ボーはおそれている(2023)

「みんな、どん底気分になればいいな」

アリ・アスターSNSによる発信

 

原題は「Beau Is Afraid

A24史上最高の製作費(3500万ドル=約53億円)をかけた超大作

批評家からは好意的な評価を受けたものの、興行収入1,100 万ドルという大赤字

それでもすでに同じくホアキン・フェニックス主演による

次回作が決まっているというのだからA24の太っ腹なことよ(笑)

「難解だ」という評判を聞いていたので、時前に

「ミッドサマー」と「ヘレディタリー 継承」を鑑賞

「ヘレディタリー 継承」とは多くの共通点が感じられました

アリ・アスター自身、母親にトラウマがあるのかと思ったよ)

白くぼやけた出産シーンから始まり

どうやら医師か看護師が赤ちゃんを落としたようで

母親が怒り叫んでいます

その赤ちゃんが成長し中年になったのが

ボウ・ワッサーマン(ホアキン・フェニックス

(産まれたときの事故が原因か)極度の不安障害(発達障害)で

セラピストに(ティーブン・マッキンリー・ヘンダーソンに通っています

彼は幼いころ、オーガズムによる心臓発作で腹上死(笑)したと聞かされている

父親に本当は何があったかを知りたくて、彼の分身(あるいは一卵性双生児)が

母親のモナ(パティ・ルポーン/若いモナ:ゾーイ・リスター=ジョーンズ)によって

屋根裏部屋に閉じ込められてしまう夢に苦しんでいました

さらに母親と一緒にクルーズ旅行に出かけたとき知り合った

エレインという女の子のことを忘れられずにいました

彼女はボウに「待っていて」ほしいとメモを書いた写真を渡し

去っていきます

ボウの住むアパートの前には、危険なホームレスがたくさんいて

ボウが通るたび襲ってきます

彼らはオピオイド麻薬性鎮痛薬)中毒による精神異常者で

のちにボウの母親が、オピオイドを製造している

大規模な複合企業CEOであることの伏線になっています(たぶん)

父親の命日で実家へ帰る日

ボウの部屋に「音を静かにしてくれ」というメモが何度も舞い込みます

おかげで眠れず寝坊、大急ぎで出発しようとしたとき

デンタルフロスを忘れていたことに気付き洗面台に戻ると

スーツケースと鍵を何者かに盗まれてしまいます

ボーは母親に電話して状況を説明しますが、母親は彼の話を信じてくれません

ボウは落ち着くため、セラピストに渡された薬を飲みますが水がない

蛇口を捻っても水が出ない

ネットで調べると水なしで飲んだ場合、死に至ることもあるらしい

ドアに本を挟み、向かいのドラッグストアに走り売り物の水を飲むと

今度はお金が足りない(笑)

その隙に、どんどんホームレスたちがボウの部屋に入っていく

ボウが戻ろうとすると、挟んでいた本が抜かれ締め出されてしまいます

非常階段でホームレスの様子を伺っていると(律儀に皿洗いしている 笑)

急に騒ぎ出し逃げ出してしまいます

窓を破り部屋に入ると全身刺青男の死体

ボウが再び母親に電話をかけると、UPS配達員を名乗る男が出て

落下したシャンデリアによって首が切断された死体を発見し

ボウが母親の特徴を言うと、たぶんその女性だといいます

蛇口が捻りっぱなしの風呂から水があふれ、ボウは風呂に入ります

すると天井にしがみついている(アパートを工事している業者の)男

殺人アリに刺された男が落下し(全身刺青男もアリによって死んだ)

ボウは男と格闘し、何とか風呂を出ると全裸でアパートを飛び出します

路上で警察官に助けを求めるものの、逆に銃を向けられてしまう

警官から逃げたボウはフードトラックにはねられ

さらに乗用車にはねられ、狂人の全裸男に刺されて重傷

目が覚めるとやたらファンシーな部屋で(笑)

夫ロジャー(ネイサン・レーン)は外科医で

ボウを車ではねた親切な夫人グレース(エイミー・ライアン)に世話をやかれます

夫婦にはひとり娘のトニ(カイリー・ロジャース)がいて

亡き息子の戦友だったジーブス(ドゥニ・メノシェ)を

庭のトレーラーに住まわせています(トニとは仲がいいようだ)

