彼方に(2023)

原題は「The After」

最愛の妻と幼い娘が、連続通り魔事件の犯人と遭遇したことによって

亡くしてしまった男の物語

いわゆる「感動ポルノ」ものになるのでしょうが

(英語の「ポルノ(porn)」には、視聴者の感情を誘引させるため

”意図的に作られたコンテンツ”という意味もあるそう)

 

私はむしろ、このような深い傷を負った人間に対して

知らないこととはいえ、不用意な言葉やジョークが

相手の傷口をさらにえぐることもあるかも知れないと

気付かされました

ロンドンにある会社の重役ダヨ(デヴィッド・オイェロウォ)は娘のローラと

妻のアマンダ(ジェシカ・プラマー)の待ち合わせ場所に向かいます

今日こそは仕事を休んでローラの発表会に行こうと決心したとき

 

(友人で共同経営者?から)取引先とトラブルがあったという電話が入り

妻子と離れて脇に寄ったところ

突然ナイフを持った男が現れ、娘を刺し高台から突き落とします

ダヨと通行人たちが犯人を取り押さえたものの

パニックになった妻が娘を追って高台から飛び降りてしまいます

それから数年後、ダヨはライドシェアの運転手をしていました

(日本でいう白タクで、イギリスでは合法)

ダヨに入っている留守電の様子から、かっての共同経営者はおろか

ソーシャルワーカーとも連絡を取っていないことがわかります

その日はローラの誕生日

スマホの動画を見ながら「ハッピーバースデー」を歌う

仕事が忙しいからと、なんでもっと一緒にいてやらなかったんだろう

後悔の念だけが、波のように押し寄せてくる

そうして涙を拭くと、ストイックに

さまざまな乗客を乗せていきます

 

空港で予約していた家族を拾うと、一家の娘がローラに似ていることに驚きます

もしローラが生きていたら、これくらい大きくなっていたのだろうか

しかし乗車中夫婦はずっとくだらない口論をしていて

ダヨはそのことを態度に表すことはありませんでしたが

ローラににた娘を可哀そうに思い同情します

目的地(家)に到着しても、夫婦はずっと喧嘩したまま

ダヨは荷物を運ぶために車から降りると、娘に降りないのかと尋ねます

車から降りた娘は、突然ダヨの背中に抱きつきます

思わず娘の手を握り返すダヨ

驚いた両親が駆け付け、ダヨから娘を引き離すと

ダヨは縁石に倒れこみ泣きじゃくってしまいます

両親は彼を訴えることもなく、娘を連れてその場を立ち去るのでした

私はローラが娘の身体を借りて、父親に会いに来たのだと思いました

今日が誕生日なのだと

 

そうしてしばらく泣いた後、ダヨは涙を拭き

何事もなかったように車に乗り込み発進させるのでした

世の中には想像もできないような深い哀しみが

人それぞれにあることを忘れてはいけない

 

そういうことなのだと思います



【解説】Netflix公式サイトより

残虐な犯罪により失意のどん底にたたき落とされた男。ライドシェアサービスのドライバーとして虚しい日々をやり過ごすなか、ひとりの乗客の存在が、彼の心を揺さぶり、悲しみと向き合わせる。

出演:デヴィッド・オイェロウォジェシカ・プラマー、アメリー・ドクボ

2023|年齢制限:13+|18分|ヒューマンドラマ

第96回アカデミー短編実写映画賞ノミネート。