「今は神様がよそ見をしている時間なの?」
原題は「Skyggen i mit oje」(私の目の影)
連日ロシアによるウクライナの軍事侵攻
時代も事情も違うけどオーバーラップします
国のトップの覇権や歪んだ思想のために
戦うのは若者、犠牲になるのは罪のない子どもたち
破壊され汚染される陸空海
指導者のくせに地球そのものの将来が危ういことさえ気付かない
物語のベースとなっているのは
イギリス空軍は捕虜になっているレジスタンスたちを救うため
”シェル(石油などのエネルギー会社)ハウス”を空爆しますが
一機のイギリス軍の戦闘機が学校の近くに墜落してしまい
その噴煙をゲシュタポの司令部だと勘違いした他の戦闘機が
次々と学校に爆弾を投下、誤爆だと気付きシェルハウスも攻撃
47名のシェルハウス職員(デンマーク人)
そして学校に通う86名の子どもたちと
39名のシスターや教師が犠牲になったのです
ハリウッド映画ではないので(笑)
爆撃シーンも市街戦も、脚本そのものはかなり地味
でもたった107分でここまでまとめ上げた手腕は見事です
結婚式に行く途中の娘3人を乗せたタクシーが
イギリス軍の戦闘機に誤爆され
それを目撃し口がきけなくなった少年ヘンリー
助けに求めにやってきたスヴェンという友人を
「シェルハウスに行け」と追い返す
HIPO(ゲシュタポ側の補助警察)のフレドリック
そのフレドリックがHIPOに殺される目撃する少女エヴァと
クラスメイトだというHIPO幹部の娘
同じ(フランスの)カトリック女学校に通う、ヘンリーの従妹リーモア
(医者の勧めで)リーモアの家に預けられたヘンリーも
彼女らと一緒に学校に通うことになります
子どもたちが無邪気ですね
でも戦時中だからみんなお腹を空かせているんですよ
で通学途中、魔女(このご時世に太っているから怖い)のパン屋でパンを買うんです
1個のパンを分け(そのままのほうが美味しいのに)聖水に浸して食べる
そして死ななかった、地獄に行かなかったと喜ぶんです
戦争も、人が死ぬのも、食べ物がないのも、みんな悪魔のせい
そう信じているから
そんな中、シスターのひとりのテレサは
神の存在にも、戦争にも、疑問を抱いていました
HIPOたちがレジスタンスに暴行する姿を見て
フレドリックを「悪魔」と呼ぶ
ある夜フレドリックに再会したテレサは、彼にキスをする
悪魔とキスをしたら地獄に行くのか
神の存在を確かめるために
しかしその行為はやがてフレドリックも悩ませていきます
当時のデンマークは連合国でも枢軸国にも加入しない中立的な立場で
ナチス政権に抵抗する「デンマーク自由評議会」(レジスタンス)と
親ドイツ側のHIPOが対立していました
欧米の文化の仲間入りになりたい人々と
ソ連時代のほうが良かったと思う人々が対立しているようなものです
そして親ロシアの多いウクライナの東側のように
デンマークでもドイツに近い地域ではドイツ的文化で公用語もドイツ語
(フレドリックもデンマーク語は文盲)
自分たちの言語や文化が侵されたくないという
気持ちがあるのはあたりまえ
だけどフレドリックもスヴェンも、かっては親友で
お互いの違いを認め合っていたのに、裏切り殺さなければならなかったのか
恐怖による支配、そして洗脳
でもどんなに力で支配しても、言葉巧みに騙しても
親たちが我が子を思う気持ちだけは変えられない
空爆された学校の前で、狂ったように我が子の名前を叫び続ける
母親の姿がいちばん身につまされますね
HIPOの隊長でしょうか、ナチスに加入しているとはいえデンマーク人
消火や人命救助の邪魔にならないよう親たちを劇場に集めます
そして(首から筆談用のメモを下げている)ヘンリーに
救助された子どもたちの髪の色、服の色、配送先の病院
聞けたら名前と年をメモして待機する親たちに知らせろと命令します
そのとき必死にもがくヘンリーからついに声が出る
「名前は?」
「名前は?」
「名前は?」
瓦礫の下敷きになった死体が我が子でないと知った時の
両親が目を合わせ安堵した顔
朝、お粥を残した娘に「食べなきゃ死ぬ」と怒鳴った父親の後悔
自分の子どもが生きていると、名前を呼ばれたときの歓喜
学校の地下では生き埋めになったテレサが
一緒に逃げた(でも姿は見えない)リーモアに声をかけています
幼い彼女は神様も、テレサが教えた「たとえ話」も信じている
でも口元まで水位が迫り、顎には鉄の棒が刺さって身動きがとれないという
「天国にいける?」とテレサに問います
救助のため、瓦礫の底に潜り込んだフレデリックが
地下の水を汲み上げようとしたときにはすでに遅し
リーモアを救おうとテレサは水の中に飛び込み(自殺とも思える)
同時に(イギリス軍の時限爆弾で)地下から煙が吹き出します
それは避難した少女たちが死んだという合図
そのときエヴァの母親はヘンリーを見つけます
そこでエヴァは家に帰ったと聞くのです
走る走る走る、アパートの階段を駆けあがる
やっと玄関を開けリビングに向かうと
そこに居たのは朝残した冷たいお粥をすするエヴァでした
腰を抜かし座り込む母親
彼女はちゃんと父親の言葉を聞いていたのです
「食べないと死ぬ」
生き残るために、食べる
どんなに不味くても、吐きそうでも、中身が何でも
それが戦争
今見るのは辛すぎるけど、今見ないといけない映画
いいかげんなテレビ番組や、コメンテーターにも
ただ戦争や災害がなくなることを願うだけで、何もできない自分にも
腹が立つ