ボウが再び家に電話をかけると、今度は弁護士を名乗る男が出て

遺体をできるだけ早く安置するユダヤ人の習慣があるにもかかわらず

母親の遺言で息子が帰るまで遺体を埋葬できないことを伝えられます

ボウが母親を埋葬するために家に帰るというと

ロジャーは傷口が開いたため(でも縫わない)明日送っていくといいます

しかし翌日緊急の手術が入り、また明日送っていくといいます

不安になるボウにトニが親友のリズと車で送っていくと申し出ます

ドライブ中ボウにマリファナを吸えと勧めるトニ

吸わないと母親のところに送っていかないと怒り

やむを得ずマリファナを吸ったボウは気を失い

目が覚めると元の屋敷に戻っていました

母親の死んだニュースを見てトニのノートパソコンにゲロを吐き

あきれたトニは死んだ兄の部屋の壁に落書くと

ペンキの缶の中身を半分づつ飲もうとボウに提案します

(ボウは兄の代わりに選ばれた人間で、自分は選ばれなかったと思ってる)

ボウが拒否すると、トニは大量のペンキを飲みそのまま死んでしまいます

 

「なぜそんなことをするの」

ボウは森に逃げ、トニを殺したと勘違いした?グレースは

全身凶器のジーブスにボウを追わせます

森で迷子になったボウは、薪を集めている妊婦の女性を見つけます

彼女は「森の孤児たち」という劇団のコミュニティの一員で

ボウをリハーサルに招待してくれます

洪水で離れ離れになった妻と3人の息子たちを探し続ける男の物語で

感動したボウはすっかり自分が主人公のつもりになります

(ここの数十分のシーンが一番の睡魔との戦い 笑)

そこにボウを知っている、父親はまだ生きていると告げる男が現れ

ボウは彼こそが父親だと思いましたが、やって来たジーブスの攻撃により爆死

さらにジーブスは劇団員たちを惨殺しながら、ボウを森の奥へ追います

が、劇団員と揉み合って転んだ拍子に自分の肩をマシンガンで撃ちぬいてしまい

(ロジャーが付けた)ボウの足首モニターを作動させると火を吹き

ボウはそのまま倒れてしまいます

朝になり目が覚めると森を抜け、ヒッチハイクで家にたどり着いたボウ

すでに葬儀は終わっていて、棺桶には首のない遺体

部屋に貼られていた写真から、ボウと関係を持った全ての人たちが

母親の会社の社員(雇われていた)だったことを知り

疲れ果てたボウはソファーに横になります

そこに葬儀に遅れてやってきた、元従業員だという女性が花束を置いていきます

彼女がエレインだと気づいたボウは、約束通りずっと待っていたことを伝えます

エレインはすぐに納得し(財産目当てか)ボウを寝室に誘います

セックスをすると死ぬのではないかとためらうボウでしたが

エレインに童貞だと打ち明けられない(笑)

エレインのリードで絶頂に達すると、生き延びていることを知り安心しますが

エレインのほうが死んでしまい、すでに体は硬直してしまいました

そこに母親が現れ、エレインの死体を召使に片づけさせます

母親は葬儀が終わって数時間で女を連れ込んだことを責めますが

ボウは遺体が別人(ボウの子守だった女性)であることに気付いていました

 

「なぜそんなことをするの」

すると母親は、セラピー中の音声録音を聞かせセラピストを呼ぶと

ボウをずっと監視していたことを打ち明けます

(まさかの「どっきりカメラ」ってやつだわ)

ボウが森で父親と会った、真実を知りたいと言うと

母親は彼を屋根裏部屋に案内し閉じ込めます(夢は夢ではなかった)

そこでボウは双子の兄弟と、巨大ペニス怪獣の父親を見ます

ワンフェスの18禁コーナーかと思ったわ 笑)

次の瞬間ジーブスが屋根裏に侵入

巨大ペニスの触角に刺されて死んでしまいます

(父ちゃん、こんな姿でも息子を助けたかったのかな 笑)

