ワン・バトル・アフター・アナザー(2025)

「Like Tom Fucking Cruise」(笑)

 

原題は「One Battle After Another」(次から次へと闘争)

原作はトーマス・ピンションが1990年に発表した小説「ヴァインランド」

インヒアレント・ヴァイス(2014) の原作もトーマス・ピンチョンなので

もしかしたらポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)の一部は

トーマス・ピンチョンから出来ているのかも知れません(笑)

PTAの中では最もエンタメ性が高く、コメディ色も強い

近年はより過激なセリフやエロ描写のある作品のほうが

高い評価を受けたり、観客からのウケもよくなってるせいか

お下品さと変態度もパワーアップ

「ファック」「プッシー」の連呼には

霹靂したとしか申し上げられませんが(笑)

 

ビッグ・リボウスキ」なガウン姿のレオの、パスワードを言えない下り

残念な「タクシードライバー」にしか見えないショーン・ペンには

スミマセン、笑ってしまいました(笑)

クライマックスは、カーチェイスとはちょっと違う

見ているだけで酔いそうになるくらいアップダウンの激しい道路での追跡

そんな場所で相手を撒くのに必要なのは車の性能でも運転技術でもない

土地勘の強い者だというなるほど

物語は大きく2部にわかれていて、前半は極左革命グループ

「フレンチ75」が移民収容所から移民を救出するシーンから始まります

革命家のひとり、パーフィディア・ビバリーヒルズ(テヤナ・テイラー)は

収容所の指揮官ロックジョー警部(ショーン・ペン)を拘束し

ロックジョーを屈辱するため「立てじゃない、勃て」と命令

にやけたロックジョーは怯むどころか本当に勃起させ

ビバリーヒルズと再会することを予言します

「フレンチ75」のメンバーであり、ビバリーヒルズの恋人

通称「ゲットー」ことパット・カルフーンレオナルド・ディカプリオ)は

爆破装置の専門家

ビバリーヒルズはゲットーの専門知識に、テロ現場での爆発の瞬間に萌え

ゲットーにセックスするよう求めます

彼女は危険な行為で性欲を感じる女性なんですね

 

つまり革命という大義を掲げて危険を冒しているものの

実際は自分の快感を満たしているだけ

命がけであればあるほどオーガズムに達するのです

そんなビバリーヒルズに同じ匂いを嗅ぎ取ったロックジョーは

ビバリーヒルズにつきまとうようになります

ロックジョーに誘われるままホテルに向かうビバリーヒルズ女王様

ロックジョーを下僕として従わせたつもりでした

 

やがてビバリーヒルズは妊娠、女の子を出産します

父性に目覚めたゲットーは娘を可愛がり、家庭第一の良き夫になろうとします

だけどビバリーヒルズは出産したらもう女として見てもらえないのか

娘に夫を盗られたのかと(革命も爆弾魔も何処への)ゲットーに不満

自分も母親らしくしようとしても母乳さえでない

ゲットーの反対をよそに再び革命活動をはじめます

そしてそこでヘマをしてします

強盗に入った銀行で短気を起こし警備員を射殺して捕まってしまうのです

30年以上の実刑判決は間違いなし

取り引きに現れたのはロックジョーでした

それは自らの愛人となり「フレンチ75」のメンバーと拠点さえ教えれば

証人保護プログラムを適応するというものでした

 

「フレンチ75」の一斉検挙がはじまり

ゲットーと娘のシャーリーンは名前を変え

メキシコのバクタン・クロスに身を隠すことにします

ビバリーヒルズの密告のおかげで、ロックジョーは警視に昇進

彼女とお祝いしようとしますが

ビバリーヒルズは「私はあなたのプッシーではない」と書き置きを残し

それきり姿を現すことはありませんでした

後半は16年後のバクタン・クロスで

シャーリーンことウィラがカルロス先生(ベニチオ・デル・トロ)の空手道場で

稽古するシーンから始まります

17歳になったウィラはリーダーシップ型で学力は優秀

充実した高校生活を送っていましたが

 

父親のゲットーことボブは極度の被害妄想のため

アルコールと麻薬に依存し気もおぼろ

一言でいえば、ただのポンコツ

それでも父子とも平穏な毎日を過ごしていました

一方のロックジョーは今だ移民収容所に勤め

強硬な反移民政策を続けていました

その理由は白人至上主義のエリート集団の秘密結社

「クリスマスの冒険者」 に入会するためでした

しかし「クリスマスの冒険者」には厳しい審査があり

それは純血なアングロサクソンプロテスタントであることはもちろん

多人種と一度も性交渉がないことが条件でした

もちろんロックジョーの答えは「イエス

審査を受け入れることを了解

ビバリーヒルズとの関係を抹消するため動き出します

賞金稼ぎのアヴァンティQ(エリック・シュヴァイク)を雇い

「フレンチ75」のブレイン(頭脳)で、ゲットーとシャーリーンを逃がした

ハワード(ポール・グリムスタッド)を捕えると

(彼の妹を拷問すると脅し)ふたりの居所を吐かせると

麻薬の取締だと装い、私兵(国や政府に属さない民間の戦闘員)を雇い

シャーリーンことウィラを拉致するよう命令します

ロックジョーの動きを知った「フレンチ75のデアンドラ(レジーナ・ホール)

