雪山の絆(2022)

「奇跡ってなに?」

 

原題は「La sociedad de la nieve」(雪山の社会)

1972年、ウルグアイからチリへ向かっていた

ウルグアイ空軍機571便がアンデス山脈に墜落

乗客・乗員45名のうち最初の生存者は29名

 

草1本も生えていない冬山の想像を絶する過酷な環境のなか

救助活動は打ち切られ、生き延びたのは16人

彼らが72日間どうやって生き延び

どうやってチリへ救助要請に向かったのか

「生きてこそ」(1993)は見ているので、内容的は知っていましたが

こちらのほうがリアリティ半端ない

監督のフアン・アントニオ・バヨナは可能な限り歴史的正確さと

実話に近づけるべきだと擁護し

 

脚本に取り組む前に、生存者とその家族

亡くなった方々の家族に参加してもらい

50時間以上のインタビューを録音

乗客全員の実名が使われたのもこれが初めてだそうです

撮影も実際に事故が起きた場所で行われ

飛行機事故の瞬間の臨場感や、雪崩により一瞬で生き埋めになる恐怖

飢えと極寒との戦い、家族や友人を失った悲しみがわかります

おかげで私も監督同様史実と付き合わせてしまい

まるでパンフレットのようなレビューになってしまった始末(笑)

 

ただ、20以上の映画賞に受賞やノミネートされている作品とはいえ

日本では能登半島地震羽田空港の衝突事故という厳しい年明けとなり

人によっては倫理的に受け入れられないシ-ンもありますので

繊細な方は見るのを控えたほうがいいかも知れません

物語は24歳の法学生ヌマ・トゥルカッティの視線で語られていきます

10月12日

ヌマはチリのサンティアゴの試合に向かう

ステラ・マリス学園 (Stella Maris College) ラグビーチーム

「オールド・クリスティアンス」の選手で親友のパンチョの招待で

選手団や彼らの家族と一緒にモンテビデオカラスコ国際空港を出発します

他の乗客とはほとんど面識がありませんでしたが

すぐに打ち解け皆から好かれるようになります

 

10月13日

飛行機は悪天候のためアンデス山脈を越えることが出来ず

南下し山脈の切れ目を抜けてから北上し、サンティアゴへ向かうコースをとります

しかし雲と強い向かい風に覆われ機体が減速

予想より通過時間がかかったことに気付けなかった機長は

山脈を抜ける前に北上してしまい峰と衝突

胴体は分離し尾部は墜落、滑落した機首で生き残った学生たち

まず怪我人を手当てし、機長席に向かうと(機長はすぐに死亡)

無線が使えないか確認します(使えない)

死者を(埋葬とまではいかない)雪山に並べ

 

機体から座席を全て外し、怪我人が横になれるスペースを作り

残された荷物から見つけた衣類などで、機体の隙間を埋めて外気の侵入を防ぎ

食料品は均等に配分、夜は身を寄せあい眠ります

普通こういう状況だったらパニックになると思うんですよ

でも彼らはいたって冷静に判断します

どうするべきか優先順位を考える能力に長けているし

それを実行するアイディアや技術をもっている

日本でいうなら(勝手なイメージです)

東北大学の学生が集まったようなもの

 

マルセロ(建築学部の25歳、ラグビー部キャプテン)

事故後も食料を配給したり作業グループを組織するリーダー

救助が来ることを信じ主張しています

ロベルト(医学部の19歳 、ラグビー選手)

負傷者の治療に当たるものの、向こう見ずで頑固な性格のため

時々チームメイトと対立してしまいます

 

ディエゴ(医学部の20歳)

意識不明のナンドが生きていると確認し命を救います

 

ナンド(22歳、ラグビー選手、一緒に搭乗した母親は死亡)

重度の脳震盪から回復し、重症の妹に寄り添います(のちに妹は死亡)

フィト(農工学部の24歳)

飲料水のための氷を溶かす装置や、雪目を防ぐためのサングラスを発明

フィトに同行した3人のいとこ

エドゥアルド、ダニエル・ストラウフ、ダニエル・ウリオステは

のちに重要な役割を果たすことになります

 

ロイ(工学部の20歳、ラグビー選手)

トランジスタラジオを発見し、皆に聞かせます



グスタボ(医学部の19歳、ラグビー選手)

負傷者の手当てとともに、亡くなった人々の記憶を記録し

彼らの家族に届けるための遺品を収集しています

 

ハビエル(煙草会社幹部の36歳)とリリアナ(34歳)は

いとこのパンチート(21歳、ラグビー選手 死亡)に招待された

4人の子供がいる夫婦

 

アントニオ”ティンティン”(法学部の19歳、ラグビー選手)

肋骨2本を骨折しながら探検家として、その体力でグループのため貢献する

10月20日 墜落から1週間

必ず救いはやってくると信じ、励まし合ってきましたが

食料は底をつき、口にするのは雪解け水だけ

(身体に悪いと知っていながら)座席の綿や革

靴ひもや煙草まで食べて飢えをしのごうとするものの

尿は真っ黒、思った通り体調不良を起こしてしまします

ついにロベルトが口にした究極の選択

それは死んだ友人や家族の肉を食べること

解体はフィトのいとこたちがしようと名乗りをあげます

 