母親に許しを乞うボウに、彼女はボウをいかして憎んだか

それでも大事に育てたことを吐き出し

(まだ発達障害が理解されない時代で、思い通りいかない子育てだったのだろう)

悪ガキに母親の下着を盗ませたとか

スーパーで迷子になった時、母親が必死に探しているのを知りながら隠れていたとか

苦しめられてきたことを責めます

悪ガキを連れてきたのは脅されたから

スーパーで隠れたのは怒られるのが怖かったから

ボウはいくら理由を説明しても、話を聞いてくれない彼女の首を絞め

(これを見ると、親殺しした子どもの気持ちも理解できる)

外に飛び出すと湖に行きモーターボートに乗ります

洞窟に入ると突然ボートが止まり

そこは大勢の人が集まるアリーナ(コロシアム)で

(「トゥルーマン・ショー」かよ 笑)

ボウは母親を軽んじた(会いに行かなかった)ことで、裁判にかけられます

ボウの人間性を判断するうえで

検察官は彼がホームレスたちにいかに冷たかったこと

(全身刺青男から逃げていたこと)

母親の葬儀に出るのを、ロジャーに「明日」と言われ

その通りにしたことが挙げられます

しかもボウの弁護士は母親の部下に投げ殺されてしまい

ボウを弁護する者は誰もおらず、有罪が確定します

ボウは母親に必死で言い訳し、死刑から逃れようとしますが

足をボートに打ち付けられ動けません

 

「なぜそんなことをするの」

やがてボートのモーターが爆発しボートは転覆

ボウが浮かび上がってくることはなく

母親と検察官の姿が消えると

アリーナの観客たちも消えていくのでした

アリ監督曰く、これは「ユダヤ人の”ロード・オブ・ザ・リング”」だそうです

長い歴史の中、国を奪われ住む場所さえ追われてきたユダヤ人の物語

旧約聖書ヨブ記)ヨブは神を信じ、家族と仕事を大切にする清い人でした

ある日、主の前で神々の会議がありその中にサタンもいました

サタンはヨブに受難を下せば神を信じなくなるでしょう、と告げ
主はヨブを試すため受難を与え続けることにします

その日からヨブの一家は過酷一途の人生を廻ることになります

家畜が死に、ついに家族全員が殺されてもヨブは

わたしは裸で母の胎を出ましたので、裸でかしこに帰ります

主が与え、主が取られたのです

主のみ名は、ほむべきかな(神を賛美することば)

 

だと、生涯罪を犯すことなく、主の言葉に逆らうこともなかったそうです

アリ監督は、ボウを現代のヨブに例えたのですね

(だからといってパレスチナへの占領が許されるわけではない)

さらに、ボウ・ワッサーマンの、ボウ(Beau)のeauはフランス語で

姓の「Wasser」はドイツ語で、それぞれ水を意味するそうです

母親の名前モナ(Mona)は「マドンナ」(ma donna)の短縮形(mona)で

聖母マリアの意味もあり

モルヒネアスピリン等の薬物の名称としても使われている)

そう思うとラストは決して悲しいものではなく

どんな受難も神から仕組まれたものだったと悟ったボウは

自ら水(母体)に還っていったということなのでしょう(子宮回帰)

死んで母親(主)の愛に抱かれる

ただ主人公を襲う数々の受難というのが、毒母ばかりでなく

刺青男に全裸男、「ミザリー」な夫婦と全身武装

極めつけはペニス怪獣という(笑)

さすがに3時間は長かった

(ディレクターズ・カットでやってくれ 笑)

 

ちなみにユダヤ人はこれを見て面白いと思うのでしょうか

 

 

【解説】映画.COMより

「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」の鬼才アリ・アスター監督と「ジョーカー」「ナポレオン」の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組み、怪死した母のもとへ帰省しようとした男が奇想天外な旅に巻き込まれていく姿を描いたスリラー。
日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。
共演は「プロデューサーズ」のネイサン・レイン、「ブリッジ・オブ・スパイ」のエイミー・ライアン、「コロンバス」のパーカー・ポージー、「ドライビング・MISS・デイジー」のパティ・ルポーン

2023年製作/179分/R15+/アメリ
原題:Beau Is Afraid
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年2月16日