原題は「UN FLIC」(警官)
ジャン・ピエール・メルヴィルの早すぎる遺作
享年55歳
始まってすぐ引き込まれる画の美しさ
メルヴィル・ブルー
サングラスに鍔のあるソフト帽子と
トレンチコートのハード・ボイルドスタイル
セリフと無駄を削ぎ落とした演出に酔う
1台のダッジに四人の初老の男が乗っている
ハンドルを握るルイ・コスタ(マイケル・コンラッド)
助手席には首領株のシモン(リチャード・クレンナ)
後部座席にマルク・アルブイ(アンドレ・プース)と
ポールウェベル(リカルド・クッチョーラ)
閉店まぎわの銀行に客を装って入るシモン右手にはコルト
続いてマルクが自動小銃を構え窓口の出納係から金を奪い
ポールが金庫の金を袋に金を詰させる
一瞬の隙を見て、出納係が手際よく札束を投げつけ警報ベルを鳴らし
護身用のピストルを取りだしマルクを撃ちます
マルクの自動小銃も火を吹き、出納係が倒れる
4人は車で逃げ、 現金はひとまず空地に埋め
マルクを診療所に連れて行きます、助かる見込みは五分以下
そしてパリの家に戻るのです
その夜、警察署長のエドアール・コールマン(ドロンさま)は
密告屋のギャビーから、ある組織と税関がグルになり
麻薬をリスボン特急で運ぶという情報を手に入れました
そして「銀行襲撃事件」を報じた夕刊を手に
シモンの経営するナイト・クラブにやってきます
さすがドロンさま、警察署長だからといって
決して善人なわけではなく(笑)
シモンの愛人カティ(カトリーヌ・ドヌーヴ)を自分の情婦にし
ときどき逢引きしているのです
シモンもそのことを知ってるようで、愛人を金の代わりに
賄賂として渡しているようなものなのでしょう
それからシモン、ポール、ルイの3人は看護人に変装し
捜査から逃れるため、マルクを診療所から連れだそうとしますが
そこの受付嬢がかなりお堅い人間で、いくら書類がそろっていても
危篤で移動できないと言い張ります
その隙に看護婦になりすましたカティがマルクの部屋に行き
マルクに注射を打ち殺してしまいます
そして次に3人はベンツに乗りボルドーに向かい
そこからヘリで午後7時59分発のリスボン特急を追いかけます
特急では運び屋マチュが麻薬をスーツケースに詰めていました
シモンはヘリから特急に降り、トイレでガウンに着替え
いかにも紳士のように運び屋の部屋に向かう
本当に磁石で鍵が開くのかどうかわかりませんが(笑)
アイディアは逸品
麻薬の詰まったスーツケースを奪い再びヘリに戻る
銀行強盗もですが、ここらへんの描写がとても丁寧で
どんなトラブルがあっても彼らは冷静で絶対慌てないのです
私生活では全く共通点のない強盗グループなのですが
軍で特殊な訓練を受けた、昔の戦友ではないかと思わせます
そうでもなきゃ、こんな高度なヘリの運転ができるわけがない(笑)
麻薬を盗まれた運び屋のほうも、悔しがるそぶりも見せずに
麻薬の入っていたスーツケースを車外に投げ捨て
淡々と証拠隠滅を図るリアル、たとえ失敗してもこれがプロの仕事だよ
パリでは死亡したマルクの身元が判明し、ルイを逮捕します
シモンとポールはルイは絶対口を割らないと信じますが
コールマンは密告屋のギャビーを殴りつけ脅したように
彼がいかに理不尽に暴力的な男か知っています
ナイト・クラブにシモンを訪ねるコールマン
シモンはポールに、ルイが喋ったことを
電話で知らせようとしますが間に合いませんでした
ポールは銃身自殺をし
ホテルの前でスーツケースを持ち、カティの迎えの車を待つシモンを
その場でコールマンは射殺します
助手がポツリと「撃つの早すぎやしませんか」
シモンは丸腰だったのです
その光景をただ呆然と見つめるカティ
彼女がショックなのは愛人が死んだことだけでない
シモンを失うことは毛皮のコートも、宝石も失うこと
コールマンからは何ももらえない
それでも、共犯にもかかわらず彼女を逮捕しなかったのは
コールマンなりの愛しかただったのかも知れません
メルヴィル×ドロンさまといえば
「サムライ」や「仁義」のほうが評価は高いですが
見やすさと、わかりやすさはこちらが上だと思います
ドロンさまとドヌーブのキスシーンだけでも
ファンを陶然させるのには十分(笑)
シャルル・アズナブール監修のエンディングテーマも評判通りGOOD
列車とヘリが模型なんて気にしません(笑)
【解説】KINENOTEより
銀行砲撃に端を発し、かたい友情の絆で結ばれながらも、対決の運命に向っていくパリ警察の鬼刑事と、夜のパリに君臨する顔役の二人の男と、その蔭で生きる哀しい女の運命を描く、フィルム・ノワール。製作はロベール・ドルフマン、監督・脚本・台詞・編集は「仁義」のジャン・ピエール・メルヴィル。撮影はワルター・ウォティッツ、音楽はミシェル・コロンビエ、美術はテオバール・ムーリッスが各々担当。出演はアラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーヴ、リチャード・クレンナ、リカルド・クッチョーラ、マイケル・コンラッド、ポール・クローシェ、アンドレ・プス、シモーヌ・ヴァレール、ジャン・ドザイなど。