原題も「ONE CHILD NATION」
1979年から、2015年までの約35年間中国で行われた
「ひとりっ子制作」の実態に迫るドキュメンタリー映画
在米中国人監督ワン・ナンフー(1985年生)が
生まれ故郷に行き、ホームビデオ用のカメラでひとりで撮影
マイケル・ムーアの女性版かと思いがちですが
そんなもんじゃなかった
こんなドキュメンタリー映画見たことない
極めて衝撃的な内容に驚かされます
ナンフーさんは赤ちゃん(生後2~3ケ月)を連れ
母親や弟、親戚にお披露目するため江西省の小さな農村に里帰りします
中国でナンフーは「男栿」と書き男の名前
強く逞しい大黒柱になってくれることを願って両親が考え
産まれたのは女の子だったけどそのまま命名しました
その5年後弟が産まれますが(祖父は村の権力者だったと思われる)
姉弟のいるナンフーさんは学校で珍しがられ
虐められたこともあったそうです
そこでナンフーさんは「ひとりっ子制作」について
母親や親戚、当時の村の村長
自分を取り上げてくれた助産婦などから話を聞くことにします
穏やかに見えても、切り口はかなり鋭い
「ひとりっ子制作」は私も知っています
だけどこんなにも非人道だとは知らなかった
それも何百年も過去の話ではなく、つい最近まで行われていたのですから
1958~61年に毛沢東が行った「大躍進」(農業や工業の改革)が大失敗
7000万人とも言われる国民が食料不足のため餓死してしまい
このままだとますます食糧危機になってしまうため
人口を減らす、という政策が取られます(マルサス主義)
中国や韓国は、日本以上に長男が家を継ぐという
古い伝統が今も根強く残っていて、夫婦別姓なのも
結婚をしても嫁は夫の家の苗字をもらうことができないからです
もし女の子が産まれたら嫁に行ってしまい(子どもは夫の姓になる)
家が途絶えてしまう
だからどうしても男の子が欲しい、男の子じゃなきゃだめなんだ
じゃあ、女の子が産まれたらどうする?
籠に入れて捨ててしまうのです
捨てられた赤ちゃんも、女の子なら誰も拾わない
顔中蚊に刺され、蛆虫がわき、赤ちゃんは死んでしまいます
でも中には女の子の赤ちゃんでも、捨てられない親もいるでしょう
隠れて次に男の子が産まれるのを待つわけですが
役人に家を壊され、担架に縛り付けて連れていかれ
強制的に不妊手術や、中絶をさせられてしまいます
しかも中絶させられる妊婦のほとんどが8~9ケ月
とりあげられた赤ちゃんがたとえ生きていても
そのままビニール袋に入れられ、他のごみと一緒に不法投棄される
ナンフーさんをとりあげた助産婦は5万人は赤ちゃんを殺したという
10万人以上の処理をして、組織から英雄だと金賞をもらった助産婦は
「勲章を貰ったことをいまでも誇りに思う」と答える
女の赤ちゃんを捨てた叔母に捨てた理由を尋ねると
姑から「捨てないと村八分にされる、非国民になる」
「その女の子を捨てないなら、私が殺すか、私が自殺する」と
脅され、やむを得なかったと答えます
だけど彼らがいくら赤ちゃん殺しでも
怖い人間かといえば、そうではない
家族を大切にするやさしい人々、模範的な国民、愛国者
「政策だった」「しかたがなかった」
政府による長年の洗脳教育で
自分の考えを持つことができなくなってしまっただけなのです
しかし90年代に入り状況が変わります
アメリカなどの国が中国からの養子縁組を認めたのです
ナンフーさんは人身売買の罪で5~10年の刑で服役していた
親戚の一家を尋ねます
一家と(配達員なのど仕事をしていた)仲間は
道端に捨てられた子どもを拾い、国営の施設に預け収入を得ていました
最初はこのまま死んでしまうより、誰かに引き取られたほうが
赤ちゃんにとっては幸せなこと、そう思っていたのです
そして中国人の女の子3人を養子に迎えたアメリカ人の夫婦
他国より養子縁組の手続きが簡潔で、金額もはっきりしていて
受け入れやすかったと言います
まさかそれが捨て子や
(2人以上子どものいる家庭から)拉致された子どもだったとは知らずに
中国は養子縁組という人身売買で莫大な利益を得ていたのです
その数10万人以上
これはアメリカ人の夫婦にとっても、子どもたちにとってもショックなこと
そして今、中国でも少子老齢化が問題となり
当然、圧倒的に男性の人口が多いため(3000万人以上)結婚できず
ますます少子老齢化が進み「ひとりっ子制作」は廃止
あちこちに掲げられているプロパガンダのスローガンも
「子どもは ひとりより ふたり」に変わります
一党独裁国家や、独裁者を取材し、批判するジャーナリストはたくさんいますが
それを見た私たちは、どこか遠い国で起こっている暴動と
どこかで客観視してしまってる
だけどこの映画は違う
独裁国家がいかに間違ってるかを「ひとりっ子制作」を通じて
人権教育の重要さと、優生保護や監視社会の危険性を
ズシンと心に響かせてくれる
これは中国だけの問題ではないのです
もしかしたら日本だって
ちょっとしたきっかけで、同じ道を辿るかもしれないのだから
【解説】映画.COMより
中国で1979年から2015年まで行われていた「一人っ子政策」についてのドキュメンタリー。中国出身の2人の女性監督ナンフー・ワンとジアリン・チャンが手がけ、一人っ子政策がもたらす深刻な影響を暴き出した。2019年サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門でグランプリを受賞。Amazon Prime Videoで配信。