バグダッド・カフェ(1987)




パリ、テキサス」というタイトルの映画もありましたが
アメリカには世界のあらゆる都市と同じ地名があるそうです。

アメリカ・モハヴェ沙漠のはずれにあるバグダッド
車の故障が原因で夫婦喧嘩をしてしまったのでしょうか。
ひとりトランクを持ち夫から去ってしまう妻・・

このオープニングからジュベッタ・スティールが歌う
「CALLING YOU」への導入部分は何度見ても素晴らしい。
本当に鳥肌もの、感動しますね。

そんな夫人が酷暑のなかたどり着いたモーテル。
そこの女主人のブレンダはいつも不機嫌でヒステリックでした。
頼りにならない夫、出来の悪い息子に、遊び呆けている娘
赤ちゃんの世話、客のあまりこないカフェ
何もかもが自分の思うとおりにならない生活なのです。
この裕福そうな異国の太った女性、ジャスミンが気に入りません。

でもジャスミンは超マイペースな女でした(笑)
勝手にモーテルは掃除するし
カフェのお手伝いに、ブレンダの赤ちゃんの世話までしてしまう。
ジャスミンがいればなぜか息子のピアノの腕は格段に上達
手品を覚えては客に披露
やがてカフェは大繁盛していきます。

ああ、これは夢とか希望の物語なんだな。

擦れてしまった心、ボロな住まい、期待外れの家族。
誰かに助けてほしい・・・

ジャスミンはそんな生活を変えてくれる
幸せを運んでくれる救世主、妄想の女性。

「仲良すぎ」と去る女刺青師
彼女だけは現実主義者なのでしょう。
自由を愛し、自分の身の丈を知っているのです。

こういうストリーよりも雰囲気で見る作品は
好き嫌いがわかれると思いますが
私はどちらかというと好きです。

その好きな最大の理由はたぶん
こんなバグダットカフェのようなモーテルに
泊まって生活してみたいと思うから。

世間とか、家族とか、現実から
時には逃避してみたいことも
誰にでもあると思うのです。



【解説】allcinemaより
監督P・アドロンが、「シュガーベイビー」に続き、女優M・ゼーゲブレヒトと組んで創った、砂漠に芽生えた女と女の友情の物語。アメリカ、ラスベガスとロサンゼルスを結ぶ道筋にあるモハヴェ砂漠のはずれ。そこにある、取り残された様な寂しげなモーテル“バクダット・カフェ”。ここをきりもりしているのは黒人女のブレンダだ。役に立たない夫、自分勝手な子供達、使用人、モーテルに居着いた住人たちにまで彼女はいつも腹を立てていた。そんなある日、ひとりの太ったドイツ女がやって来た。彼女の名はジャスミン。大きなトランクを抱え、スーツを着込み、砂埃の道をハイヒールで歩いてきたこの奇妙な客に、ブレンダは不快な表情を隠そうともしなかった。だが、この彼女の登場が、やがてさびれたカフェを砂漠の中のオアシスに変えてゆく……。冒頭、不安定なアングルで始まるキャメラ、何とも言えない不思議な色合いの映像、そんな中で繰り広げられるこの二人の物語は、観ている内に気持ちが暖かくなっている様な、妙な魅力を持つ素敵な作品。加えて、公開当時大ヒットとなったジュベッタ・スティールが歌う主題歌“コーリング・ユー”が、この映画の持つ雰囲気にぴったりマッチしており、映画の味を何倍にも膨らませると同時に、乾いた砂漠に奇妙な表情を与える印象的なモチーフとなっている。