高校のダンスパーティーに私兵が襲撃に向う前にウィラを連れ出し

彼女を革命尼僧の修道院に匿うことにします

そこで父親から死んだと聞かされていた母親が

裏切者だったという真実を教えられるウィラ

ボブにはウィラを確保したという電話

だけどアルコールと薬物でラリっているボブは意味がわからない

フレンチ75のホットラインを思い出したまではいいけど

パスワードも忘れて答えられない

そこに私兵が襲ってくる

隠しトンネルを使って辛うじて脱出したボブは

ウィラの空手道場のセンセイ助けと武器を求めに行きます

センセイは動じることもなく自宅にボブを連れて行き

センセイの家族や同居人もいたって冷静

センセイはかっては「フレンチ75」の構成員でもあり

長年にわたっての移民コミュニティの支援者であり指導者

ボブとは格も経験も貫禄も違ってあたりまえ

それでもかってのボブの経歴を讃え、支援することを誇りと言い切る大人の魅力

この作品がトイレに流すだけのクソにならなかったのは

デル・トロ・センセイがいたおかげといって過言ではありません

 

でもセンセイの助けも木っ端微塵

運動不足で肥満化したボブは逃げようにも屋根から転落

捕まってしまいます

修道院を襲撃したロックジョーは

ウィラを捕まえ唾液からDNAを採取します

ウィラと自分のDNAが一致しなければ問題なし

一致したら「クリスマスの冒険者」入会への希望はなくなる

しかしDNAの検査機が出したのは

ロックジョーが実父であるという結果でした

アヴァンティQにウィラの処分を命じるロックジョー

センセイはボブを脱獄させ、ウィラにいる修道院まで運ぼうとしますが

警察の追跡をかわすため車窓からボブを投げ出し

ボブは車を盗み修道院に到着

ロックジョーを見つけセンセイのライフルで撃つも当たらない

 

「クリスマスの冒険者」は過去にロックジョーが

ビバリーヒルズと関係があった証拠の資料を発見

メンバーのひとりティム・スミス(ジョン・フーゲナッカー)に

ロックジョーと娘の抹殺を命じます

あんたらNSAアメリカ国家安全保障局)の

偵察衛星(スパイ衛星) を使う許可でも持ってるの?というくらい(笑)

ご都合よくロックジョーはウィラを見つけ

センセイはボブを見つけ

スミスはロックジョーを見つけて

射殺(ところが死んでいなかった)するという(笑)

なぜかウィラを助けようとしたアヴァンティ

ロックジョーの部下に撃たれ死亡

アヴァンティの車で逃げたウィラを今度はスミスが追いかける

ウィラは激しい傾斜の道路の先に車を停め、スミスの車がクラッシュ

スミスを射殺し、後からやってきたボブと抱き合うのでした

 

重傷から回復したロックジョーは

念願の「クリスマスの冒険者」の会員として迎え入れられますが

案内された部屋はガス室でした

手際よく焼却されてしまうロックジョー

ウィラともとの生活を取り戻したボブは

ウィラに母親のビバリーヒルズから受け取っていた手紙を渡します

そこには母親らしい愛の言葉が散りばめられていましたが

たぶんビバリーヒルズはウィラがロックジョーの子どもであることを

わかっていたのでしょうね

だからウィラを実の娘と信じて可愛がるボブの姿に耐えられなくなった

仲間を裏切りロックジョーとの取り引きに応じてしまったのも

彼が娘の父親だったから

そうしてビバリーヒルズとロックジョーという強烈な変態遺伝子を持ち

(かっては)爆弾のプロだったボブに育てられ

真に移民のため戦うセンセイを師範に鍛えられたウィラは

ボブに見送られヘイトクライムの抗議運動へと向かうのでした

 

両親のように、権力への抵抗(あるいは憧れ)が

自らの快感のためだけにならないよう願うばかりです

 

 

【解説】映画.COMより

ベルリン、カンヌ、ベネチアの3大映画祭で受賞歴を誇るポール・トーマス・アンダーソンが、レオナルド・ディカプリオを主演に迎えて手がけた監督作。トマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」からインスピレーションを得た物語で、冴えない元革命家の男が、何者かにひとり娘を狙われたことから次々と現れる刺客たちとの戦いを強いられ、逃げる者と追う者が入り乱れる追走劇を展開する。
かつては世を騒がせた革命家だったが、いまは平凡で冴えない日々を過ごすボブ。そんな彼の大切なひとり娘ウィラが、とある理由から命を狙われることとなってしまう。娘を守るため、次から次へと現れる刺客たちとの戦いに身を投じるボブだが、無慈悲な軍人のロックジョーが異常な執着心でウィラを狙い、父娘を追い詰めていく。
逃げ続ける中で革命家時代の闘争心を次第によみがえらせていくボブを、レオナルド・ディカプリオが演じ、ボブの宿敵であり、娘ウィラに執拗な執着をみせる軍人ロックジョーをショーン・ペンが怪演。ボブのピンチに現れる空手道場の謎のセンセイ(先生)をベニチオ・デル・トロ、ボブの革命家仲間をレジーナ・ホール、妻でカリスマ革命家をテヤナ・テイラーが演じ、新進俳優チェイス・インフィニティが娘ウィラ役を務める。

2025年製作/162分/PG12/アメリ
原題または英題:One Battle After Another
配給:ワーナー・ブラザース映画