慎重に見なおすと
そこに映っていたのは自分の姿でした
イッサは慌てて家に戻り、自分の手首に手錠をかける
日が沈み、気を失うイッサ(録画しているのだろう)
ディオールのバーに集まる女たち
鏡に映るのは海で死んだはずの男の姿
女たちは墓場でビルのオーナから未払いの賃金を受け取り
オーナーに自分たちの墓を掘らせるのです
(墓が出来ることで、魂の帰る場所も出来る)
ちゃんと給料が貰えていたら、結婚できた
出稼ぎに出なくてよかった
船に乗らなくてもよかった
死ななくてよかった
死んだ男たちの思いが、愛する女に憑依する
スレイマンはエイダと結婚し彼女を幸せにしたかった
その強い念がイッサに乗り移ったのです
(エイダが処女のため彼女に憑依できなかったってこと?)
同じ夜、エイダはイッサ(鏡に映るのはスレイマン)と愛し合います
夜が明けると、ひとりベッドを抜け出し警察署に向かうイッサ
「事件は解決です」と署長にUSBを渡すのでした
ファンタは元の姿に戻り、ベッドには大金
エイダは「未来に生きる」と微笑むのでした
「私がエイダよ」
お気の毒なのは、旦那のオマールさん
外国で成功した実業家が、地元で若い奥さんをもらうのは
当たりまえの風習かも知れないし
何も悪いことしていない(むしろ尽くしている)
妻にあそこまで酷い態度取られたら
どんなに優しい男でも、キレてしまうのはあたりまえ
だけどエイダはオマールの許に戻るかもしれないな
なぜならエイダはオマールの妻であることは変わらないし
医師が発行した「処女証明」があるから
イッサ(スレイマン)の子を、オマールの子として産み育てるのです
それが「未来に生きる」決意
イッサはあくまでスレイマンに身体を乗っ取られただけ
でもスレイマンがイッサの身体を永遠に借りるつもりなら
わからないけど(笑)
金持ちが貧乏人から摂取するというシステムはどこの国も同じ
本当に幽霊にでもなって呪わないと
世の中は変わらないのかも知れません
【解説】映画.COMより
俳優としても活躍するフランスの気鋭女性監督マティ・ディオップが長編初メガホンをとり、2019年・第72回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した異色のラブストーリー。ディオップ監督のルーツのひとつでもあるセネガルを舞台に、同国の社会問題を盛り込みながら、許されざる恋に落ちた若き恋人たちを襲う思いがけない運命を、幻想的な映像表現と意表を突くストーリー展開で描き出す。都市開発が進むセネガルの首都ダカール。17歳の少女エイダは裕福な男性との結婚を控えていたが、建設現場で働く青年スレイマンと秘密の逢瀬を重ねていた。しかし、給料の未払いが続く職場に耐えきれなくなったスレイマンと仲間たちは、仕事を求めて船でスペインへ旅立ち、そのまま消息を絶ってしまう。失意の中で結婚式の日を迎えるエイダだったが、男たちは思わぬ形で街に戻ってくる。Netflixで2019年11月29日から配信。2022年4月23日からシアター・イメージフォーラムの「マティ・ディオップ特集 越境する夢」で劇場初公開(特集上映時のタイトルは「アトランティック」)。2019年製作/106分/フランス・セネガル・ベルギー合作