原題は「SUSPICION」(疑惑)
ヒッチさんのいつもの美女虐めモノ(笑)
疑心暗鬼にとらわれたヒロインを演じたジョーン・フォンティーンが
ヒッチ作品では唯一アカデミー女優賞を受賞
(セルズニックのお気に入りだったんだろうな)
ヒッチさん登場は47分前頃、ヒロインが通う本屋の前
婚期を逃した良家のお嬢様リナ(ジョーン・フォンティーン)は
列車で読書している時、「煙草の煙がキツイ」と他の車両から乗り込んできた
三等席の切符しか持っていない男に小銭を貸してくれないかと頼まれ
男は車掌にリナが持っていた切手で追加料金を支払います
リナは新聞の記事で、男はイギリス社交界で有名なプレイボーイ
ジョニ―(ケイリー・グラント)だと知ります
一方のジョニーは取り巻きの女性たちから、リナが将軍の娘だと聞き
早速リナを誘い、キスするそぶりをしたり、胸のくぼみを褒めたり
変な髪型にしたり、「オサルさん」とあだ名で呼んでみたり
矢沢永吉の「24時間もたない恋の~」(「YES MY LOVE」1982) じゃないけど
こんなの旅先の恋、1日だけのトキメキにふさわしい男
だけどリナあっという間に本気になっちゃうんですね
しかも父親の「リナは結婚に向かない」の言葉でプライドに火が付いた
ジョニーと駆け落ち同然に電撃入籍
素敵な新居に引っ越すのですが
そこがまさかの友人からの借金で用意した家
おまけに一文無しでギャンブル好き
リナはジョニーに働くよう提案しますが
父が結婚祝いで贈ってくれた、伝統ある高価な椅子まで
競馬の掛け金にするため、軽々しく売ってしまいます
嘘の証拠を掴んでも、巧妙な言い訳に騙されてしまうリナ
ジョニーの親友ビーキー(ナイジェル・ブルース)はそれがジョニーだと言う
ジョニーは、相手の喜ばせかたを知っている
万馬券を当てたと、妻には宝石と毛皮のコート、可愛らしいムク犬
メイドにまで高級な襟巻の贈りものを用意するのです
ムク犬が物語に関わることはないのですが(笑)
ヒロインやメイドの後をついて回る姿は何とも可愛らしい
でもそれも結局嘘で、大金はリナが働くように勧めた
従弟の会社のお金を横領したものだったのです
疑い出したら切りがない、だけど愛しているから信じたい
どこまでが嘘か真実かわからなくなってしまうヒロイン
だけど、ジョニーとビーキーが不動産会社経営の問題でパリに旅立つと
警察がやって来て、ビーキーが死んだと知らされます
彼はイギリス人男性との賭けに負け、ジョッキ一杯のブランデーを飲み
中毒死してしまったのです
カフェの外国人店員は、ビーキーが一緒にいたイギリス人を
「アイボウ」と呼んでいたと評言
そんな名前の男を知らないかと詰め寄ります
ビーキーはジョニーのことを常に「相棒」(Old bean=兄弟)と呼んでいました
ジョニーがビーキーを殺したのでは?
しかもジョニーは自分の死亡保険までも調べていたことがわかります
リナはビーキーの事件が、あまりに友人の推理作家の作品の内容に近いため
推理作家を訪ねていきます
すると彼女は、味も痛みもない毒があると教えてくれます
しかもその毒をジョニーについつい教えてしまったと言うのです
やはり伝説的なミルクのシーンが怖い
(ミルクに電球を入れて光らせている)
絶対これ毒入ってるヤツじゃんと確実に思わせる(笑)
このままでは殺される、実家に帰ろう
車で送るというジョニー、断崖脇の道路を猛スピードで走る
突然開くドア
急ブレーキで停まった車から逃げようとするリナ
ジョニーはドアが開いたから助けようとしただけだと逆ギレ
保険金は不動産会社経営の担保にできるか保険会社に確認しに行っただけ
だけどその日ビーキーが死んでしまった
僕が一緒だったらビーキーは死なずに済んだのに・・
ああ、あなたはパリには行っていなかったのね
毒の話は(横領の件で)自殺するつもりだったのね
信じてあげなくて、ごめんなさい
ふたりは再び固く結ばれハッピーエンドなわけですが
あと10分映画が長かったら、また新たな疑惑が生まれていたな(笑)
(当時のハリウッドで、スターに殺人犯を演じさせるのはNG)
ちなみに原作のラストは、妻は夫の意図を知りながらも別れず
夫のため毒入りミルクを飲んで死んでしまうそうです
ケイリー・グラントはかなりの好演だと思う
甘いマスクで、お調子者で、楽天的な嘘つき
だけどその穏やかさの裏にある、悪知恵と陰鬱さを隠し切れない
しかも実際、こういうマインドコントロールが
世の中に意外と多くあるから共感できる
あなたも最初は小銭を貸しただけ
最終的に大金をだまし取られていませんか
【解説】allcinema より
原題が示すように、夫に対して“疑惑”の念に取り憑かれた妻を描いたヒッチコックの心理スリラー。原作はフランシス・アイルズの『犯行以前』。ずさんな財産管理の仕方や、懸命に毒薬について調べている夫の姿を見て、妻の疑念は日々増していく。そして、家を出ようとした妻を乗せたまま、夫の運転する車は断崖目指して突き進む……。映画は、完全にJ・フォンテイン(アカデミー主演女優賞受賞)演ずる妻の主観で丹念に描かれているため、彼女が次第に被害妄想となり夫に殺されるかもしれないという感情にいたる過程が非常に理解しやすいものになっている。C・グラントが夫に扮し、曖昧な芝居を見せているのも効果的。'87年にバリー・レヴィンソン製作によって「サスピション/断崖の恐怖」としてリメイクされた