別離 (2011)

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原題は「جدایی نادر از سیمین (英:Nader and Simin, A Separation)」
(ネーダーとシミン、分離)
ネーダーとシミンという夫婦の離婚問題と平行に
介護や経済格差、宗教や女性差別という社会問題が描かれていきます
そこに妊婦の転落事件にまつわるミステリーが加わる

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こういう難しいテーマをいくつも組み合わせて
見事にまとめあげるのがアスガー・ファルハディ監督の特徴

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離婚を前提に別居をした夫婦
夫には認知症の父親がいて、妻が出て行ったので
仕事に出ている間、介護の女性(子連れで妊婦)を雇うわけですが
老人が失禁してしまいます

イランでは、異性に簡単に触れることができないんですね
医療や介護の現場では宗教上のしがらみで苦労もあるでしょう
介護士は相談センター?みたいなところに電話して
事情を説明して着替えさせることは可能か訊ねます

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次の日は次の日で、老人は部屋を出て行方不明になってしまいます
徘徊しているところを見つけるものの、そこは車の通りの多い大通り
どうにか老人を連れ戻すものの命がけ
だけど彼女は夫が失業中でお金が必要だったのです

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その次の日、男が家に帰ると介護士は出かけて
父親がベッドに縛り付けられ意識を失っていました
命に別状はありませんでしたが、介護士の言い訳は一切聞かず
給料も払わず、おまけにドアから突き飛ばして追い出します

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その後介護士が入院したと聞いて怖くなった男は見舞いにいきますが
介護士は流産していて、男は殺人罪として訴えられました
争点は「妊婦ということを知っていたか」

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確かに老人を縛り付けて出かけるのは悪いことだけど
事情も聞かずに追い出した男のほうがもっと悪い
せめて給料だけでも渡していれば
彼女も最初から自分の否を認めたかも知れないし
ここまで大きな問題にはならなかったでしょう

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なによりいちばん傷ついたのは一人娘
たとえ流産の直接の原因ではなかったとしても
妊婦を突き飛ばした父親を人間として許せるでしょうか

夫婦の離婚後、娘は母親と外国で暮らすと思います
もし父親と暮らすことを選んだとしたら
それは憐れみと同情から

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最初から最後まで全く無駄のない完璧といっていい脚本
そしてなによりイスラム教徒にとってのコーランの重さを突き付けられます

 


【解説】allcinemaより
前作「彼女が消えた浜辺」がベルリン国際映画祭で監督賞に輝くなど世界的に注目されたイランの新鋭アスガー・ファルハディ監督が、一組の夫婦のすれ違いが思わぬ事態へと発展していくさまを、伝統と近代化の狭間で揺れるイランの社会事情を背景にスリリングに描き出したヒューマン・ドラマ。さまざまな社会問題や普遍的な家族の間の心の葛藤を丁寧に織り込みつつ、緊張感みなぎる会話劇に予測不能のストーリー展開を見せる巧みな脚本が賞賛され、ベルリン国際映画祭金熊賞を含む3冠に輝いたのをはじめアカデミー外国語映画賞受賞など世界中の映画賞を席巻した。
 テヘランに暮らす夫婦ナデルとシミン。妻のシミンは娘の将来を考え、海外への移住を計画していた。しかし準備が進む中、夫のナデルは、アルツハイマー病を抱える父を残しては行けないと言い出す。夫婦の意見は平行線を辿り、ついには裁判所に離婚を申請する事態に。しかし離婚は簡単には認められず、シミンは家を出てしばらく別居することに。一方ナデルは父の介護のため、ラジエーという女性を家政婦として雇う。ところがある日、ナデルはラジエーが父をベッドに縛り付けて外出したことに激高し、彼女を家から手荒く追い出してしまう。するとその夜、ナデルのもとに思いもよらぬ知らせが届くのだが…。