フェイシズ(1968)

原題は「Faces」(顔ばかり)

インディペンデント映画の鑑と呼ばれている

ジョン・カサベテスによる独立資本のみで作られた

シネマ・ヴェリテ・スタイル風の傑作

シネマ・ヴェリテ・スタイルとは、手持ちカメラや同時録音によって

(取材対象の人間に)”真実”を語らせる、ドキュメンタリーの手法のことで

公開当時から高く評価され、ヴェネツィア国際映画祭では男優賞受賞

カデミー賞では3部門にノミネート

2011年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録されたそうです

物語は熟年夫婦の突然の離婚宣言からはじま36時間で

実業家と娼婦、有閑マダム、プレイボーイという

満たされない人間たちの対立を生々しく描いていきます

 

そしてタイトルの通り、次々と顔のクローズアップが映し出され

しかも皺やたるみ、下品な笑い、崩れた化粧といった

あまり見たくないものばかり

(主演者は相当いやだったのでは 笑)

だからといって、決して醜さや老いを冷笑したり

人間性ジャッジメントしている訳でもありません

しかもラストには、軽薄そうに見えたナンパ男がいい人だったり

煙草を投げるのが印象的な階段のシーンだったり

絶望的なはずなのに、なぜか希望ある未来を感じさせます

会社社長のリチャードジョン・マーレイ)とマリア(リン・カーリン)は

結婚14年目になる倦怠期の熟年夫婦

酔って帰宅したリチャードは、タバコがないことにイライラし

マリアといさかいになると、突然離婚を申し出て

高級娼婦のジャニーンジーナ・ローランズ)に電話すると

明日着るものを取りにくるとだけ言い残して出ていきます

ジャニーンの部屋には、先であるジム(ヴァル・エイヴェリー) がいました

酔っぱらって気が大きくなっているリチャードは、失言を繰り返しては

つまらないジョークで無理やり彼らを笑わせようとします

男性のこういう客っていますよね(笑)

接客業の女性に対して徹底的な上から目線

なんでも言うことを聞いてあたりまえだと思ってる

 

やがてジムは帰り、リチャードとふたりきりになるジャニーン

ジャニーンがなぜ電話してきたのかと聞く

リチャードは彼女にキス、ベッドになだれ込みます

そしてこういうダメ男を好きになる女もいるいる(笑)

一方、妻のマリアは主婦友達3人を誘い飲みに行きます

(それぞれが夫との関係に辛さや寂しさを持っている)

陽気な青年チェット(シーモア・カッセル) が彼女らをダンスに誘うと

フローレンス(ドロシー・ガリヴァー)がノリノリで踊りだします

そのまま全員でマリアの家に行き

そこでも楽しさを求めて盛り上げるチェットに

無邪気なフローレンスは抱きつきますが

マリアはどうして若い娘でなく、私たちおばさんに声をかけたの?と

真面目に尋ねます

するとチェットは「悲しげだったから」

さらに(性の発散方法として)若い娘より面倒じゃないと

正直に答えてしまいます

彼女らはプライドを傷つけられ、それぞれの家に帰ってしまいました

残されたチェットとマリアはキスをし、熱い一夜を過ごしま

そして夜が明け、チェットが目を覚ますと

マリア睡眠薬を大量に飲み意識もうろうとしていました

 

チェットは即座にマリアをバスルームに連れていくと

指を突っ込みトイレで吐かせ、シャワーで目を覚まさせると

元気付けるため告白します

(チェットの職業は救命士かも知れない 笑)

やっとマリアが正気を戻した頃、リチャードが戻って来ます

慌てて靴と衣類を抱え、窓から屋根をつたい逃げ出すチェット

(もしかしたらレスキュー隊員かも知れない 笑)

リチャードはその姿を見ていました

 

自殺未遂でボロボロになったマリアに

(長年性生活を拒んでいたのに)息子のような年齢の男と関係を持ったのかと

リチャードは責め立てます

(自分も娘のような年齢の娼婦と関係をもったくせに)

マリアリチャードを平手打ちすると

ふたりは階段の上段と下段に離れて座りタバコを吸い始めます

 

マリアをまたいで二階に上がるリチャード

その後を追ってマリアが二階に上がると

すぐにまたリチャードが下りてきて階段の途中に座り込みます

次にマリアが下りてきて、夫をよけて階下の部屋へ入ると

リチャードは二階の部屋に入っていきました

後には静かな階段が残されただけ

(結局リチャードには出て行く気はないのか 笑)

たぶんお互いに相手から謝ってほしいと願ってる

それとも温かいコーヒーを用意してくれたらと

どちらが先に折れるかの駆け引き

だったら最初から、喧嘩も浮気もしなければいいのに(笑)

 

「ロボットにならず、人間で生きていくのは難しい」





【解説】映画.COMより

ジョン・カサベテス監督が、関係の破綻した中年夫婦の36時間を、登場人物の顔のクローズアップを多用した斬新な手法で描いた傑作ドラマ。
ある日、妻のマリアに離婚を切り出したリチャードは、高級娼婦ジェニーと一夜を共にする。一方、友人とディスコに出かけたマリアは、そこで出会った青年と関係を持つ。翌朝、マリアは衝動的に睡眠薬で自殺を図り……。
アカデミー賞3部門にノミネートされ、監督ジョン・カサベテスの名をハリウッドに知らしめた作品。

1968年製作/130分/アメリ
原題:Faces
配給:ザジフィルムズ
劇場公開日:2023年6月24日

その他の公開日:1993年2月(日本初公開)、2012年5月26日