「恋をすると 男は女の望む男になろうと努力するが
女はより魅力的な女になろうとする」
原題も「SEX, LIES AND VIDEOTAPE」
当時26歳だったスティーブン・ソダーバーグの(監督/脚本)デビュー作にして
カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞(ジェームズ・スペイダーは男優賞)
サンダンス映画祭観客賞
ンディペンデント・スピリット賞では作品賞/監督賞を受賞した
低予算映画(推定予算120万ドル/約1億4千万円)
このタイトルからして、公開当時はどんな官能的な映画かと(笑)
恥じらいをもって劇場に足を運んだものの(うそつけ)
肩透かし、どちらかといえば哲学的な内容でした
主な登場人物は4人だけ
アン(アンディ・マクダウェル)と弁護士の夫ジョン(ピーター・ギャラガー)
アンとジョンはセックスレスで子どももいません
ジョンはアンの妹シンシア(ローラ・サン・ジャコモ)と
日常的に浮気しています
ある日ジョンの大学時代の友人グラハム(ジェームズ・スペイダー)が
アパートを探すため数日間、アンとジョンの家に泊まりにきます
やがてグラハムのアパートが見つかり、アンがそこを訪ねると
女性の名前の書いたたくさんのビデオテープがありました
それはグラハムが出会った女性たちが赤裸々に自分のセックスの
経験や嗜好について語ったものでした
そのことをアンが妹のシンシアに話すと
興味を持ったシンシアはグラハムに会いに行き
ビデオテープの女性たちのように自分を撮らせます
しかも彼の目の前で自慰行為までし撮影させたというのです
それを知ったアンは激しい嫉妬に駆られ
自らも撮影して欲しいとグラハムに要求します
やがてグラハムからカメラを奪い、今度はアンがグラハムを撮影し
彼に過去の体験を告白させるのです
夫の浮気というテーマは珍しくない
珍しいのは不感症の女とインポテンツの男を描いているというところ
アンが不感症なのは、セックスが好きじゃないから、気持ちよくないから
夫が女が喜ぶと思い込んでいるただ突きまくるだけのセックスより
言葉や知性、心と直結したものに感じるタイプなんですね
グラハムがEDになったのは大学時代の彼女、エリザベスが原因
彼女と別れたのが自分の言動のせいだという罪悪感から精神を病み
仕事も、女性との肉体関係を持てなくなってしまった
(遺産か生活保護かはわからないが生活費には困っていない)
その代わり、女性からの初めてのセックスの体験やその時どう思ったか
女性本来の性への欲求を知りたいと思うようになり
その告白を収めたビデオテープを見た時だけ感じるようになります
(これも一種の視姦趣味だがな)
シンシアだけなく、妻のアンまでがビデオに撮影された
激怒したジョンはグラハムのアパートに行き、彼を殴り
かってグラハムの彼女だったエリザベスと寝たことを暴露します
そしてアンを撮影したビデオテープを再生する
そこに映っていたのは自分の知らない妻でした
エリザベスと別れたのは、傷つけた原因は自分じゃなかった
彼女が純粋で貞淑だと信じていたのは妄想だった
コレクションのビデオテープを全て破壊し、庭に投げつけるグラハム
これまで妻も、愛人も、友人も、得意先の顧客までないがしろにした
自意識過剰でご自分様優先だったジョンは
当然の結果、職場で重要な案件から外されてしまいます
アンはジョンと離婚し
やはりジョンと別れた妹と和解することを決意
そしてグレアムの待つアパートに向かうのでした
もう清楚な白いワンピース姿の潔癖症な主婦じゃない
ジーンズにTシャツで颯爽とドライブ、これが私の本当の姿だと
若い男女の恋愛や性に対する繊細さがよく描かれていて
ストーリーの割に後味は悪くなく、むしろ爽やか
洗練されているセリフもいちいちいい
そしてセックスに対しては、巧い下手のテクニックではなく
同じ解釈を持った人と一緒になるのがいちばん幸せだという教え
まさかこの監督が将来「オーシャンズ」シリーズを撮るとは(笑)
ソダーバーグの最初にして最後の傑作でしょう
【解説】allcinema より
俊英スティーヴン・ソダーバーグの第一回監督作品。アメリカ南部の町、バトン・ルージュに住むジョンとアンの夫婦は、社会的にも安定した理想的なカップルである。しかしその裏では、ジョンはアンの妹シンシアと肉体関係を結んでいた。そんなある日、ジョンの旧友グレアムが彼ら夫婦を訪れたことから、彼らの欺瞞に満ちた生活が崩れ、内面に潜んでいた自己が次第に浮き彫りにされてゆく……。タイトルに掲げられた、セックスと嘘。人間が生を受けてから死に至るまで、時に悩まされ時に快楽を得る複雑なこの2つの事象と、ヴィデオカメラを象徴とした我々現代人との関係を、繊細な心理描写と深淵なる映像で描いた傑作。ジェームズ・スペイダー、アンディ・マクダウェルら出演陣の演技も逸品。