白いリボン(2009)

原題は「Das weiße Band

ここでの「白いリボン」とは

”純潔に育つように”と願いをこめて(間違いを犯した)子どもに

親が結ぶもので、一方で子どもにとっては

ひとめでそれとわかる屈辱的なもの

1913年、ドイツ北部のプロテスタントの村

小学校の教師(の年老いた声)によって物語は語られます

 

村で唯一の医師が落馬し大けがをし、町の病院に運ばれます

原因は邸宅に向かう道の木と木の間に、針金が張られていたからです

その日、帰宅が遅くなった子どもたちに牧師が説教をしていました

針金を張って医師を怪我させたのは

牧師の子どもたちではないかと臭わせるシーン

 

実際にハネケの最初のアイディアは、子どもたちが日常生活の中で

自分たちの説いている思想を裏切る人々(大人たち)を罰していく

というものだったそうです

牧師は子どもたちを鞭で折檻し

長男のマルティンに純潔を保つ印として白いリボンを着けることにします

さらにマルティンの目の下にクマができていたことから

牧師は彼が性に目覚めたと察し、自慰は廃人になって死ぬ行為だと脅すと

ベッドに紐で手を縛り付けて眠るよう命じます

その翌日、村を支配する男爵の製材所で働いていた小作人の妻が

(納屋の2階の床が朽ちていたため)転落死してしまいます

小作人が男爵に何も言えないのに腹を立てた息子のマックスは

収穫祭の日、男爵のキャベツ畑をめちゃくちゃに荒らします

さらに男爵の幼い息子ジギが製材所の納屋で暴行を受け

逆さ吊りにされていたのが見つかります

男爵は最初マックスを疑いますが、彼は畑を荒らしたことで警察に自首していて

留置所にいたため無実が証明されます

その後、何者かによって納屋が焼かれると

マックスの父親が首を吊って自殺していました

(男爵からのプレッシャーに耐え切れなかったのだろう)

 

教師は男爵の双子の赤ちゃんの世話に雇われた

エヴァに思いを寄せていましたが

ジギが暴行をうけたことで、エヴァは仕事をクビにされてしまいます

教師はエヴァを復職させるため、奥様に頼みに生きますが

奥様は度重なる不幸に、子どもたちを連れ実家に帰ったあとでした

エヴァに結婚を申し込むため、エヴァの家に行く教師

彼女の父親は「娘は若い(17歳)」

1年後も気持ちが変わらなければ、結婚を許すと約束してくれます

ある日の牧師の聖書の授業、生徒たちが騒いでいたため

責任は年長の長女にあると牧師は娘を他の生徒を前で激しく叱り

教室の後ろに立たせます

恥をかいた娘は父親を恨み、彼の書斎に忍び込むと

父親が可愛がっている小鳥をはさみで殺害し、死骸を十字にして机に置くのでした

犯人が誰かを察する父親

そのとき、末っ子が小鳥が死んで悲しいだろうと

自分が手当てした野鳥を父親に差し出します

まだ幼く、世の中が憎しみで溢れていることを知らない

医師の息子が行方不明になり

ジギの事件が思い出され、村は大騒ぎになりますが

父親に会うためひとり町に向かったことがわかり、少年は保護され

息子を心配した医者は一足早く退院してきます

医師は仕事の助手でもある助産婦の未亡人に

身の回りの世話をしてもらっているうえ

(自然ななりゆきで)性的な関係もありました

 

しかし医師が勃起しなくなると、医師は未亡人に飽きたと

「お前は醜く汚く皺だらけで息が臭い」

「妻が死んで代わりの慰めが欲しかっただけで 牝牛でもよかった」

「黙って死んでくれよ」とまで言います

「黙って」すなわち未亡人は医師の秘密を握っているということ

夜中に姉がベッドからいなくなったと、姉を探しに来た息子

娘は父親と一緒で、診察台の上で涙を流し

「ピアスの穴を開けてもらっただけ」と泣いている弟に説明します      

 

