ファイブ・イージー・ピーセス(1970)

「あなたのキスは 喉が渇いたときの水」

原題の「Five Easy Pieces」(5つの簡単なもの)は

ピアノの教則本のタイトルのこと

60年代後半から70年にかけて若者に流行した

社会のシステムを疑い、自己否定してすべてを捨てて放浪に出る

またはヒッピーや学生運動、ロック、ドラッグといった

カウンターカルチャーに憑りつかれてしまう

そういう生き方を「ドロップアウト」というそうです

主人公を演じるジャック・ニコルソン、ボビーは

カルフォルニアの石油採掘場で働くその日暮らしの労働者

ウェイトレスのレイ(カレン・ブラック)と同棲しています

ある日、女遊びから帰るとレイから妊娠したと告げられ

レイは結婚を望みますが、ボビーにその気はありません

そんなとき義姉のキャサリンから父親の容体が悪いので

一度ワシントン戻ってきてほしいと連絡が入ります

仕方なくレイを連れ実家に向かい

途中からはアラスカに向かうヒッピーの女二人をのせてドライブ

女たちを下すと、モーテルにレイを残しせひとり実家に向かいます

実はボビーの実家は大金持ち

楽家のエリート一家だったんですね

ボビーもピアノの才能があり、かっては将来も約束されていました

なのに家出して、定職にもつかずいい年をしてブラブラしています

兄の妻キャサリンとはなぜかウマがあい

(レイを連れてこなかったのは彼女に見せたくなかったのだろう)

関係ももってしまいます

キャサリンもボビーと同じ、自由な精神の持ち主なんですね

ただボビーとは違い器用で賢い

面白くもないババアの説教を何時間でも聞く忍耐力があるし

音楽界や家族という狭くて堅苦しい枠の中でも

自分らしく生きる術を知っているのです

ボビーを待ちかねたレイがやって来て

見るからに下品な彼女にでも、家族同然に親切にする

ボビーはそんなキャサリンに「一緒になろう」と告げますが、彼女の答えは

「自分も他人も愛せないあなたが、どうして愛を求められるの」

すなわちあなたに「結婚は無理」というものでした

そろそろ潮時、家を出ようと決めたボビーは

車椅子で口の利けなくなった父親を散歩に連れ出し

心の内を告白します

家を出て旅しているのは 真実を探し求めているからじゃない

俺がいると必ずその場の空気が悪くなるから 逃げ出しているだけなんだよ

俺がいないと全てがうまくいく

親族の中には、必ずひとりはこういうやついますね

借金つくったり、事件に巻き込まれたり迷惑ばかり

言うことだけは立派でも、結局は誰かに尻拭いしてもらっている

自分でもわかってる、でもどうにもならない

ファミレスのメニューの頼み方ひとつだけでも人格がわかる

カメラはラズロ・コヴァックス

レイと実家をあとにしたボビーはガソリンスタンドに寄り

レイにコーヒーを買って来るように頼みます

そこに木材を運ぶトレーラーが入って来て

レイが乗せてくれるよう頼むと

運転手は向かうのは極寒の土地だと言います

アラスカを目指すヒッピーの女は言っていた

そこが汚れのない場所だから

ならば俺も汚れのない場所を目指してみよう

トレーラーに乗りこみ、レイを置きざりにして去っていくボビー

レイが妊娠したことを知っているにもかかわらず

いいえ、レイが妊娠したからこそ逃げたのです

自分をわかってくれる天国が、どこかにあると信じて

 

ドロップアウト」すなわち

自分の満足だけを求める、夢追い人の話

 

 

【解説】ウィキペディアより

『ファイブ・イージー・ピーセス』(Five Easy Pieces)は、1970年のアメリカ合衆国のドラマ映画。アカデミー賞四部門(作品賞、主演男優賞、助演女優賞脚本賞)にノミネートされた。撮影期間は1969年11月10日から1970年1月3日まで

石油採掘場で肉体労働者として働く男、ボビー。彼は元々は音楽一家の出身であり、いわゆる上流階級の人間であった。しかし、無気力で中途半端な生き方をしたために音楽の道に進むわけでもなく、毎日を何となく過ごしていた。面倒くさいしがらみを嫌い、自分を愛してくれる恋人のレイすら鬱陶しく感じており、すぐに浮気をした。ある時、渋滞に巻き込まれた彼は車から降りて前方のトラックへと走り、その上に積んであったピアノを弾いて見せた。上流社会からはドロップアウトしていても、その片鱗は心の中に残っていた。レイが妊娠していることを知ったボビーは結婚するのを面倒に思い、勝手に家を飛び出す。そこで彼は姉のティタを訪ね、父親が大病を患っていることを告げられる。翌日、職場の同僚エルトンから妊娠させたのだから男として責任をとるべきであると説かれたものの、ボビーは全く理解を示さず、仕事を辞めてしまう。一人で帰郷しようとしたが、レイを哀れに思った彼は一緒に連れて行くことにした。道中で乗せた二人のヒッピーから、アメリカはゴミに埋もれて住むところがないからアラスカに移住するという話を聞かされる。ボビーはレイを一旦家の近くのモーテルに残し、一人で帰宅する。三年も家を空けていたが、家族はみな暖かく彼を迎えた。そこで兄カールの弟子で恋人でもあるキャサリンに惚れたボビーは彼女と関係を作り、二人で家から逃げ出そうと提案するも、拒絶されてしまう。一週間後、ほったらかしにしていたレイが勝手に家へやって来て下品な振る舞いをし、ボビーは憤りを感じた。そして、ティタと父親の介護人であるスパイサーが情事に耽るのを見かけ、スパイサーに突っ掛かるが返り討ちに遭う。翌朝、ボビーは車椅子生活をしている父親に対して、「俺がいるとそこが悪くなるから、俺はそこから逃れようとするだけだ。疫病神と同じさ」と涙ながらに語る。レイと共に家を発ち、ガソリンスタンドに立ち寄ったボビーは、偶然見つけた停車中のトレーラーの運転手に、自分も一緒に連れて行って欲しいと告げる。そしてトレーラーは走り出し、ボビーはレイに何も言わないままどこかへ去る。