彼女とTGV(2016)

「人生はいつも目の前にある」

 

原題は「La femme et le TGV」(女性とTGV

TGV「(le)Train à Grande Vitesse」とは

フランス、イギリス、ベルギー、オランダ、ドイツ、スイス、イタリアを結ぶ

フランス国鉄SNCF)の新幹線のこと

1989年生まれのスイス人監督ティモ・フォン・グンテンが

70歳になったジェーン・バーキンを迎え、フランス語で撮影したスイス映画

わずか30分のショートムービーにかかわらず

2時間の映画を見たような余韻が残ります

(人間の記憶なんてそんなもの 笑)

誰でも子どもの頃、飛行機や走り去る列車に

手を振った経験があると思いますが

(今でもTDLUSJに行けばやるけど 笑)

線路脇の小さな家に住むエリス(ジェーン・バーキン)は

1日2回、定刻びったりに通過するTGVにスイス国旗を振るのが日課

自転車で通勤している自営のパン屋にも

(今ではパン作りもせずお菓子を売っているだけ)

TGVを見送ってから家を出て

夕方TGVが通るまでに帰るという徹底ぶり(笑)

ある日無謀運転する若者ジャックが、店の前に無断駐車

パン屋の向かい側にはダンススタジオがあり

ダンサーのガールフレンドに会うためでした

エリスが来客用の駐車場だと激怒すると

(といっても客が来ることはない)

ジャックは次に来たときにお菓子を買うと詫びます

エリスはそんな言い逃れを信じませんでした

エリスは別居していた夫に先立たれ

ひとり息子は自立して家を出て行き

自分の好きなように生活している頑固ババアあるある

(ペットのセキセイインコが可愛い)

そんなエリスが庭の芝刈りをしていると手紙を発見

そこには毎日TGVに笑顔で旗を振るエリスへの感謝の言葉が綴られていました

差出人はTGV の運転士をしているというブルーノ

次の日には、チーズの贈り物とともに手紙が入っていました

感動したエリスは鉄道会社に電話し、ブルーノの連絡先を聞きますが

個人情報は教えられないと断られます

そこでエリスは古いタイプライターを持ち出し

鉄道会社宛に、ブルーノへのお礼の手紙とチョコレートお菓子を贈ります

そうしてふたりの文通が始まるのです

高速車両から投げた手紙(窓は開けれるの?)が

狙った場所に届くなんてありえないと思うのですが

これ実話なんですね

毎日のTGVへの挨拶を待ってくれていた人がいる

エリスは会ったこともない彼に恋し

気持ちは若返り(学習意欲まで沸きパソコンを購入 笑)

手紙を通じてお互いを語り合うようになります

エリスの誕生日、カフェで息子のピエールと待ち合わせすると

(幼いころは一緒に旗を振っていた)

彼が持ってきた誕生祝いは、老人ホームに入居するためのカタログ

息子が仕事の電話に出ている間に、怒ったエリスは帰ってしまいます

TGVが通過する時間に間に合わせるため)

しかし時間を過ぎてもTGVは来ません

こんなこと、今までいちどもなかったのに

手紙が落ちていないか線路を探すけれど何も見つけられない

追いかけてきたピエールは落ち込んだ母親を抱きしめます

(でも老人ホームのパンフレットはちゃっかり渡す)

エリスが鉄道会社に確認の電話すると

TGVのルートが変更されたことを教えられます

ショックで疲れ切ったエリスは、ドアをノックする音にも気付かず

椅子に座ったまま眠りについてしまいます

翌朝、エリスはドアの下にブルーノからの手紙を見つけます

そこにはエリスが不在で残念だったこと

TGV通り過ぎることがもう出来なくなった寂し

その日のチューリッヒ発の電車で、移動になると綴られていました

 

エリはナイトガウンまま(笑)自転車に乗り駅に向かいます

しかしチューリッヒは遠い

偶然車で通りかかったジャックに駅まで乗せてもらうことにします

ジャックが上着を貸そうとするのも無視してホームまで駆ける

しかし列車のドアまり、落ち込むエリス

そこに彼女の名前を呼ぶ声

電車の窓には優しそうに笑顔を浮かべる男性と

彼の妻と娘だと思われる女性が座っていました

 

列車は出発し、呆然と立ちすくむエリス

そうよね、妻子がいたって不思議じゃない

おかげでなにか吹っ切れた

でも私は、ブルーノがエリスに贈った手紙や贈り物は

決して善意だけではでなかったと思います

30年以上笑顔で手を振ってくれた彼女に

彼も毎日会うことを楽しみにしていたのだから

それを「ときめき」といわず、なんと呼ぶのでしょう

 

エリスはジャックを雇い、パン屋を新装開店することにします

オープンの日、店の前には大勢の客が行列を作っていました

エピローグ

実際の女性とTGV機関士の微笑ましい映像が映し出されます

ふたりはその後も友好を深めていたのですね

 

世界中からファッション・アイコンとして愛されてきた

ジェーン・バーキンが選んだ最後の出演作

かっての面影はほとんど残っていなかったけど

(老いを象徴するような「手」のシーンがたくさんある)

最高の笑顔はいくつ年齢を重ねても魅力的

人を癒す力があることがわかります

 

 

【解説】映画.COMより

実話をもとに孤独な女性と鉄道運転手との間に起こる物語を、ジェーン・バーキン主演で描いたスイス製短編作品。第89回アカデミー賞の短編実写映画賞にノミネート。日本では2016年・第11回札幌国際短編映画祭で上映されている。

2016年製作/30分/スイス
原題:La femme et le TGV