「前にも開けたけど穴が塞がったから」 

(父親が長らく入院中だった、ということだろう)

「もう一度開けたら痛かったの」

(あらゆる意味でハネケの脳内変態は本物だな)

そして狭くて閉鎖的な田舎では、いくら秘密にしようとしても

こういうことって人々の勘が働いてしまうんですね

しかもインテリで、人の命を助ける聖人面した医師がやっている

子どもたちは医師を成敗しようとしたのです

男爵の奥様と子どもたちが戻ってくると

男爵の家令(執事)の息子たちから呼ばれるジギ

奥様はジギを心配しますが

新しい子守は「久しぶりですから」と遊ぶことを許します

 

すると案の定、家令の息子のひとりが

ジギの笛を奪い彼を池に突き落とします

ジギは助けだされましたが、奥様はこの村も封建的な夫も変わらないと

男爵と離婚し、子どもたちを連れて出ていく決意をします

(別居中に知り合ったイタリア人の銀行家を選んだ)

そんなとき教師は家令の娘から「怖い夢を見る」

私の見る夢は正夢で、ジギに起こったことよりもっと怖いことが       

”知恵遅れ”(未亡人の息子)を襲うと相談されます

そしてその通り、未亡人の息子が両目を潰されて発見されます

教師は警察に相談し、警官は娘に「誰から聞いた話か」と迫りますが

娘は最後まで答えませんでした

 

すぐに第1次大戦が勃発し、エヴァとの結婚を早めようと

彼女に会いに行くため男爵から自転車を借りた教師

すると未亡人が「犯人がわかった」から警察に行くと

無理やり教師から自転車を借りていきます

不審に思った教師が”知恵遅れ”の様子を見るため未亡人の家に行くと

ドアには鍵がかかり、窓は雨戸で閉ざされていました

そこに牧師と家令の子どもたちも「心配だから」とやって来ました

知恵遅れ”と仲が良いいわけでもなく、仲間外れにしていたのになぜ

 

そして医師が落馬したときも

ジギが襲われたときも牧師の子どもたちを見たことを思い出し

牧師に子どもたちが事件にかかわっているのではないかと伝えると

牧師から家族の名誉を汚したと、教師を「刑務所に入れてやる」と

逆に脅されてしまいます

未亡人と”知恵遅れ”の息子はそのまま消え

医師も姉弟とどこかにいなくなってしまいました

 

その理由を村人たちは

知恵遅れ”は実は医師の息子で、中絶に失敗し”知恵遅れ”になり

病気だったという医師の妻は、医師と未亡人に殺されたのだと噂します

教会でバッハのコラール(讃美歌)を歌う子どもたち

彼らは罪人の子に(力では大人や権力者には敵わないので、その子ども)に

キリストの受難を与えようとしたのかも知れません

教師は1917年の初めに徴兵され、終戦後は父親の跡を継ぎ仕立て屋を開業

二度とこの村の事件に触れることはなかった

村人たちと再び会うこともありませんでした

 

結局、善にも、悪にも、宗教にも深く係わらず

自分だけ幸せになれれば良いと思ってる

そしてほとんどの人が、教師のような人間だという皮肉



 

【解説】映画.COMより

「ピアニスト」「ファニーゲーム」などで知られるオーストリアの鬼才ミヒャエル・ハネケによるミステリー。第1次世界大戦直前の北ドイツを舞台に、教会や学校の指導でプロテスタントの教えを守って暮らしてきた小さな村の住人たちが、次々と起こる不可解な事故によって不穏な空気に包まれていく様子をモノクロ映像で描きだす。カンヌ国際映画祭パルム・ドールゴールデングローブ賞外国語映画賞をはじめ多数の映画賞を受賞。

2009年製作/144分/G/ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア・ドイツ合作
原題:The White Ribbon
配給:ツイン
劇場公開日:2010年12月4日