伯爵(2023)

原題は「El Conde」(伯爵)

1973年から1990年までチリの大統領の座に就き

2006年に91歳で没したアウグスト・ピノチェトの死は自らの偽装で

250年前から生きている不死身の吸血鬼だった、という

しかも "鉄の女" と呼ばれた元イギリス首相マーガレット・サッチャー

同じ吸血鬼でピノチェトの母親だったというオチ

 

いやはや、なんともとんでもない発想ですが

そういえば日本でも、妖怪と妖怪の孫が政権を握り好き放題していたなと

ピノチェトサッチャーが吸血鬼でも不思議ではない話(笑)

18世紀フランス、王党派の軍人クロード・ピノシュは

吸血鬼であることがばれ、殺されそうになったところを逃げ

革命派に混じりとマリー・アントワネットの処刑を目撃します

その後国外に逃亡、各国の革命の鎮圧に参加し

1935 年にはアウグスト・ピノチェトという名前でチリ軍に入隊

1973年に将軍に上り詰めたアウグストは

アメリカの支援により)クーデターを起こし

サルバドール・アジェンデ社会主義政権を打倒

(世間にはアジェンデの死を自殺と公表)

独裁者となった彼は自分のことを「伯爵」と呼ぶように要求します

退任後、不正に得た富や暗殺、失踪や人権侵害などの捜査が始まると

アウグストは自分の脈を止めて死を偽装し、葬儀が終わると妻ルシアと

長年執事を務めているフョードル(アウグストに吸血鬼にされた白系ロシア人

とともに大陸南端極寒の孤島に隠遁(いんとん)します

庭にはギロチンで家畜の首を落とし、心臓をミキサーにかけて飲む

(21世紀の流行りはスムージー風? 笑)

しかしそろそろ生きることに疲れ果て、死にたいと願うようになります

そこで財産のすべてを、死後妻と5人の子どもたちに譲ると言い出しますが

財産がどこに、どれくらいあるかわからない

覚えていないというのです

そこで娘のひとりが、資産の調査のため会計士の女性カルメンを雇います

彼女は教会お墨付きの真面目な修道女で欲に目がくらむこともない

しかしカルメンの本当の正体は、教会が派遣した

悪魔退治のためのエクソシストでした

若くて美しいカルメンは流暢なフランス語でアウグストを魅了

死ぬことを望んでいたアウグストに、再び生きる意欲と性欲が湧き(笑)

妻ルシアがフョードルと関係を持っていることも知っていましたが

カルメンが現れたことで、ババアはくれてやる

(そういうセリフはありません 笑)と黙認

若返えるためサンディアゴまで飛び、生きた心臓を求め彷徨います

カルメン調査した書類と債権を自分の部屋に隠し

悪魔祓いするため自分の正体をアウグストに明かします

しかしアウグストに聖水の攻撃は全く効かず

カルメンは彼と性行為をしたうえ、首を噛まれ吸血鬼にされてしまいます

カルメンはアウグストへの愛を(本当は財産目当て)主張しますが

やっぱり250歳も年の差があると趣味も話も嚙み合わない

男が大金をはたいたお宝(女から見たらガラクタ)あるある(笑)

ルシアもフョードルに頼み、念願の(夫は噛んでくれなかった)吸血鬼になります

遺産が手に入るはずだった5人の子どもたちは

父親が死ぬどころか吸血鬼が増えてしまい

「俺たちで吸血鬼4人を殺れるか?」と相談します

兄妹たちには、もっと活躍して欲しかったんですけどね(笑)

そこにアウグストが虜になったカルメンに嫉妬した

マーガレット・サッチャーがイギリスから飛んで来きます

(上流社会の女性にはハンドバッグとティーカップが似合う法則)

彼女はかって吸血鬼にレイプされ、首を噛まれたうえ妊娠

赤ん坊を産んだもの、孤児院に預けたといいます

そして首脳会談で会ってすぐにわかった、アウグストこそわが息子だと

マーガレットは、カルメンが吸血鬼になったのは

彼女がローマ・カトリック教会から使命を受け

ピノチェト一族の(腐敗した)情報を収集するために

アウグストに惹かれているふりをしていただけと

アウグストにカルメンを処刑するよう命じるのです

カルメンフョードルによって捕らえられ、ギロチンにかけられます

さらにフョードルは彼女の書類を見つけ燃やしてしまうと

ルシアと5人のたちとともに、遺産を手に入れるために

アウグストとマーガレットを殺す計画を立てます

しかし彼らがどんな陰謀を企てたとしても

サッチャーピノチェトに適うはずがない(笑)

アウグストはルシアの心臓に杭を打ち込み、フョードルの首を(のこ)で切ると

マーガレットとともに未来へ飛び立つのでした

残された兄妹たちは、屋敷から出来る限りの財産を持ち去り

代わりに音信不通になったカルメンを探すため

修道女たちが孤島の空になった屋敷を目指すのでした

怖いのは生き血を吸い永らえるヴァンパイアだけじゃない

その権力を利用しようとする政治家や軍人、富に群がる家族や仲間

神の教え、お言葉だと人を集め説教(集金)する詐欺師

その数のほうが無限なのです

チリの政治家一家に産まれたパブロ・ララインによる

怖いもの知らずのホラー・コメディ

モノクロの映像美、宗教、欲望、死というテーマを逆手に

こんな嫌味な映画を作った監督、いままでいなかったという点で傑作

 

そして日本でも、妖怪の復活を待っている人たちが

多くいるのだろうなという恐怖

ゴキブリやネズミはどこに餌があるのかを探すのが得意だから

 

 

【解説】映画.COMより

スペンサー ダイアナの決意」などで知られるチリの名匠パブロ・ララインによるダークなホラーコメディ。チリ近代史を下敷きにした異世界を舞台に、独裁者ピノチェトを吸血鬼として描き出す。
大陸南端にある廃墟のような屋敷でひっそりと暮らす吸血鬼アウグスト・ピノチェト。生き血を飲み続けて250年も生きながらえてきた彼だったが、生きることに疲れ、永遠の命を手放すことを決意する。しかし家族はそんな彼に、最後にもうひと仕事してからでないと死なせないと言い放つ。やがてピノチェトはある人物との思いがけない関係を通し、反革命的な情熱を持って人生を生き続けることに新たな希望を見いだしていく。
主人公ピノチェト役に「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」のハイメ・バデル。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞し、第96回アカデミー賞では撮影賞にノミネートされた。Netflixで2023年9月15日から配信。

2023年製作/111分/チリ
原題:El Conde
配信:Netflix
配信開始日:2023年9月15日