紙の月(2014)




「お金が紙で架空なら、あなたが求めたものも架空」


滋賀銀行9億円横領事件(1973年奥村彰子(当時42歳)9億円)
栃木県の足利銀行2億円横領事件

1975年大竹章子(当時23歳)2億1000万円)
大阪の三和銀行(現三菱東京UFJ)横領事件
1981年伊藤素子(当時32歳)18,000万円)
三大銀行横領事件がモデル

共通点は女が男に貢ぐために横領




舞台はバブルも弾けた1994

梅澤梨花(宮沢りえ)は、勤務先「わかば銀行」で

パートから契約社員になり外回りの営業をまかされるようになります

面倒な独居老人の平林(石橋蓮司)からもイキナリ大きな契約を取り

上司からも少しは認められた様子

家庭ではやさしい夫(田辺誠一)と穏やかな日々を送っていました


そんなある日、平林の孫である大学生の光太(池松壮亮)と再会した梨花

彼と逢瀬を重ねるようになってしまします

そして夫の単身赴任をいいことに、客のお金を横領し

光太と贅沢三昧の日々を送るようになるのです




1994年当時は、私も主人公と同じような職場に勤めていました
女性は本当に年齢と共に窓口からどんどん奥に移動させられます(笑)

今の若い人には信じられないかも知れませんが

上司も顧客も女性に対するセクハラ・パワハラは当たり前で

女性が若くないという理由だけで

「肩たたき」(退職勧告)的発言までされてしまうのです


そしてWindows95さえ発売されていない時代(笑)

伝票など何かの記録を探し出す時には

膨大な紙の資料の中から探し出さなければいけませんでした




ヒロインの横領がバレたのは

たまたまベテラン事務員の隅(小林聡美)

次長と不倫していいところだけをいただいておいて

結婚退職したちゃっかり娘、相川(大島優子)のミスを探していた時に

平林に返したはずの200万円の伝票を見つけたためでした

そして隅は他の顧客からも梨花が横領をしていたことを突き止めます


小林聡美さんがうまいですね、まさしく行かず後家のベテラン行員

彼女がヒロインをやったほうが、よかったような気もします

大島優子さんもいい、毒っけのあるエロカワが彼女の味




原作は角田光代さん、原作は未読ですが

彼女が描きたかったのは、横領する女性としない女性の

違いではないかと思います


自分が贈ったペアウォッチを忘れたかのように

夫が誕生日に腕時計をプレゼントする無神経さを描いたりしていますが

そのことが彼女が夫を軽んじた言い訳にはなりません


キリスト教系の女子高でタイの子どもたちに募金していたことも

自分が「施し」する満足感の理由を

キリスト教の教えで正当化しただけです





そしてなぜ「施し」することが、「貢ぐ」ことが

こういう女にとって快感なのか

それは相手を支配した気持ちになれるからだと思います


愛するペットのワンちゃんに高級な洋服を着せたり

ペット専用の高級カフェで、食事やデザートを与えるように

愛情を注ぐという麻薬を、若い男に覚えてしまうのです

そのうえに、生きている実感を大金を使うことで得ようとする


しかしよほどの金持ちでもなければ、そんな生活はできません

目の前には大金、偽の受け取りを客に渡したり

痴呆の老人を騙していく梨花

それでもまたすぐ、お金に困ってしまうのです




横領する女でも、詐欺師でも

こういう人間は親切で、仕事ができて

他人から信用される才能に長けているのです


最後には逃げ出し、反省するのかといえばそうではなく

騙した人間に悪かったなどという気持ちは微塵ももっていません


エンディングへ向かう荒唐無稽さには、いっきに引き込まれました

ただラストのタイでのシーンは蛇足でしょう

これを「いい話」にしてはいけません(笑)


あんな女、タイに行ってもまた

若い男に貢いでいるのが本当ですから




【解説】allcinemaより

NHKでもドラマ化された角田光代の同名ベストセラーを「トニー滝谷」「オリヲン座からの招待状」の宮沢りえ主演で映画化したヒューマン・クライム・サスペンス。ごく平凡なアラフォー主婦が、若い男との出会いをきっかけに巨額の横領に手を染めてしまう欲望の暴走とその顛末を丁寧に描き出す。共演は池松壮亮大島優子小林聡美。監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八。
 1994年。エリート会社員の夫と2人暮らしの主婦、梅澤梨花。銀行の契約社員として外回りの仕事を任されるようになった彼女は、顧客の信頼も得て、上司からも高く評価される。しかし家庭では、夫との冷めた夫婦関係に空しさを抱き始めていた。そんなある日、外で顔見知りの大学生・平林光太から声を掛けられる。彼は、梨花の顧客・平林孝三の孫だった。これをきっかけに、若い光太との逢瀬を重ねるようになり、久々に気持ちが浮き立つ梨花。ある時、化粧品売り場で持ち合わせが足りないことに気づいた彼女は、客から預かった金に手を付けてしまう。すぐに戻すから大丈夫と自分に言い聞かせる梨花だったが、それが転落へと向かう暴走の始まりだった。