乗客は全員カトリック教徒

「友のために命を捨てること以上に大きな愛はない」と

聖書に従って正当化したものの

ほとんどの仲間が抵抗を示したため、救助に望みを賭けることにします

10月23日 墜落から10日

ロイが飛行機の電線を使い即席のアンテナを作ると

ラジオから、捜索活動は希望がないと判断され終了

夏(南半球では12月)になってから

(遺体を発見するため)再開するというニュースが流れます

 

グスタボは、絶望し涙を流す仲間たちを

「これはいい知らせだ」と叫びます

「我々が自力でここから出ていくということだから」

その言葉に励まされたのか、意を決したロベルトは

ガラスの破片を持ち遺体に向かうと、肉のかけらを口にします

その姿を見た数人があとに続く

翌日にはさらに多くの仲間が人肉を口にします

 

その後の最もな功労者はフィトのいとこたちで

まず解体の現場は決して仲間に見せない

肉を天日干しし乾燥、食べやすくする

ついにはあれほと反対していたハビエルとリリアナ夫婦さえも

「聖体拝領」だと納得し、生きる道を選ぶのでした

10月29日

食事により体力を回復した生存者たちに笑顔が蘇り

団らんしていたその日の夕方、突然雪崩に襲われ

マルセロ、グスタボ、リリアナを含む8名が生き埋めになり死亡

 

雪に完全に埋もれた機体は酸欠状態

そこでナンドは金属のポールを見つけ、屋根に穴を開け換気し

さらに3日間閉じ込められた後脱出に成功します

しかしその頃には遺体の肉の全てを食べつくし

目玉や脳、さらには骨に残されたわずかな肉の破片を貪っていました

救助は来ない、なら行くしかない

ナンド、ヌマ、ロベルト、ティンティンの4人が救助を求め東に向いますが

(栄養失調による)足の傷の悪化でヌマはひとり機体に戻ることにし

 

残った3人は尾部を発見し、チョコレート、パン、ラム酒、タバコ

漫画や無線機を発見しキャンプします

翌日さらに東に進ますが、野宿で凍死しそうにな

尾部で見つけたバッテリーを持ち帰ろうとしますが重くて断念

結局吹雪の中機体に戻るのでした

12月11日 墜落から60日

(マルセロの強い勧めで一口は飲み込んだものの)

人肉を食することを拒み続けたヌマが餓死(推定体重25kg)

 

12 月 12 日 墜落から61日

パラド、カネッサ、ビジンティンの3人は再び出発

今度は西の山に登り始めます

アイゼンもピッケルもない、斜度45度あろうか雪壁を登り

ついに峠に立った時その先は下り坂、ナンドが叫ぶ

「ここまでくれば、海まで歩くぞ」

春の訪れ、新緑、新芽、川を流れる雪解け水

1219
牛の群れを発見

1220

食中毒(食肉が腐っていた)をおこし胃痙攣に陥ったカネッサが

川の向こう岸にいる馬に乗った地元民を発見

叫び、合図を送ります

 

1221日 残った仲間達が聞くラジオのニュース

 

1222日  歓喜とともにやってきた救援のヘリコプター

カメラマンを前に隠す人骨

 

12月23日  山に残った全員が救助

高山病、脱水症状、凍傷、骨折、壊血病、栄養失調の検疫と治療

真っ黒に汚れて痩せ細った体をシャワーで洗す

雪山を生き残ったヒーローとして扱われるエピローグ

ここで本作は終わりますが

1224日 生存者たちはチーズなどを食べて生き延びたと説明

1226日 救助隊に同行した山岳ガイドが遺体の一部を発見しリーク
新聞生存者人肉食によって生き延びたことを発表
1228日 ステラ・マリス大学で記者会見が開催
生存者たちはいかに生き延びたかの試練を伝えます
誰が彼らを責めることができましょう
その後、作家や実業家や学者になっても映画やテレビに出演し
公式ウェブサイトも開設されたそうです

 

 

【解説】映画.COMより

ジュラシック・ワールド 炎の王国」「永遠のこどもたち」のJ・A・バヨナ監督が14年ぶりに母国語であるスペイン語の映画を手がけ、1970年代にアンデス山脈で起きた遭難事故の実話をもとに描いた人間ドラマ。
1972年。ラグビー選手団を乗せてチリへ向かっていたチャーター機ウルグアイ空軍機571便が、アンデス山脈中心部の氷河に墜落した。乗客45名のうち生存者は29名。想像を絶する過酷な環境のなかに取り残された彼らは、生き延びるために究極の手段を取らざるを得ない状況に追い込まれていく。
事故機に搭乗していたラグビー選手団が所属するウルグアイのステラ・マリス学園に通っていた作家パブロ・ビエルチが事故から36年後に発表した著書を原作に、極限状態に置かれた人々の恐怖と葛藤、生への渇望と強い絆を描き出す。Netflixで2024年1月4日から配信。それに先立ち2023年12月22日から一部劇場で公開。

2023年製作/143分/PG12/スペイン・アメリカウルグアイ・チリ合作
原題:La sociedad de la nieve
配信開始日:2024年1月4日