三十九夜(1935)


原題は「THE39 STEPS」(39階段)

ジョン・バカンの「TheThirty-Nine Steps」(1915)が原作 

 

ヒッチさんのお得意の「巻き込まれ型」サスペンスで

イギリス時代の最高傑作と言われ

ヒッチファンからも人気の作品だそうです

 
 
カナダ人外交官のハネイはボードビル劇場で

なんでも記憶してしまう芸人”ミスター・メモリー”の

ショーの途中の銃声で、劇場から避難します

 

ハネイに助けてほしいとアパートまで着いてきた謎の女性

彼女は国際スパイで、英国の極秘情報を盗もうとする敵から

情報を守るための任務で命を狙われているといいます

 

いきなりスパイだと言われても

冗談にしか思えないし、信じられない

妄想症の女かも・・

 

しかし、翌朝彼女は何者かにナイフで刺し殺されてしまいます

彼女が残したのは「13階段」という言葉と

スコットランドのアル・ナ・シェラという場所の地図と

敵スパイ団のボスは片方の手の「小指がない男」ということだけ

 

女殺しの疑いで指名手配されたハネイは

謎を解決し容疑を晴らすためアル・ナ・シェラに向かいます

 

制作年の1935年にナチス・ドイツが軍備を始めたり

イタリアがエチオピアに侵攻したりと

ヨーロッパには不穏な空気が漂っていた時代

イギリスの軍事機密を他国に持ち出されないよう阻止するというテーマは

当時の人々の共感を呼んだでしょう

 

「小指がない男」の使い方もいい

 

とはいえ、まだ戦争に対する警戒心もそこまで強くなかったのか

醜い亭主の宿で、若妻とイケナイ雰囲気になったり

列車で会った女性パメラと手錠で繋がれ、一泊し

試行錯誤で濡れたストッキングを脱ぐとか

そこそこのエロと(笑)、コミカルさが加わります

 

終盤はもう、ほのぼのと恋が始まる雰囲気プンプンで

スパイ映画のリアルさを求める人にとっては

マイナスポイントになるかな、と思うのですが

 

極秘情報のオチがまさかの芸人

「ミスター・メモリー」だったのには

意外にも、最後まで気が付きませんでした(笑)

 

ちなみに、市川崑監督夫人の和田夏十(わだなっと)さんの

ペンネームは、本作の主人公を演じた

ロバート・ドーナットからお借りしたということ

 

才能ある映画人で、そして女優好きの監督を夫を持つ妻である

ヒッチ夫人のアルマ・レヴィルと

どうしても重なってしまいますね



 

【解説】allcinemaより

ヒッチコックが最も敬愛する作家という、J・バカンの小説(ドラマチックなアイデアでさりげなく語るのが特色で、それは即ち、ヒッチコック・タッチを決定する要素でもある)の映画化。カナダから帰国したばかりの外交官ハネイ(ドーナット)は寄席で記憶術師・Mr.メモリーのショーを見て、謎の女に救いを求められ自室へ連れ帰るが、彼女は何者かによって殺され、彼は逃亡を余儀なくされる。真犯人(分かっているのは左手の小指が無いことだけ)追及にわずかな手がかりだけを頼りにスコットランドへ列車で向かう彼は、車内検閲の急場を同席した女(キャロル)へのキスで逃れようとするが……。なんとか目的の土地に着き、農家に一夜の宿を求めるが、夕食の席で、彼が新聞に載った逃亡犯と認めた妻と見交わす視線をピューリタンの夫に妙に誤解されて、出ていくことになる(そこで妻に着せられた外套が、その後逃げ込んだ名士の家で意外な活躍をしてくれる)。二転三転あって、ある公会堂の講演会に紛れ込んだハネイは、演者と間違われ、出鱈目のスピーチをぶつ。と、そこへ先の車中の女が。彼女は刑事を呼び、警察署にハネイと共に向かうが、それがニセ刑事で、手錠でつながれた二人は山中へ逃げ出し、そのままの姿で宿屋に戻る。スパイ組織が背後にある事件の全容を知った彼は、辛くもロンドンへ戻り、再びMr.メモリーの寄席へ決定的な答えを求めて赴く。この自らの職業意識に忠実な芸人の口を衝いた言葉に、全てが急速に終結に向かうシークェンスの爽快な直截さは、ヒッチならではの世界。その文体がアメリカ時代に完成されつつある傑作だ。なお、59年の「三十九階段」は本作のリメイク。