わたしは光をにぎっている (2019)

タイトルは、山村暮鳥(ぼちょう)の詩

「自分は光をにぎっている」から


自分(わたくし)は光をにぎっている
いまもいまとてにぎっている
しかもおりおりは考える
この掌(てのひら)をあけてみたら
からっぽではあるまいか
からっぽであったらどうしよう
けれど自分はにぎっている
いよいよしっかり握るのだ
あんな烈しい暴風(あらし)の中で
掴んだひかりだ
はなすものか
どんなことがあっても
おゝ石になれ、拳
この生きのくるしみ
くるしければくるしいほど
自分は光をにぎっている

再開発で消えゆく東京下町の商店街を

ドキュメンタリー映像と、フィクションを織り交ぜて描く

いかにもシネフィルが作りました、というような映画

ざらついた画質、セリフを抑えた作り、強いメッセージ性

映画を商業目的ではなく、芸術、記録作品として撮る「才能」

生まれもっての「天才肌」を感じました

失礼ながら監督の中川龍太郎を知らなくて

調べたら詩人でもあるんですね、しかも若い

中山や小津や溝口も20代から傑作を撮っています

久々に邦画界に現れた逸品、大切に見守っていきたいと思います

両親を早くに亡くし、長野の湖のほとりにある小さな民宿を経営する

叔母と祖母に育てられた20歳になる澪
祖母が入院、さらに民宿を老朽化で畳むことになり

澪は父の友人で、銭湯「伸光湯」を営む三沢京介を頼りに上京します

近所のスーパーで「時給985円スタートで」働き始めますが

澪は要領が悪いうえ、口下手で挨拶もロクにできない

女子高生のバイト、七海にいつも助けてもらっています

七海が試験前だから休ませてくれと店長に頼むと

(澪が仕事ができないため)忙しいからと断られてしまう

帰り道、澪にキレてしまう七海

澪はスーパーを早々に辞めてしまいました

東京の生活にも馴染めず、ホームシック

そんなとき祖母から電話が来て

「目の前のできることからひとつずつ」

「できないことよりできそうなことから」

「小さなことでもいいから」 と励ましてくれました

そこで澪は京介の「伸光湯」を手伝うことにします

浴場の掃除、窯の焚き方を教えてもらい、やがて番台に立つ

少しずつですが常連客に馴染み、言葉を交わせるようになります

レストランで働くエチオピア

映画監督志望の銀次

OLの美琴、美琴の彼氏でラーメン屋の稔仁

ミニシアター「キノ・シネマ」のスタッフ、ジャスミン

美琴の元カレの井関

「キノ・シネマ」で完成した銀次のフィルムを見る

劇場の裏側を案内してくれる銀次

銀次はここの映写室を借り寝泊まりしています

美琴は転勤が決まり、井関とも稔仁とも離れてしまうことを嘆き

男性と付き合ったことのない澪は

「澪ちゃんは話せないんじゃなくて、話さない」

「そうすることで自分を守ってる」 と言われてしまいます

落ち込む澪を見つけた、エチオピア人が自分の店に連れて行き

エチオピア式のおもてなしをしてくれました

料金を受け取らないエチオピア人、お礼に銭湯に来てくださいと誘う澪

しかし翌朝京介が「今日は休むわ」と言い出し、外出の支度を始めます

澪は「私がや浴場を掃除、窯を焚き、のれんを出しました

暗くなり、稔仁のラーメン屋でひとり飲んでいる京介

べろべろに酔っ払い、あちこちに貼っている再開発のポスターを

破いては棄てていきます

帰ってきた京介は澪に立ち退きを迫られていることを告げま

「わかってたことだけ

追い打ちをかけるように祖母の訃報が入り、京介と長野にる澪

祖母の言葉を思い出している

「言葉は必要な時に向こうからやって来るものなのよ」

「形あるものはいつかは姿を消してしまうけれど 言葉はずっと残る」

「言葉は心だから 心は光だから」

「伸光湯」を畳む日までは澪の面倒を約束する京介

やがてその日がやって来ます

「伸光湯」にも「キノ・シネマ」にもラーメン屋にも

商店街に貼られていく閉店の知らせのチラシ

澪は商店街の人たちを呼んで映画鑑賞会をしました

大将、女将さん、買い物客、飲み会

長年ここに住んでいた人たちの笑顔、笑顔、笑顔

最後のお湯、男湯から京介のすすり泣く声が聞こえる

澪はひとり「伸光湯」を後にします

ショベルカーで壊されていく商店街

1年後、ちゃっかりタワーマンションに住んでいる京介(笑)

ベンチでコンビニおにぎりを食べながら、チラシを見ていると

思わずはっとします、「伸光湯」と似た銭湯

求人募集に行ったのかと思いましたが(笑)

そこにいたのは番台をしている澪でした

舞台の「伸光湯」は東京都清瀬市に実在(映画公開の1か月前に廃業)

商店街は実際に再開発が迫り立ち退きが決定してい葛飾区立石

ドキュメンタリーパートに出演している立石商店街のみなさんだそうです

最後にはノスタルジックな気持ちが襲ってきました

人も物も、やがていつかみんななくなってしまう

いま目の前にあるものを大切にしよう

世の中はこんなに愛おしいもので溢れてるのだから



ひさびさの「お気に入り」にします



【解説】映画.COMより

モスクワ国際映画祭で受賞した「四月の永い夢」や、東京国際映画祭に出品された「愛の小さな歴史」「走れ、絶望に追いつかれない速さで」などで注目される若手監督・中川龍太郎が、ひとりの若い女性が自分の力で自分の居場所を見つけていく過程を描いたドラマ。NHK連続テレビ小説ひよっこ」やauCM出演で知られ、「おいしい家族」など出演作の公開が続く松本穂香が主演を務めた。20歳の宮川澪は、両親を早くに亡くし、祖母と2人で長野県の湖畔の民宿を切り盛りしていたが、祖母が入院してしまったことで民宿をたたまざるを得なくなる。父の親友だった涼介を頼りに上京し、涼介が経営する都内の銭湯に身を寄せた澪は、都会での仕事探しに苦戦し、次第に銭湯を手伝うようになる。そして個性的な常連客たちと交流し、徐々に東京での生活に慣れてきたある日、銭湯が区画整理のため閉店しなければならないことを知った澪は、ある決断をする。

2019年製作/96分/G/日本
配給:ファントム・フィルム